現状

「……なるほどな」


 エルフに自分の体を揉ませながら書籍へと目を通していた僕は眉を顰めながら苦渋に満ちた声を漏らす。


「……これは、良いか。もう大体わかった」


 メイドたちに集めてもらった十冊にものぼる本の数々。

 そのうちの九冊を読み切った僕は残り一冊には手を伸ばさずに今、読み終わった本をサイドテーブルへと置く。


「ちゃんと読めているの?」


 そんな僕に対してエルフは率直な疑問を叩きつけてくる。


「読めているとも」


「本をペラペラ捲っていただけじゃない。本は内容にしっかりと目を通さないと読んだことにはならないのよ?」


「紙など、一目見ればその内容を頭に叩き込んでそのまま情報も精査出来るだろう」


「えぇ……?」


「凡人と天才は違うということだ」


 瞬間記憶能力。

 それは前世から持っている僕の技能のうちの一つであり、良い面も悪い面も持たしてくれたものだ。

 これがあれば九冊の本を一瞬で読破することくらいはそこまで難しくはない。


「ふぅー」


 僕はため息を一つ漏らしながら天を仰ぐ。

 ルリック家の現状ははっきり言って、想像以上に悪かった。原作において、良くノアは悪役貴族として主人公の前に立ちふさがれるだけの力を蓄えられたなと言った感想である。

 問題を簡単に列記すればこんな感じになる。


 長らく食糧生産が不作であり、飢饉が散発している。

 辺境伯ではあるものの、面する他国の国境が長らく友好的な関係を築く国家であるがために他の貴族から存在理由を疑われて軽んじられている。

 元々は主要産業の一つであった鉱山経営が事実上の破綻。理由は鉱山を占拠した強力な竜によるもの。

 領内にある強大な魔力が多く生息する大魔の森林において魔物の数が増加し、森からもあふれ出してきている。

 領内に流れる川はこれまた魔物によってその水質が汚染され、使い物にならなくなっている。

 魔物の手によって危険ばかりが増えて魅力が消える領に訪れる者は少ないばかりか移住するものいるような現状で人手が足りない。

 肝心の当主は長らく戦闘の才能に恵まれた者が生まれておらず、有効な対抗策を打てなかった。

 

「完全に詰んでいやがる」


 現状のルリック家の状態はもう詰み。

 完全なるチェックメイトとでもいうべき状況である。


「……僕を周りが大事にする理由がわかったよ」


 ゲームにおけるノアは普通に強く、その才能は公式による折り紙付き。

 恐らく僕はルリック家にとって、ようやく生まれた念願の戦闘の才に溢れた子供ということだろう。


「喜べ、エルフ」


「何?」


「仕事が出来たぞ」


 僕が暮らす街。

 そこがいつまでも崖っぷちというわけにもいかないだろう。

 僕は現状を打破するために動くことを決意するのであった。

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