望み

 やるべきことは決まった。

 己が今後も暮らしていくことになるであろう街を発展させ、今後も長く続くようにしていく。


「……それをして、何の意味があるだろうか」


 僕は次に己が考えるべきことを小さく漏らす。


「……ふぅー」


 前世の僕は恵まれた生まれだったと思う。

 食べるに困ったことはなく、日米独ソの冷戦に巻き込まれて多くの災禍を経験する国に生まれたわけでもない。

 間違いなく僕は満ち足りた側の人間であった。


 だが、自由はさほどなかった。

 親が諜報員という産まれ故に僕もその仕事に巻き込まれることも多く、秘密保持の観点から異性と深い関係を持つことさえ禁じられた。

 僕の異性との性交渉は教育の一環で行われたものだけであり、プロ相手に僕もプロになるための行いだ。

 常に移動していたから友達もほとんどいなかったし、何処かを好きに見て回ったりもなかった。

 

「……だからこそ、ゲームとかが好きだった」


 リアルから離れた別世界。

 僕が諜報員であり、多くの制約があることを忘れさせてくれる二次元には良くハマった。


「自由、か……なぁ、エルフ」


「何よ」


「お前、良い体しているな」


「ちょっ!?いきなり何を言っているの!?というか、貴方の年齢で性に目覚めるのは流石に速すぎないかしら!?」


「冗談だ」


 僕は体を両手で庇いながら声を上げるエルフに冗談だと吐き捨てる。


「お前にはしばらくの間、森の方で魔物狩りをしてもらう」


「……しばらく?」


「僕が大人になれば別だ。それに関しては、お前がどれだけ使えるかによる。有用であると判断したら、お前が嫌がることはしないさ」


「……餌のぶら下げ方が上手いことね」


「そりゃどうも」


 そうだ、餌だ。

 何をするにしても大事なのは目標、目的。己の望みである。

 異世界の、それも己が良く知るゲームの世界に僕は転生した。

 そんな僕はこの世界でどう生きるべきであろうか?


「決めたぞ」


 悩むまでもない。

 僕はこの世界で自由に生きる。前世とは別のものを欲すのだ。

 己の好きなように、己の快楽を追い求めよう。

 幸運なことにそれが出来るだけの立場として生まれてきた。

 何もかもを求められる立場で生まれながら、何もかもを望まないようなつまらない人間ではない。

 

「力を」


 自由とは力だ。

 前世で人よりも多くの不幸と不条理を見てきた。


「力を我が手に」


 自分の好きなように生きるには、何かを失った泣かないようにするには、力を追い求めるしかない。力があれば奪われない。

 自由に、満ち足りた生活を送ることができる。

 僕は強くなろう。

 そして、この領地すらも強くしよう。

 ルリック家を頂点へと運び、僕がその頂に立つ。


「ふっ」


 それこそを僕が生涯が望みとしよう。

 すべては己が為に。


「何を言っているのかしら……さっきからぶつぶつと」


「うるさい、性奴隷に落とすぞ」


「えぇ、ちょっと待ってっ!?……えっ、ちょ、待ってぇー!」


 僕はせっかくのムードを壊しやがったエルフに言葉を吐き捨てながらこの部屋を後にするのだった。

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