自由

 魔力を顕現化させられること。

 これに一体何の意味があったのか、それはわからない。

 だが、これを見られた後の僕の扱いはこれまでと一変した。

 これまでは何だかんだと言われながら拘束され、自由にさせてもらえなかった。

 それでも今は完全に自由。好きに街へと出て行ってもいいし、この屋敷の中にある本へと自由に目を通して良いということになったのだ。


「まぁ、それで行くならやっぱり外だよな」


 いきなりメイドから完全に自由であると言われた僕は流石に困惑したが、それでもせっかく得られた自由を満喫しようと思う。

 ということで、やっぱりまずは異世界の街並みを見ることからだよね。

 本などで情報収集するのは後でもいいよね。


「おっちゃん、串焼きを一本くれ」


「あいよ!」


 メイドから貰った金で買った屋台の串焼きを食べながら僕は特に意味もなく街をぶらぶらと散策していく。


「案外、食事のレベルは高いな」


 僕はしっかりと血抜きもされ、味もしっかりついている串焼きを頬張りながら異世界の街並みを歩いていく。

 異世界の街並みから推察される文明レベルとしては中世くらいだろうか?

 街並みの雰囲気はすごく中世における欧州のようだった。

 だが、だからと言って中世のパリのように道端に排せつ物が捨てられていることはない。衛生管理はしっかりとしていそうである。


「……ゲームでも見たな」


 僕のいるこの街。

 ルリック領の中心地と言える街、ダスクはゲームにも出てきた都市のひとつである。 

 しっかりとこの街もゲームで見た通りの街になっている。


「何か、面白いことあったかな?」


 僕の年齢としては現在、五歳。

 作中開始の時刻は今から大体十年後くらい……この時期で何かあったかなぁ?


「あぁ、そういえばちょうどあの頃か」


 作中の設定を思い出しながら頭を回していた僕は一つの出来事について思い出す。


「確か、リレーシアを捕まえた奴隷商が滞在していた時期か」


 街を特に意味もなくぶらついていた僕は一つの目的地を定め、そちらの方に向かって足を進める。


「ここかな?」

 

 僕がやってきたのは少しばかり大通りから離れた位置にある奴隷商が集まっている一つの露店市。

 

「いるじゃん」


 奴隷商並びに奴隷が多く立ち並ぶ露店市を見て回る僕は一つの奴隷の前で足を止める。

 僕の視線の先にいるのは一人の奴隷エルフである。


「おやおや、お客様。これはこれはお目が高い。このエルフに目をつけますか」


 一人の奴隷の前で足を止めた僕に対して、露天商が作りものの笑顔を浮かべた奴隷商が近づいてくる。


「こちらのエルフはつい最近仕入れたばかりであり、なんと処女という特別製品にございます。こちらの方ではあまり教育を出来ておらず、色々と拙いところが目立つであろう商品にはございますが、それでも一から染めていく楽しさも楽しめる商品にございます」


 僕の前にいるエルフの名はリレーシア。

 エルフとして、特徴的な長い耳に肩の長さに揃えられた揃えられた緑の髪。

 そして、美しい緑の瞳がよく映える少女だ。

 彼女はゲームにもヒロインとして登場するキャラであり、僕も実に良く知るキャラの一人である。

 最終的に露天商の元から脱走して主人公の元に転がり込むようなキャラではあるが、その前にこの街に奴隷として滞在していた過去がある子だ。

 多分だけど、ノア・ルリックとの戦闘時に街を案内するためだけにつけられた設定だと思う。


「このピアスは?」


 そんな実に美人と言えるエルフであるが、その彼女の中でも特に目を引くのがピアス。鼻のセプタムにつけられた鼻ピアスだろう。


「……非常に、見苦しいのですがこのピアスは私共では外せない仕様になっておりまして」


「そうか」


 ふむふむ、設定どおりだな。

 ゲーム中でもこのリレーシアはセプタムに鼻ピアスをつけた衝撃の姿で登場する。

 エルフにこのピアスをつけた運営は正直にトチ狂っていると思うが、このキャラを人気ランキングトップにした日本人も中々にトチ狂っていると思う。

 

「よし、それじゃあこの子を買おうかな。いくら?」


 せっかく目の前にいるゲームのヒロイン。

 買うしかないと判断した僕は財布を取り出しながら奴隷商へと告げるのだった。

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