第47話


 未曾有の自然災害と魔物の出現。

 各国は、これに対応をする必要に迫られた。


 そして、エルザス王国でも、魔物討伐のために軍を派遣することが決定した。

 けれど、それは、北部にあるダンジョンかもしれないものを目指すモノではなく、国内の巡回のためだった。


 未だに実態がよく分かっていないノウスフォール地方の北部には、手を出さずに、今は国内の治安維持を最優先にする。

 まだ、確認されていないが国内に魔物が侵入していたら、それを排除する。

 国外に手を出すことはしない。国外に兵を出す余裕はない。

 魔物が最初に現れたとおぼしき場所の確認は余裕がある他国に任せる。

 それが、現在のエルザス王国が出した結論だった。


 そして、その国内を回る軍に、エルザス王立魔法学園と王立学院の生徒も加わることになった。


 領地に帰っている生徒が多く、現在も、魔法学園に残って通っているのは、およそ半数の90人程度。

 その全クラス、全学年を集めて、一斉に説明が行われた。


 年明けに起きた災害の復興のため各地に、兵士を派遣しているため、軍は兵士が不足している。

 そのため、生徒達も、学園の教師と一緒にパーティーを組んで、国内を回る。

 魔物がいるかどうかの巡回をして、対応出来ると判断をすれば、その場で魔物を倒し、難しいと判断すれば、その魔物を監視しながら、即座に、近くの軍に連絡をして、その軍の討伐に参加する。


 学園を卒業するために、毎年最終試験が課されるが、それを実施する余裕がないため、この魔物討伐で、功績を上げた人間は、試験に合格ということにしたのだ。

 もちろん、功績を上げられなかった人間に何らかのペナルティーがあるわけではないが、現在、卒業資格のある人間と来年の卒業を迎えるモノは必ず参加することが義務づけられた。

 まだ、卒業の時期ではない生徒に関しては、志願した者だけが参加し、功績を上げた者には、最終試験の免除が約束された。


 聖戦の終盤の時と同じように、魔物の討伐という、任務が生徒に課された。その時は、一部の戦力になると認められた生徒だけだったが、今回は卒業試験の一環としての参加だ。


 もちろん生徒を動員することに対する賛否は国の中でも、学園の中でもあった。

 けれど、実際には、多くの生徒が、魔物の討伐と言う、憧れたシュチエーションに心を躍らせて、その決定を喜んでいた。


 学園に残っている生徒は、この災害後の状況に置いて、実家に戻る必要がないと判断された生徒達だ。

 まだ、学生に過ぎない子供を呼び戻してまで、災害の対応をしなければいけなかった家に比べて、余裕のある家に産まれ、その教育を受けて来たた彼らは揃って気位が高い。 


 魔物に対して持っている印象が、世代によって大きく変わっていた。

 聖戦以前の常に魔物の恐怖に怯えていた時代を知る人達。

 聖戦を通して多くの仲間を魔物に殺されながらも、魔物と戦い続けて来た人達。

 多くの魔物を倒して、聖戦を終わらせた人達。

 そして、聖戦以降の魔物の存在を見たことがない、聖戦による人類の勝利しか知らない人達。


 この世代は、聖戦が起きていたころはまだ、学園にも通っておらず、実戦というモノを知らないので、伝説の勇者や聖戦で活躍した英雄の物語に憧れ、あわよくば、自分自身もそんな存在になりたいと夢見ていた。


 彼らにとって、魔物とは、恐怖を感じる対象ではなく、自分自身の力を誇示し、技能を示すためのまたとないものだった。

 物語の主人公である、自分たち貴族が魔物ごときに負けるとは微塵も思っていなかった。


 イアルは、そんな彼らを眺めながらも、自分自身もこの魔物討伐のための巡回を少し楽しみにしていた。

 年が明けてから、各国を襲った災害は、イアルに、ジョアンが予見していたその時が近づいていることを感じさせていた。そこに、魔物とおぼしき生物の出現だ。

 イアルは、もうすぐ、ジョアンの、そして、フィリペの予想通りに、異世界から勇者が来ると思っている。

 イアルとしては、エルザス王国が、魔物が出現した場所について調べてくれれば都合がいいと考えていたが、さすがにそこまでは望めなかった。

 国力の低下が著しいエルザス王国としては、しょうがない判断だとイアルも考える。


 それでも、今、この世界に何が起ころうとしているのか見定めるためにも、この魔物討伐への参加はイアルにとっても都合が良かった。

 この世界に起こる何かについて、少しは分かることがあるかもしれない。


 けれど、それには問題があった。

 今回の討伐に加わるためとして、生徒達はパーティーを組む必要があった。

 当たり前だが、未熟な生徒が単独や少数で行動させると、それだけ死ぬリスクが大きくなる。学園として、生徒を無意味に殺すようなことは許されないので、当然の処置だ。

 そして、今回は、最低4人以上でのパーティーを義務づけられていて、参加必須の上級生はもしも組むことが出来なければ、強制的に、パーティーに割り当てられるが、イアルのような、任意参加の生徒は自分でパーティーを組むことが出来なければ参加することが出来ない。


 平民出身で、最初の試験で悪目立ちしたイアルと組みたがる上級生がいるとは思えなかった。

 参加ずる生徒が少ないと思われる同級生は、上級生以上にイアルとは絶対に組んでくれない。

 いや、もしかしたら、水クラス以外のクラスの人は組んでくれるかもしれないが、やはり可能性は低い。


 学園に残っている生徒は上位の貴族がほとんどだ。

 彼らにとっては、平民とパーティーを組むなど、許容出来ない罰ゲームである可能性が高い。

 イアルは自分と同じ平民である他の人のことを考える。

 ウルマについては、平民出身と言っても普段から貴族と一緒に行動しているので当てにならない。

 トーマスとサハラは任意参加だが、わざわざ参加するとは思えなかった。

 なので、最後に、一番頼りになりそうなフィルはどうするのだろうと縋るように、彼女を捜そうとしたイアルは、自分のことを見つめる視線に気がついた。


 ヴァルターは、いつも通り、イアルのことを心配してくれているのだろう。

 マリーネやテーニアがちらちらとイアルの方を見ているのも、イアルがどうするのか気になるからだと分かる。

 ただ、アウグストだけは、何故イアルのことを睨みつけるように、見ているのかが分からなかった。

 あの試験の後は、不自然なほどに接触をしてこなかったアウグストだが、久しぶりにイアルの顔を見たから条件反射的に睨んでいるだけなのか、他に何かあるのか。イアルには分からなかった。

 イアルは気にはなったがアウグストの存在を無視することに決める。


 フィルをみつけると俯いて、どうするか考えている様子だった。

 その様子を見るに、パーティーを組む当てがあるとは思えず、どうしようか頭を悩ませるイアルだった。

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