第50話
魔物討伐に向けたパーティーを決める参考にするためのバトルロイヤルの日になった。
これには、別に討伐に参加する意志がなくても、腕試しで参加することが出来る。逆に、討伐の参加は決めていても、自分の実力を誇示する必要がない人は参加しない。
なので参加者は30人程度だ。
イアルが顔を知っている中では、ルーカスやオルガン、フィルなどが参加している。
一方で、マリーネやテーニア、アウグストなどは参加しないようだ。
新入生で参加するのはイアルだけだ。
「おい、クロト。お前何を考えてるんだ」
ジャンが殴りかからんばかりの勢いでイアルのことを掴む。
イアルは振り払ったりはせずに、じっと耐える。
「新入生の、ましてや平民のお前が参加するなんてどういうつもりだ」
「力を試したいと思いまして」
「それなら、俺が今すぐに、お前に現実というものを教えてやる。新入生で唯一参加するお前が無様な姿を見せたら、俺たち全員の評価が下がりかねないだろ」
イアル一人の結果が他の生徒にまで影響を与えることはないだろう。もし、何も出来ずに終わっても、平民が力をわきまえずに、勘違いして出場したと思われて終わるだけだと思うがジャンの考えは違うようだ。
でも、引き下がることは出来ない。
「私は、もしもパーティーを組むことが出来たのならば、魔物討伐に向かいたいと思っています。そのためにも、今回のバトルロイヤルには参加させていただきます」
「ちっ、ならば、俺も参加して真っ先にお前のことを倒してやる」
どうやら、ジャンも飛び入りで参加することになったようだ。
イアルとしては、どちらでもよかったが、今回は、精霊術師であることがバレない範囲で全力でやるので、もしも、ぶつかることになったなら、ジャンには屈辱を味わってもらうことになる。
バトルロイヤルについての説明は特に何もなかった。
全員が、同じ場所からスタートしバラバラに散る。
それから、5分後に合図があるので、その合図で開始。
制限時間は一時間。魔法がクリーンヒットしたら失格。
それだけだ。
後は、四肢切断のような相手に、重傷を与える魔法が禁止されているぐらいでルールといえるモノはなく自由だ。
1人で戦ってもいいし、徒党を組んでもいい。
イアルが入場口に向かうと、一斉に視線が向けられる。
その視線だけで、場違いなイアルを歓迎していないのがよく分かった。
だが、イアルは気にすることなく、平然と自分の準備をする。
イアルを倒すと張り切って、参加を決め、イアルとほぼ同時に、来たジャンは、イアルに向けられる視線を自分たちに向けられていると勘違いをして、怯んでいる。
イアルは、呆れたようにそのジャンのことを見ていたが、声をかけても、逆効果であることは明らかなので、放っておく。
そこで、さっきの視線も平民のイアルにではなく、新入生のイアルに対しての視線だったのかもしれないと思った。それなら、ジャンが今も怯えているのも納得が行く。
ならば、何か声をかけるべきかもしれないと思った。
「ジャン様」
「なんだ」
呼びかけてから、なんと声を掛けるか決めてなかったことに焦る。
「よろしくお願いします」
「・・ああ、覚悟しておけ」
何のひねりも出てこなかったが、ジャンの中で、怯えよりもイアルを倒すという気持ちが勝って普段に戻った様子なので安心する。
他の参加者達を見ると、向こうもイアルのことを敵意を持って見ているので目が合ってしまうので、端の方のできるだけ目立たないところで待機しているようにする。
そんな、イアルに声をかけてくれたのはフィルだ。
「クロト」
「フィルさん」
「お互いに全力を出せるように頑張りましょうね」
「はい」
フィルはそれだけ言って、他の人の方に行く。
イアルと同じ平民のフィルだが、イアルほどは敵意を持たれていないようだ。
強制参加の上級生だからなのか、フィルがうまく学園で立ち回っているのかどちらだろう。
それでも、好意的な視線はほぼない。フィルのこれまでの学園での苦労が分かる。
それでも、周りに悪意ばかり持たれて、敵しか作れておらず、自分が、うまくなじめていないことを自覚しているイアルは、後でコツがあるなら教えてもらおうと思った。
イアルとしても、他の生徒と特に仲良くしたいという気持ちはないが、自分から敵をつくるつもりはなかったのだ。
仲よく出来なくとも、敵対的なまま卒業というのは悲しい気持ちになりそうだ。
そんなことを考えていると試験が始まった。
既にほとんどの人はチームを組んでいて、単独で動いている人は少ない。
イアルは、単独なので適当に動こうと思ったが、何故かジャンがついてくる。
「ジャン様、どうかしましたか?」
「言ったはずだ。開始すぐに、お前は俺が倒すと。お前も、うろうろせずに、大人しくしていろ」
確かに言っていたが、まさか、スタート前から着いて来ると思っていなかったイアルは何か暗い気持ちになる。
ジャンは、本当に、開始と同時に攻撃をして来るに違いない。
ジャンの中で、イアルが抵抗もせずに、最初の一撃で失格になるのは決まっているのだろう。
出来るだけ、他の人がいないところでジャンと2人出始められる場所に向かおうとするが、イアルは、カモと思われているので、行動は見張られている。
イアルだけでなく、ジャンも弱いので、自分の力を試すチャンスと思っている人と単に平民や新入生が気に食わない人両方から狙われている。
なので、イアルは諦めて、全方位から狙われるど真ん中に構えることにする。
ジャンがようやく覚悟を決めたかばかりに満足そうな顔をしているが無視をする。
ごぉーん
合図の鐘の音がなった。
と、同時に、ジャンが攻撃を放とうとする。
が、イアルの水魔法に見せかけて精霊術の方が速い。
「
「!!」
イアルの攻撃に遅れてジャンが魔法を放つ。
「
しかし、先に攻撃されたことで焦ったその攻撃は、ほとんどがイアルから外れていたし、残りも、イアルの攻撃に呑まれて届かない。
そして、イアルの攻撃は容赦なくジャンに当たった。
「馬鹿な・・」
ジャンは信じられない様子で、呆然としている。
これで、ジャンは失格だ。
「失礼します」
イアルは、ジャンに背を向けて、他の人の方に向かおうとした。
「お、おい待て、クロ・・」
ジャンが何かを言いたそうにしていたが、周りの声がそれを打ち消す。
「
「
「
「
イアルを一斉に複数の魔法が襲う。
様子を見ていた、イアルを見張っていた人間の魔法だ。
だが、イアルがこれほど速くジャンを倒すと思っていなかったのか、それとも、そもそも、イアルとジャンが手を組んでいると思っていたのに仲間割れしたとでも勘違いをしたのか、わからないが、どちらにしろ狙いが甘い。
「
イアルは、自分に向かってくる魔法のうち、当たりそうな物だけを魔法に見せかけた精霊術で防ぐ。
「なっ」
「馬鹿な」
「ありえない」
「っ、ま、まだだ」
各所から驚きの声が上がる。
それでも、中には次の攻撃をしようする人も居た。
けれど、イアルが先に、攻撃が放たれた方向に向かって、特に狙いをつけずに、無作為に攻撃を放つ。
「
「そんな・・」
「こんなの・・」
「化け物か・・」
そんな声が聞こえて来たが、当たった手応えがあった。全員を確認出来たわけではないが、相手からの攻撃の気配はない。これで、イアルの周りに居た人達は一掃出来ただろうか。
そう思い、戦いの音がする方向へとイアルは移動を開始する。
魔法の音を頼りに移動したイアルが次に向かった場所では、ちょうど戦いが終わったところだった。
フィルが、恐らくパーティーを組む予定だった人と一緒に脱落していた。彼女達を倒したのは、向かいの3人組だろう。
彼らは、1人で現れたイアルに驚いているが、すぐに、体勢を整える。上級生らしく、戦いに慣れているようだった。
だが、イアルは、まったく気にすることなく、相手に向かって歩いていく。
ろくに警戒した様子も見せずに、向かってくるイアルに、囮だと疑ったのか、慌てて、周りを確認している。
イアルは、自分への注意が減ったと感じた時には、術を発動する。
「
「なっ」
「クソ、防御wp」
「
慌てて風の防壁が張られるが、イアルの攻撃は、モノともせずに、打ち抜いて、相手に当たった。
当てられた相手も、見ていたフィル達も、驚いている。
「クロト、あなた、こんなに強かったの?」
呆然と、思はずといった様子でフィルが尋ねてくる。
「そうですね。魔物とも、戦ったことありますし、そこそこ強いと思います」
「魔物と!!」
イアルの言葉に、フィルやその友達から驚きの声があがる。
パーティーを組んで欲しいので、出来れば、もっとアピールしたい所だが、すでに、他の人が近くに来ている。
「誰か来たようなので、後でまた話しましょう」
イアルは、そう言い捨てて、向かい討つ用意をする。
「いた、あそこだ」
イアルを見つけた相手が、魔法の準備を使用とするが、イアルは、風の精霊術を使って、移動速度を早める。
そして、魔法が放たれる前に、相手を剣で攻撃する。
「なっ」
「いつの間に・・」
すれ違い様の接触でイアルは、迫って来ていた2人に攻撃を加えて、脱落に追い込んだ。
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