第28話


 授業は続く。


「次に、魔法属性について話してもらいましょう。それでは、アウグスト君。お願いします」

「魔法には、基本の4属性である、水、火、風、土と光と闇の特殊属性があります。基本属性は、攻撃や防御など様々な使い道があります。一方で、光魔法は回復と防御、闇魔法は肉体強化のみと使い方が限られています」

「ええ。その通りです。いろいろなものに応用が利く基本属性と一つの使い道しかないがきわめて強力な特殊属性。この2つの属性に特に優劣はありません。あるのは使い方の違いだけです。その事を、しっかりと理解しておいてください」


 少しざわめきが起こる。

 先生の言葉に不満の声が聞こえる。

 先生は、全員が、特に新入生がちゃんと話を聞いているかを確認してから続ける。


「まずは、基本属性です。ここにいる皆さんは、水属性の魔法使いですね。皆さんは、自らの魔力がある限り、いくらでも水を作り出す事が出来る。それは、日常生活でも、戦闘でも同じです。他の基本属性も同じです。火を起こし、風を吹かせ、地を揺らす事が出来る。これらの基本魔法は、大変に便利なもので、基本属性の魔法使いがいることで、人々の生活は良いものへと変わった」


 多くの生徒が、自慢げに頷いている。

 一般的に魔法を使えるという事は、それだけで優れた事だと考えられている。

 特に、基本属性の魔法を使えることは貴族である彼らにとって、ステータスであり、魔法を使えない平民との違いを示す誇りでもある。

 なので、その領域を汚す平民は貴族から嫌われる事が多い。


「その一方で、特殊属性の魔法が、戦う人のためのものです。光魔法は、怪我を癒す事ができ、また、身にまとう事で、魔法を防ぐ防御としても使える事が判明しています。そして、闇魔法は、身体を強化する事が出来る。特殊魔法の効果はそれだけです。ですが、それはとても強力です。味方に、光魔法の使い手がいる事で、戦士は負傷を恐れる事なく、勇敢に戦えるようになった。闇魔法の使い手は、魔法使いが魔法を放つ前に、攻撃をして倒す事が出来るようになった」


 ここで一部の生徒が首を傾げていた。恐らく、戦いのイメージが出来ていないのだろう。


「一流の魔法使いが、魔法を放とうと思ってから、発動するまでに、普通の人は、2歩歩く事が出来ると言われています。一方で、闇魔法を使っている人は、5歩動く事が出来る。そういわれています。つまり、魔法使いは、5歩以内にいる、闇魔法の使い手には攻撃を当てる事が出来ない。これが、今の一般論です。もちろん、優れた魔法使い、へたくそな闇魔法。いろいろなケースがあり、一概には言えません。ですが、戦いの場では、闇魔法の肉体強化が一番強いと言われています」


 誰かが、息を呑んでいる。

 新入生が固まっている方向だ。

 先生の説明で少しは理解したのだろう。

 彼らは、貴族の使う、魔法こそが最も優れていると考えて疑っていなかったに違いない。そういう、教育を受けている。

 けれど、闇魔法ころが最強と言われて戸惑っている。


「なので、最近の戦いの傾向は、闇魔法の使い手同士が戦って、魔法使いが魔法を撃てる時間を稼ぎ、魔法によって決着を付けるというような事が多い。最後を決めるのは基本属性の魔法だが、その基本属性の魔法を使うには、特殊属性の魔法が必要なのです。この事を新入生の皆さんは、最初に理解してください。そして、先輩の皆さんも、改めて、考えてください。よりよい、基本魔法の使い方と特殊魔法との関係を」


 戸惑っている生徒もいたが、多くの生徒が頷いている。

 一方で、上級生達は、毎年、似たような話を最初に聞いているのだろう。退屈そうにしている。


「では、次は、基本魔法の使い手になる人の傾向をノエルさん。お願いします」


 マリーネの隣に座っている女子が立ち上がる。


「基本属性の魔法を使えるようになるかは、産まれたときから決まっています。その使い手は、貴族が多くを占めていて、平民の使い手は、5%程度だと言われています。特に、エルザス王国では、水の魔法使いが多く産まれ、水の精霊である、ウンディーネを奉っています。また、ごくまれにですが、2つの属性を持って産まれる人もいます」

「我が国の、魔法使いの数は、2000人を超えます。そのなかで、2つの属性を持つのは、4人だけです。過去には、3属性や全4属性を使いこなした人もいると言われていますが、それらはすべて、伝説上の話です。人が使える、基本魔法は2属性までだと考えていいでしょう」


 先生のその言葉にイアルは驚く。

 イアルは、それが伝説ではない事を知っている。

 エデン王国には、3属性の魔法を使いこなす英雄がいた。

 しかし、その存在は、他国には広がっていなかったのだろうか。


「次に、特殊魔法の使い手になる人の傾向を、ウルマ君」


 寮から出て、貴族寮で暮らしているという人だ。どんな人だろうと探すとアウグストの近くにいた。


「はい。まず、特殊魔法に付いては、産まれたときから使える人とある日突然使えるようになる人がいます。そして、闇属性を使えるのは男のみ、光属性を使えるのは女のみとされています。

傾向としては、平民の割合が貴族より多く、特殊魔法の使い手の9割が平民と言われています。また、闇属性に関しては、基本属性と併用で目覚める人も少なくないです。その一方で、光属性の使い手は、他の属性と比べると、使い手は遥かに少なく、使い手は、必ず、教会かそれに準ずる施設に入る事が義務づけられています」

「ありがとう。ただ、少し訂正がいるね」

「えぇ、本当ですか。すいません。いやぁ、先輩としてカッコいいところを見せたかったのに、カッコ悪いところ見せてしまった。恥ずかしいぃ」


 ウルマの言葉に笑いが起こっている。

 上級生の中にも笑っている人はいて、平民のはずのウルマが受け入れられているのが分かる。

 唯一、ルーカス達の集団は、苦々しそうに見ていたが、多くの生徒からウルマという人は受け入れられているようだ。きっと、凄い人なのだろう。

 貴族との接し方などで、苦労しているフィル達とは違うようだ。


「まず、闇魔法を使う女性は、数は少ないですがいます。既になくなりましたが、闇魔法の使い手の女性だけで構成された傭兵団もありました。そして、光魔法を使う男性もいます。その時代に、必ず一人だけ存在し、その方が、教会の教皇を務められる。これが、初代教皇の時からの伝統です」

「えっ」


 驚きの声が上がっているが、教皇の方は有名だと思っていたが、あまり知られていなかったのだろうか。それとも、女性だけの傭兵団に驚いたのか。


「それでは、最後に、今まで話していた基本属性と特殊属性以外の無属性について、マリーネ様、お願い出来ますか」


 すると、マリーネは、自分が当てられることが最初から分かっていたかのように立ち上がった。


「無属性魔法とは、これまでに説明された魔法に分類出来ない魔法の総称です。洗礼を受けたにもかかわらず、魔法紋が浮かんでこない。けれど、魔法のような不思議な術は使える。その謎の魔法の事を無属性魔法と呼んでいます。分類される魔法は、既存の魔法では扱えないような類いのもので未だに、不明なところが多いです。その一番の理由は使い手はとても少ないことです。ただ、その中で、唯一、過去にも何人もの人間が使い、一番有名なのが精霊術です」


 マリーネはそういうと、手を前に突き出す。

 何をするつもりかとイアルが思っていると


「おいで」


 マリーネが小さく呟く。


「えっ」


 イアルは、驚きで声が漏れてしまう。

 慌てて、口を抑える。周りを確認するが、幸い、誰にも聞こえていないようだ。みんな、マリーネの方を見ている。

 精霊は普通の人には見えない。

 しかし、イアルの目にはマリーネが呼んだ精霊がはっきりと見えている。

 イアルが精霊を見れる事が周りに知られるのは困る。


「お願い」


 マリーネの声に応じて、水の精霊が、教室の中を飛び回る。

 水の精霊が飛んだ後には水のアーチがかかっている。

 生徒達は、精霊自体は見る事は出来ないが、その描かれているアーチは見える。

 このような芸当は魔法では出来ない。


「すごい」

「これが精霊の力」

「さすが、マリーネ様」


 あちこちから、マリーネをたたえる声が聞こえる。

 その中に驚きの声はない。

 マリーネが精霊術師である事は有名なのだろう。

 しかし、イアルは、マリーネが精霊術師だと知らなかった。


 アイラが、驚いているイアルを想像して、楽しんでいる姿が頭に浮かんだ。

 恐らく、そのためだけに、教えてくれなかっただろう。間違いない。


「今、私が使ったのが、精霊術です。水の精霊に語りかけて、発動しました。このように、魔法が自分の体内にある魔力を使って、発動するのに対して、精霊術は、精霊を通して、周りから、自然の中から力を借りて、発動します。そして、魔法があらかじめ決まられたようにしか発動出来ないのに対して、精霊術は、術師の想像をそのまま実現出来ます。もちろん、術師の技術によって限界はありますが。このように・・・」


 マリーネが締めくくリの言葉を発している。しかし、イアルはそれどころではなかった。


『ねえ。あなた、私の事、見えてる?』


 イアルはぎょっとした。

 マリーネが呼んだ精霊が、イアルの前に飛んでくると、話しかけてきた。精霊の声が聞こえた。

 イアルは、未だに、ジョアンから貰った精霊の声を聞く事が出来ない。姿が見えるだけだ。なのに、マリーネの精霊の声は聞こえた。

 その事態に混乱して、答えを返せない。

 それに、言葉を返したら、周りから怪しまれる。

 そんな事を思っていると、精霊が頰を膨らましている。


『無視?あなた、見えてるし、聞こえてるよね』


 たとえ、他者の契約精霊でも、精霊の機嫌を損ねるのはマズい。

 元々精霊は、精霊王の元に一つだったと言われていて、今も精神はリンクしていると言われている。

 そのため、一人の精霊の機嫌を損ねるという事は、全ての種の精霊の全てを起こらせると同義だ。


「はい。どうかしましたか?」


 周りに、不審がられないように、出来るだけ小さな声で話す。


『やっぱり。ふーん』


 イアルが返事を返すと、精霊は嬉しそうに、イアルの周りを飛び回る。


「あの」


 飛ぶだけで、何も言わない精霊にイアルは、思はず話しかけてしまう。


『なんでもなぁーい』


 そういうと精霊は消えた。


 何だったんだ。

 疑問に思いながら、頭を振る。


「マリーネ様が見せてくださったように、精霊術は、魔法よりも高度なもので、扱いは難しいですが、威力は大変強力です。そして、その使い手は、とても少なく、我がエルザス王国でも、現在はマリーネ様だけです」


 いつのまにか、マリーネの話は終わり、先生が話している。しかし、イアルの耳には届かない。自分の事を見つめる、マリーネの視線に気がついてそれどころではない。。

 彼女はまるで、幽霊をみたかのように驚いた様子で、イアルの事を見ている。

 バレている。

 イアルは冷や汗をかき、途方に暮れた。

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