第34話


 翌日からは、普通に魔法学園での授業が始まった。


 座学もそうだが、実技も、最初のうちは新入生だけで実施されるそうだ。てっきり、実技は水クラス全員で受けると思っていたが、毎年、最初の授業だけ、顔合わせを含めて全員でするらしい。ただ、クラスは別れるので、水クラスの新入生だけだ。


 実技での授業で新入生がする事は、身体を鍛える事だった。

 

 とにかく走って、体力をつける。

 ひたすらに剣を振るって、型を身体にしみ込ませる。

 新入生は、しばらくの間はこれだけをするらしい。


 そして、初日の今日は、一日中、剣を持って走る。それだけの授業だと先生が言ったら、生徒から反発の声が上がる。


 剣の方については、武芸も貴族のたしなみとして幼いころから習っている生徒が多く受け入れられていたが、走るだけの訓練は、魔法使いである貴族には不要と思っている生徒は多いようだった。

 中には、水魔法だけではなく、闇魔法も使える生徒もいる。彼らは、接近生をすることがあると分かっているので、肯定的だったが、ほとんどの生徒は嫌がっている。


 彼らは、魔法使いとして、魔法の技術を学び、一流の魔法使いになる事を夢見ているのだろう。

 昨日は、戦いでは闇魔法が最強だと授業で言われたが、それにも、納得できていない生徒も多そうだ。


 体育会系の鍛え方だが、イアルにはこのやり方はあっている。


 イアルは、これが正しい鍛え方と思っている。


 不満を持っている生徒を納得させるための説明を先生がしている。

 

「いいか。闇魔法の使い手は、魔法使いが魔法を放つ前に間合いに入ってきて、攻撃をしてくる。魔法使いが、その鍛え上げた魔法を放つためには、闇魔法を使う剣士の最初の一撃を防がないといけない事が多い。もちろん、そのために、魔法使いはパーティーを組むし、魔法使いを守るために、味方の闇魔法の使い手や剣士がいる。それでも、魔法使いが一人で、相手の攻撃を一撃でも避ける事が出来るのならば、それは味方にとって、とても大きな事ことだ。だから、魔法使いも身体を鍛えないといけない」


 そういうと、先生は5人の生徒を呼んだ。特に、不満を抱いていそうな生徒を中心に呼んだようだ。


「お前達は、今現在、身につけている魔法を私に当ててみろ。私は、この剣を持って防ぐ。そして、剣に触れられた生徒は自己判断で脱落か続行か、決めるように」

「そんなことをしたら、先生が怪我しますよ」

「構わん。当てれる生徒がいたら、今年の生徒は優秀で、私が老いぼれたというだけだ」


 指名された生徒は戸惑っていたが、先生に気にした様子はない。

 絶対に当てられない自信があるのだろう。一方で、生徒達も、当てれる自信があるようだ。

 そう言って、先生は7歩ほどの距離を開けて5人と向き合う。

 

 この距離は、一流どうしの戦いなら闇魔法を使っても魔法使いが先に攻撃を放てる。その、最初の一撃で決めることが出来るかが、勝敗を分ける。ただ、それは1対1での話だ。

 先生には、5対1でも勝つ自信があるのだろう。


肉体強化フィジカルブースト


 先生が闇魔法を発動すると、戸惑っていた生徒もようやく準備を始める。


「それでは、開始」


 何の気負いも感じられない様子で、開始の合図がなされた。

 先生がゆっくりと動き出し、生徒達も魔力を練る。


 結果は先生の圧倒だ。


 魔法を放つ前に剣でうたれたのが2人。残りの3人も、魔法を放つが、動いている先生に避けられて、かすらせることも出来ず、2発目を撃てずに負けた。


「このように、キミ達が優れた魔法使いであっても、魔法を放てなければ、あるいは、放っても当てることが出来なければ、意味がない。魔法使いと相対するモノはそのように動いてくる。今度は逆をやろう」


 先生は闇魔法を使える生徒4人を指名して、再び、相対する。


 結果は、また、先生の圧倒だ。


 闇魔法で肉体強化をして、先に切り掛かった生徒達だが、先生には簡単に避けられらて、魔法をくらっている。


「魔法使いでも、身体を鍛えていれば、闇魔法の使い手の、最初の攻撃を避けることが出来る。皆にも、このように相手の攻撃を避けれるようになってもらう」


 最後に、ついでだからと、まだ残っている10人もまとめて先生に挑むことになった。そこに、イアルやヴァルターも含まれる。


「今度も、私が水魔法を使う。自由にかかって来なさい」


 先生のその言葉に、イアル達は一度顔を合わせると、すぐに駆け出す。

 10人が、四方から一斉に近づくが、肉体強化出来ないイアル達は最初の攻撃に間に合わない。イアルは、渡されている木剣で攻撃を防ぐが、それ以外の9人は、あっさりと攻撃をくらってしまう。


「お。いまので、全員倒せると思ってたが、一人残ったか」


 イアルは、2回目の攻撃には間に合い、切り掛かるが、避けられる。それをわかった上で、イアルは更に接近し、攻撃を止めない。止めたらその時点で、攻撃を当てられて終わりだ。


「むっ」


 この距離だと魔法を下手に放つと自分も攻撃をくらってしまう。先生を請け負う人がそんなヘマはしないだろうが、すこしでも、攻撃を戸惑ってくれたらいい。

 そう思ったが、さすがに甘くない。


 「次は避けれるかな?」


 そういうと、先生は2回目の攻撃の準備をする。

 動きながらでも、何ら問題なく、魔力が寝られている。


 「水球ウォーターボール


 さっきは、10人に分けて放たれた魔法が今度は、標的はイアルだけだ。

 イアルは、空中に浮かんだ10個の水球をみると、防御を捨てて、攻撃だけを考える。


 剣を上段から、大きく振り下ろす構えをとる。

 すると、がら空きになったイアルの胴体めがけて、水球が飛んでくるが、そうなることが分かっていたイアルは、剣を振り下ろさずに、すぐに、横に飛んで避ける。続けざまに攻撃が来るが、全てを避ける、


「ほう」


 感心したような声を先生が上げるが、攻撃を避けただけで、先生との距離は離れた。


「やりますね。入ったばかりで、これだけ動けるとは」


 すると、先生が今度は自分から動き出した。イアルとの間に空いた距離を埋めにくる。しかも、走りながら、魔力を練っている。

 イアルも、逃げても無駄だと判断し、自分からも接近する。


「いい判断だ。だが、遅い。水球ウォーターボール


 魔法の発動と同時に、イアルを水球が襲う。どうにかして、剣で防ぐ、接近しようとするが、足を止められる。

 そして、立ち止まって、なんとかして全ての攻撃を剣で防いだイアルふだが、その目の前に、先生が立っていた。

 そして、全てを防いだと思っていた攻撃だが、まだ一つだけ残っていたようだ。


「新入生にしては、とてもいい動きだ。将来が楽しみだ」


 その言葉と同時にイアルに魔法が当たった。

 これで、生徒は全員脱落だ。


「さて、これで、みんなも少しは分かったかな。魔法使いも身体を鍛えて動けるようにしないといけない」


 まだ、不満そうな顔をしている生徒はいる。しかし、全員が先生に負けた。

 これで、生徒から文句の表立っては言葉は出てこなかった。


「では、始めましょう。全員、剣を腰に差して、ランニング」

「はい」


 先生の言葉に一番最初にヴァルターが反応して走り出した。

 王族である、ヴァルターが、文句を言わずに、授業を受けるのに、貴族である彼らが、文句を言う事は出来なかったようだ。もう、先生の言葉に逆らう事は出来ずに、全員が走り出す。


 ただ、黙々と走るだけの授業が始まった。

 先生に対する不満はもうでてこない。

 その分、彼らは内側にフラストレーションをため、はけ口を求める。

 その標的は、本来なら爵位が低い貴族に向かうのだろうが、今年は、それよりも下の平民がいた。

 

 しかも、その平民、イアルは、この授業で、一番最後まで、先生に抵抗し、誰よりも長い距離を走り、その上で他の生徒よりも余裕があった。

 授業が終わると、他の生徒が倒れ込むようしゃがんだりしているのに、一人だけ、膝に手は当てていても、顔を上げている。

 そのことにも、腹が立っているを生徒が、多かった。

 

 そのため、イアルは、彼らから睨まれていたが、ほとんどの生徒は疲労で立っている事が出来ない状態だ。そのため、睨んでいても、何の迫力もない。

 イアルは、彼らの視線に気づきながらも、無視をして、気がついていない振りをして過ごす。

 何とも居心地が悪く、フィル達もこんな中で何年も過ごしてきたのかと、勝手に寮の先輩達に尊敬の念をイアルは抱いた。

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