第48話


 魔物討伐の説明が終わり、イアルは、寮に帰った。

 既に、サハラとトーマスはいたが、フィルはまだ、帰っていないようだ。


「いやぁ、まさか魔物が現れるとは驚いたな」

「聖戦で魔物との戦いは終わったから、もう魔物は現れないと思ってた・・」

「俺も、少なくとも俺が生きてる間は、魔物の脅威に怯えなくて済むって思ってたなぁ・・」


 トーマス達は魔物の出現を聞いて動揺しているようだった。

 イアルも会話に参加する。


「どれくらいの魔物が出たんですかね」

「分からないな。その確認を兼ねての今回の巡回だろう。でも、討伐もそんなに長くかからないで終わるといいんだが」

「その間、残った学園の生徒はどうなるんだろ?」

「先生もほとんどの人が参加になりますよね」

「ああ。まともに授業は出来ないだろ。もしかしたら、一月ぐらいはまた休みになるかもな」

「そうだよね。私たちちゃんと卒業出来るのかな」

「まあ、それは大丈夫だろ」


 話の内容から予想はしていたがトーマス達が、討伐に参加しないのは確定だ。

 2人と話しながら、イアルはどうするかを考えていた。フィルがどうするのか聞かないと分からないが、イアルがパーティーを組むのはこれでより難しくなった。


「フィルさんは強制参加だよね。何もなかったらいいけど」

「そうですね」

「まあ、フィルなら大丈夫じゃないか?あれで、魔法については実力はあるし」


 フィルのことを心配するサハラに対して、トーマスはそれほど心配をしていないようだ。

 イアルは、そこで、いまさらながら、自分がフィルの実力を何も知らないことを思い出した。

 魔法を使っているところを見させてもらったことはあるが、実戦はもちろん演習も見たことがない。

 もちろんフィルもイアルの力を知らない。

 頼んでもフィルのパーティ−に入れてもらえないかもしれない。


 それでも、イアルは、最初で、最後の当てである、フィルにとりあえず、頼んでみないといけない。

 イアルがそう決めていると、フィルが帰って来た。

 その顔は沈んでいる。


「お帰りなさい、フィルさん」

「ただいまー」


 フィルはリビングに揃っているイアル達を見ると苦笑いを浮かべる。


「いやー、大変なことになったね」


 そう言って席に着くフィルだが、その様子は暗い。


「大変そうですか?」

「そうね。まず、私と組んでくれそうな人が少ないからね。普段、クラスで一緒に演習をしている子はほとんどが、今は、災害の対応で実家に戻っているから・・」

「やっぱり・・」

「ええ。今、学園にいる人達は、私みたいな平民とはパーティーを組みたがらないから、どこかのパーティーに入れてもらうことになるでしょうね。いちおう、まだ、仲がいい子には頼んでるけど、返事は保留されたわ」

「そうなると、難しいですね」

「でも仕方ないわ。それに、実際の討伐パーティーには先生も帯同するし。アイラ先生が安心するように言ってくれたから、まあ、何とかなるでしょ」

「アイラ先生ですか。なら、少しは配慮してくれそうですね」


 フィルとサハラの話を聞きながら、イアルは、自分も参加したいことを伝える隙をうかがう。


「実際、何個ぐらいのパーティーを組むんだ、学校は?」

「基本は、生徒達が自分たちで組んだのを優先するみたいよ。でも、人数的にも組めて3、4つのだけでしょ。それに、戦力的に不安があれば、学園の方で、調整はするみたいだし」

「そうなんですか?」

「ええ。最低4人というだけで、人数に上限はないから。それこそ、極端な話、誰かをリーダーにして、学園生全員で一つのパーティーを組む可能性だってあるしね」

「それは無理では・・」


 フィルの例にイアル達は首を振るが、フィルは真面目にそう思ってるようだった。


「そうね。でも、去年いた、ヨアヒム殿下なら、多分そうされたと思う。今年は、そんなことしようとする人も出来る人もいないと思うけど」

「ああ」


 トーマス達もヨアヒムの名前を聞いて納得をしている。イアルはヨアヒムはどんな学園生活を送っていたのか少し気になったが、それは別の話だ。

 気になったことを先に聞いてみる。


「マリーネ様は、今回の討伐参加されるんですよね?」

「もちろん。王族だからって免除はされないわ。まあ、マリーネ様のいるパーティは他のグループよりも随行の先生とかは手厚くなるだろうけど」

「まあ、万が一もありえるからな」

「うん。もしも王族に何かあったら問題だし、そこは万全にしておくでしょ」

「ヴァルター様とテーニア様は任意ですけど、行かれないんですかね?」

「ヴァルター様は行かないでしょ。まだ、入学して一年も経ってないし」

「テーニア様は、どうだろ」

「本人は行きたいと思ってそうだけど、周りが止めるでしょ。さすがに。王族の人がわざわざ危険を冒して参加する必要ないし」

「でしょうね。学園も本当なら、マリーネ様にも理由を付けて辞退してもらいたいのが本音でしょ。建前では、王族でも特別扱いはしないっていいはるけど」

「まあ、そうですよね」


 話が一段落したところで、イアルは切り出すことにする。


「フィルさん、お願いがあるんですけど」

「どうしたの、クロト?」

「俺も、今回の討伐に参加したいんですけど、フィルさんがパーティーを組めたら、そこに入れてもらえませんか?」

「えっ」


 イアルの言葉に、驚いて、フィルは持っていた物をおとして、固まっている。


「何を言ってるんだ、クロト」

「本気?クロトくん」


 トーマスやサハラも心配そうに声をかけてくれる。


「はい、俺は本気です。魔物討伐に参加したいです」


 イアルが改めて言うと、トーマス達は押し黙る。

 心配そうに、イアルのことを見ているが何も言わない。

 フィルも、その様子を見て、少し落ち着いて、イアルと向き合う。


「えっと、今回の討伐、入ったばかりのクロトは任意参加だよ」

「分かってます」

「魔物討伐は、演習扱いだけど、本当に命をおとす危険もあるの」

「はい」

「まだ、学園に入ったばかりのクロト達が普段のしている演習とはまったくレベルが違うと思のよ」

「そうですね」

「この前の演習試験でのクロトの動きは私も凄かったと思うけど、そんなに無理して出なくてもいいんじゃないかな」

「いや、俺はぜひ出たいです。この目で魔物を見たいです」

「えっ」


 イアルは、なんだかおかしなことを言っただろうか、と思ったが、確かに、なんだか誤解を招きそうな言葉だ。


「俺は、学園を卒業したら、ノウスフォール地方の各地を1人で回るつもりなんで、学園生の内に、パーティーでの魔物討伐を経験出来るならしておきたいです」

「・・そう」


 イアルが慌てて追加した言葉で、フィル達は少し納得してくれたようだ。


「そういえば、クロトは、教会とも関係ないから、卒業した後は自由に決めれるのか。勝手に、近衛騎士団に入ると思い込んでた」

「各地を1人で回るのって危なそう・・」


 トーマスとサハラはイアルの言葉に、そんな感想を言っているが、フィルは真面目に何かを考えている。


「分かった。イアルが自分の意志で討伐に参加したいなら、私には止められないからね。でも、さっき言った通り、私もパーティー組めるか分からないから、そこは分かっといてね」

「もちろんです」

「それと、これは、明日正式に全員に知らせがあるけど、パーティーメンバーを組むにあたって、一週間後に模擬戦が開かれるの」

「模擬戦?」


 そんな説明がいつあったのかまったく知らなかったイアルが尋ねる。

 

「そう、希望者なら誰でも参加できるバトルロイヤル。それで、自分の実力を示すの」

「なるほど」


 その言葉だけで十分に意図は伝わる。


「そ。パーティーのリーダーをやろうと思ってる人は、自分の隊に入れたい人を捜しているし、まだ、パーティーを組めてない人は、他のパーティーに実力を示して、勧誘されるかもしれない。私たち、上級生は、他クラスとの演習もあるからお互いにある程度の実力は知ってるけど、知らない人もいるからね」


 フィルの話にイアルは納得する。

 最適のパーティーを組むにも、そのようなバトルロイヤルが行われるのはいいことだ。

 仲がいいからというだけでパーティーを組むのも連携の面では利はあるが、それが最適化は分からない。生き残るためには、バランスも必要になる。


「分かりました。まずは、フィルさんが組めそうなパーティーの人に俺の力を認めてもらうように頑張ります」

「うん。でも、クロトは学園に入ったばかりなんだから、無理はしたらダメよ」

「はい」


 心配そうにイアルを見つめるフィルに対して、イアルは安心させるように笑う。

 実力を披露出来る機会があれば、なんとか入れてくれる人が見つかるかもしれない。

 平民ごときがと反感を買うことも確実だが、イアルとしては、討伐に参加出来るなら、それでいい。

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