第51話
あたりが静かになり一息つくイアル。
周りからも、戦いの音が無くなっている。
終了の合図はないので、まだ、他にも生徒が居る。イアルは、あたりを警戒しながら歩いていく。
しばらく歩いていると、足音が聞こえて、イアルは警戒して立ち止まる。
気配を消して、隠れながら、周りの様子を伺うと、ルーカスとオルガンが2人で歩いて来るのが見えた。
まだ、イアルには気づいておらず、周りを警戒しながらイアルの居る方向に向かってくる。
イアルは、気づかれるよりも先に、先制攻撃をすることにする。
攻撃出来る距離まで、2人が近づいたところで魔法を放つ。
「
イアルの存在にまだ気がついていなかった2人は、いきなりの攻撃に驚いていたがすぐに対応される。
ルーカスが防壁を張り、オルガンがすかさずに、攻撃を放つ。
「
「
その連携はスムーズで、これまでの相手にはなかった。
姿を隠しておくことはせずに、イアルは、正面から、ルーカス達と向き合う。
「へぇ、まだ、生き残っていたのか」
オルガンが、感心したようにイアルに話しかけてくる。
ルーカスは、襲って来たのがイアルだと分かると苦虫を潰したように顔を歪めている。
「おい、余計な話はするな」
「別にいいだろ。入学したばかりの新入生がここまで残ってるってことは、こいつはそれだけ、優秀だってことだ」
「そうじゃない。こいつは、ただ、戦闘狂の血が流れてるだけだ」
「?」
ルーカスの言葉に、オルガンは怪訝そうな顔をしている。
イアルも、ルーカスにエデン王国の生まれと知られていることが分かり、ルーカスと同じように苦い顔になる。ゼーレンが知っていた段階で、その可能性も考えていたが、ルーカスには、あまり知られたくなかったのが正直な気持ちだ。
ルーカスに知られて、広まっていないなら、ゼーレンが口止めをしてくれているのだろう。
「まあいい。クロト」
「なんでしょう、オルガン様」
「俺は、素直に感心している。ここまでよく生き残ったもんだ。しかも、戦いから逃げたわけじゃなくて、ちゃんと、相手を倒して来たんだろ?」
「はい」
イアルの返事に、オルガンが一人、うんうんと頷いている。
「今度の、討伐試験に参加希望か?それとも今回は腕試しか?」
「魔物討伐、参加希望です」
「なら、俺のパーティーに入るか?」
「!!」
いきなりの勧誘にイアルは驚く。
「おい、オルガン、ふざけるなよ。何考えてる」
だが、自分以上に驚いているルーカスを見て、落ち着きを取り戻す。
「何故、私を?」
「そんなに不思議がることか?これは、パーティーを組む人間を捜すためのバトルロイヤルだ。そして、お前はこれまで結果を残してここに残ってるんだろ。その結果を見て、スカウトしてもおかしくないだろ?」
「私は、平民です」
「だが、先輩の上級生の貴族を倒すぐらいには強い」
「それは・・」
「足手まといになる貴族よりも戦力になる平民の方が実戦では大切だ。戦力になる人間なら、どんな奴でも歓迎するぞ」
オルガンがどこまで、本気で言っているのか。
「オルガン、俺は反対だ。こんな奴と一緒のパーティーではやっていけない」
「何でそんなに嫌うんだよ。こいつ、前の演習試験の時も思ったが強いぞ。普通の新入生じゃない」
「それくらい知っている。だから、不気味なんだ。何が目的で、何を企んでいるのかが分からない。こいつには、エルザス王国に対する忠義というモノがまったくないからな」
「ふむ。だからいいんじゃないのか?」
「いいわけあるか」
ルーカスが色々と述べているがイアルとしては、オルガンよりも、ルーカスの意見が正しいと感じる。ルーカスの方がイアルのことをよく知っているからそう判断しているのかと思うが、オルガンが誘いをかけてきたのには、何か裏を感じる。
「もういい。まずは、先にあいつを倒す。話はそれからだ。」
「まあ、そうだな。実際に戦ってその力を試そう」
2人の間で、話はまとまり、ルーカスとオルガンはイアルと正面から向き合う。
「オルガン」
「おう」
オルガンの方が前に出て来た。
「
これまでの相手とは発動した水弾の数が違った。
「
イアルは真っ正面から飛んでくる攻撃は魔法で防ぎ、左右や上からの攻撃は当たる可能性があるモノだけを剣でおとす。
全ての攻撃を防ぎ、反撃に出ようとしたその時。
「
ルーカスの闇魔法が発動された。
ルーカスが使えることは知ってはいたが、使っているところをこれまで見たことがなかったがために、失念していた。
ルーカスは一直線に突っ込んでくる。
何とか初撃を防ぐが、剣を通して手が少ししびれた。
純粋な剣の勝負ならば、奴隷としてエモット家に来た直後に勝負したように、イアルが勝つ。
だが、肉体強化された相手に真正面から勝つことは難しい。
ギリギリのところでルーカスの攻撃を防ぐが、反撃をする余裕はない。
ましてや
「
オルガンのが攻撃を放つと、ルーカスが逃げられないようにイアルの移動を妨げようとしてくる。
「
少し、厳しいが、魔法に見せかけた精霊術で迎撃する。
「まじか。やるなあ。今のにも魔法が間に合うのか」
「・・」
感心し、驚いたていることを隠さないオルガン。
ルーカスも一度オルガンの横まで下がったのでイアルは息をつく。
さすがに魔法での迎撃が早すぎて、違和感を持たれたかもしれない。
精霊術の希少性を考えると、普通ならそこから繋がらないと思うが、無言のまま、イアルを見ているルーカスがいつになく不気味だ。
エモット邸で合う時のルーカスはイアルの顔を見ると、当たり散らしていたので、学園に入ってから、大人しいルーカスの姿には違和感を感じる。
この戦いはイアルとしては、力を示すことが出来ればいいので絶対に勝つ必要はないが、勝てるならそれに越したことはない。
平民のイアルが力を示せば、他の生徒から疎まれるかもしれないが、同級生からは既に嫌われているし、自分よりも相手の方が強いと分かっていれば、それほど絡んで来ることもないだろう。
「
身体強化をしている、ルーカスとの接近戦は普通にやれば分が悪いので、近づかせないように、先に攻撃を放つ。
「ちっ」
舌打ちとともに、防壁が張られる。
「「
最初の不意打ちの時よりも球を多く起動している。広範囲に波状攻撃を仕掛ける。1人で張る防壁では防げないと判断して、2人はそれぞれに防壁を張る。
彼らが自分の張った防壁で視線が遮られているうちに次の攻撃を繰り出す。
「
ルーカス達の作った壁を乗り越えて水が2人を襲う。
「なっ」
「上級魔法だぞ」
慌てて下がるが、気づくのが遅れたのでもう遅い。
水が2人を飲み込む。そう思ったとき、オルガンが動いた。
「
オルガンがイアルが放った水魔法を凍らそうと氷魔法を放つ。
しかし、出力が違うので、すぐに、水が氷を溶かして飲み込むが少しだけ速度が落ちた。その隙に、肉体強化に任せた全力でルーカスは魔法の範囲から逃げ延びている。
氷魔法は、水魔法の習熟度が高い者だけが使えるようになる上位魔法だ。学園の上級生がこれを使えるレベルだとイアルは知らなかった。
「くそー。クロト、お前ほんと何者だ」
身を挺して、ルーカスだけを逃がしたオルガンが尋ねてくる。
「ただの、新入生のですよ。平民の」
「いや、あり得ないだろ。入学する前はどこで何をしてたんだと。傭兵でもしてたのか?」
「王都で、のんびりとしてましたよ」
イアルは、それでオルガンとの会話を打ち切り、ルーカスに向かう。
「ちっ、後は頼んだぞ、ルーカス」
イアルは、ルーカスを視界から外さずに、移動をする。
接近戦は分が悪いので、近づきすぎないように注意する。
「
ルーカスの方から、攻撃を放ってくるが、当てるつもりはないようだ。
牽制で放ってくる。
ルーカスの表情はこれまでイアルが見たことがないくらい真剣だった。
「
徐々にイアルの行動範囲を削るように攻撃を連発してくる。
「
全てを避けることが出来ないと判断し、立ち止まって、壁を作る。
だが、イアルが立ち止まると同時に、ルーカスが一気にイアルとの距離をつめる。
強化した肉体で、加減を忘れて、鉄砲玉のように直線でイアルに向かってきた。
「なっ」
まさか、ルーカスがそのようななりふり構わない攻撃に出てくるとは思っていなかったイアルは、完全に隙をつかれる。
「これで、決まりだ」
ルーカスが叫ぶ。
イアルはとっさに、風の精霊術を発動し、瞬間的に移動速度を上げて避け、すれ違う瞬間に攻撃を当てた。
妖精夢想譚 余田明宏 @kamemalu
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