欠落 魔人化

 ニリィはよりはっきりとみた。赤い液体は、崩れたゴリエテの装甲だった。ゴリエテは崩れた事がなかったから、それが赤い魔力の結晶であることを、ニリィ自身もしらなかったのだ。

「……」

 ホッとしたのもつかの間、ゴリエテはバランスを崩した。地面に突っ伏して、彼女はゴリエテの下敷きとなったのだった。

「ニリィ!!!」

 魔力が、近づいてくる、セレェナをおしのけて、見知った魔力が、それはいつか感じたことのある魔力だ、自分が、トレトーの屋敷で暴走を起こすと必ず自分に魔力を分け与え、暴走を抑えてくれた、それは……トレトーのものだと感じた。大きな魔力をもつ悪魔が、ゴリエテを持ち上げ、救出してくれた。

「トレトー……ありが」

「ニリィお嬢様……お怪我は?」

「!!!」

 手を握ろうとしたのは、ニリィを助けようとしたのは、ベンQだった。トレントのの姿に戻った彼だ。その枝木が手の形をしたものをはじいて、ニリィは手を隠した。

「触らないで!!!」

「私は……あなた様を心配して」

「私は、信じない……そんな、ありえない」

「……」

 セレェナはそれを間近で見て、何の話かを顔をしかめて見守っていた。

「本当でございます、あなた様が暴走したあるとき、私たちは、あなた様に暴走をとめる指輪をささげた、あの時、私が”魔人化”、つまりこの姿ですな、この姿になった魔力をみて、あなたは私をトレトー様と勘違いした、あの時、あなたは魔物である私をみて、私を殺したのです」

「え?」

「その私を助けようとしたのが、トレトー様でありました、彼は優しく、私のために禁忌を犯した、それがのちのち旦那さまにみつかり、絶縁となったのです」

「まって?ベンQ、禁忌ってまさか」

「ええ、トレトー様は、私にご自身の血をわけて、“魔人化”つまり、半分悪魔化したのであります、ただの魔物だった私は、ひとつ魂の位が高くなったのです」

 ニリィは、リングをみた。

「そんな、そんな」

 わなわなと震える肩。

「トレトー……そんな、私はあなたが、このリングを作ったとおもって」

「それは私の“工芸品”です、トレトー様の魔力を感知し、それを装着するものがトレトーさまに触れると、力を制御しやすくなる」

「うそよ、あなたの事は嫌いじゃなかったけど、こんな仕打ち」

「はい?」

「うそよ、私が、魔物とトレトーと誤解していたなんて!!!」

「!!」

「うそよおおおおお!!!!!」

 その雄たけびとともに、リングは割れた。そして彼女はトレトーにとびかかるのだった。

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