慟哭

 突然、すさまじい魔力がニリィを包み込んだ。それと同時に槌は亀裂が入り分解し、変形して、強固な鎧となった。それは、人を丸ごと飲み込むほどの3メートルほどのロボットのようだった。腕は槌のようであり、背中からは無数の糸のようなアームがはえている。腕が足につくほど長く、反対に足は短かった。頭は宇宙人のようにおでこがとがっており、蜘蛛の目のような半透明の半球がいくつかならび、透明なバイザーが、その下にあった。

「お兄ちゃんは、裏切るはずがない……」

 ふと、トレトーはつぶやいた。

「我は、裏切らない」

 マリは治療に専念している。

「大丈夫よ、少し安静にして」


 ニリィは、悲鳴をあげた。キャノピーのような頭はまだ完全に閉じられておらず、そこからニリィの本体と、まるでVRゴーグルのようなものを装着した顔がのぞいていた。

「こんなの!!!現実じゃない!こんなの!!"動いて!!人間も、魔族も、下等なもの全部破壊しちゃえええ!!"」

「ねえ、落ち着いて!!」

 制止しようとするセレェナ、今自分の手に負えるような相手でないことは理解できた。そんなセレェナに、彼女の右手に抱えられているベンQがいった。

「セレェナ……説明している暇は多くありません、ああなった彼女は手に負えない、頑丈なトレトー様の邸宅でさえ、傷をおい、一部が破壊されたのですから、彼女に困りながらも、彼女を庇おうとしたトレトー様は、彼女に”チャーム”をかけたのです、私のつくった発明品と一緒に」

 敵の攻撃を察し、とっさに、セレェナはベンQに喋った。

「きっとあなたは……○○なんでしょ」

 セレェナは、ベンQを抱えて敵の攻撃をよけた。そのため、ニリィには二人の会話はききとれなかった。

「!!セレェナ様……あなたは」

「やる事はきまってる、そうでしょ?あの子に、気づかせよう」

「それは……一か八かですな」

「大丈夫、どうにもならなかったら、皆で力を合わせるだけよ」


(お兄ちゃん、私が暴走しても、いつも助けてくれるでしょ、でも、お兄ちゃんの力じゃない、お兄ちゃんに力があれば、私はお兄ちゃんを好きになってもいい、そしたら、力は暴走しなくなる、そんな契約をしてから、私たちは兄妹になった……お兄ちゃんは"力"をみせてくれた、あれ?力って何だっけ、ともかくお兄ちゃんはこの指輪を、指輪を……)

 指輪は、薄く点滅し、光り輝いているだけだった。徐々にその光は、弱くなっていくのだった。かつてのトレトーの声が響く。

【この指輪があれば、どこにいようとお前は我を探しだせる】


 




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