絶望

「お兄ちゃんを!!返して!!」

 セレェナは、更なる魔力の上昇に、はじき出されそうになった。背後からトレトーの声が響いた。なぜだか消え入りそうな声だが、セレェナには感じ取れる。

「セレェナ……そのキャノピーを閉めさせるな」

 彼女も直観でそれを感じていた。暴走の原因、彼女の心の殻の具現化そのもの、それがこの”ゴリエテ”である予感がしたのだ。セレェナは、刃の欠けたサーベルをキャノピーに突き刺した、魔力をこめると、それはガッチリと固定されたのだった。


 トレトーがいう。

「時間を稼いでくれ……我が、戦う」

「トレトー!!駄目よ!!」

「いや……我が招いた種だ……」

「……」

 どのみち、時間を稼ぐほかはなかった。セレェナは悪魔を単独で払えるほど力はない。もしそれがあるなら、すでにエクソシスト機関からスカウトを受けているはずだ。時間を稼ぐ?しかし……

《ミシミシ……ミシ》

 すでに、サーベルは悲鳴を上げている。さらにニリィはサーベルをみつけ、手をかけようとした、何をおもったか、セレェナはその手をサーベルの一部を変形させ、きりつけた。

《ピシュッ》

「うわああああああ!!」

 暴れまわる巨体の”ゴリエテ”左右に、前後不覚になるように、まるでバランスをうしなった重機のように、ふりまわされるセレェナ、右手が一瞬、ゴリエテのコクピットから離れた。

(まずい!!)

 その瞬間だった。ベンQが帽子から腕だけを生成したのだ。木でできた、小枝がからみついた手が、キャノピーの端をつかみ、そしてセレェナの手を掴むと、またキャノピーにしがみつかせた。

「ベンQ、ありがとう」

「いいえ……こちらこそ、あなたはこれからのトレトー様にとって、大事なキーなのですから」

 セレェナはニリィの様子をみた。サーベルはまだ持ちこたえていて、ニリィはそれにきづいて、左手を

差し出そうとしていた。そしてセレェナはそれを狙っていた。

「ニリィ!!!」

 キャノピーの閉じる勢いが増し、サーベルが鈍い音をたてて割れた。その瞬間、セレェナはニリィの指を掴んだ。

「あなたの手がどうなってもいいの!!」

「もう!!何もかもどうでもい!!」

「それじゃあ、あなたの指輪が壊れてもいいのね」

「!!!!」

 その瞬間、ニリィはゴーグルを外して自分の手をみた。

「大切なものなんじゃないの?それと、大切ついでに、あなたに疑問があるんだけど、さっきの”告発状”どうして、ふたつとも"ベンQ"の名がないのかしら?」

『!!!』

 ベンQとニリィが同時に驚いた。

「あなた、人間を見下している、魔族も見下しているようだけど、本当にそうなのかしら?ベンQの事、本当はトレトーと同じように大事なんじゃないの」

「違う……」

「それなのに、あなた、トレトーの仲間を傷つけてもいいの?あなたの目の前にいるみんな、トレトーの仲間よ」

「……」

 そして、セレェナが言葉を畳みかけようとした瞬間だった。

「それに……そのリングをつくったのは……」









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