悲劇
ニリィは、今度は姉を頼るようになった。姉は、悪魔高校に通いながら、夜な夜な謎の研究をしていた。だが、何も害はなかったので別にかまわなかった。ただ夜中に少しうるさいくらいだ。いままでの、母親のいたぶりに耐えかねて、ニリィにいたずらをする事はない。
深夜。すさまじい物音で目が覚めた。腹部が妙に痛む。と同時に体内を流れる魔力の流れがいつもよりも弱い事を感じた。リビングへと移動する。そちらで、妙な音がしていた。
《ズシャ!!!ズシャ!!》
「お姉ちゃん?」
《ドスッドスッ》
「お姉ちゃん、何をしているの?」
《スッ》
黒い影が立ち上がり、こちらを向いた。
「ニリィ、大丈夫よ、私はもう、あなたの気分がわかったわ……」
「何、何を……」
「私は“研究”を終えたわ」
姉は、月の光にてらされて、その時その姿をあらわにした。全身に呪文や魔法陣が刻まれている。その奇妙な呪文は、まるで入れ墨のように、滲んだ箇所もなくくっきりと刻まれている。
《スッ》
姉が、自分を指さした。その指先を目で追うと、自分の腹部を刺しているのだろうとわかった。
「どうしたの?私は、別に」
「“ソレ”はね、私の魔力、私に“封印”された古代魔人の加護を呼び寄せるものなのよ、両親は私にそれをつけて、私を最強の悪魔にしようとしたけれど、私は失敗した、けれど研究の結果で、私はある事がわかった……それでよかったんだって、なんたってその“呪印”は“寿命”“悪魔の魔力”を引き換えにして、成長するのだから」
ニリィは服の裾をあげ、腹部をみた。腹部には、魔法陣がいくつも取り囲む、巨大な“呪”の文字があった。
「ハッピー☆バァスディ!!!ニリィ!!」
「お姉ちゃ……はあ、はあ……」
ニリィは、怖れおののいた、母にいじめられる前と、最近の姉の自分に向ける笑顔とやさしさが偽りの者であったと気づいて。しかし、怖れながらも足は動いた。まだ“平凡なくらし”の足取りをおうように、願いをこめて。
しかし、リビングのテーブルの影になっている、姉の正面に横たわるものを見たときに、ニリィは気絶した。そこでは、ボロボロに殴られた母が横たわっていたのだった。姉の手は、血で汚れていた。
目を覚ますと、家には火が放たれていた。ニリィは姉に抱かれていたが、姉がふと、近くの森に彼女を下ろすと、姉の目を盗んで、逃げ去った。
その後のことはほとんど知らなかった。ただ、奇跡的にも母は生き残り、今は、親戚にひきとられ、宮廷近くで世話だけされるようになったらしい。資金の支援は今まで通り、父親が、ニリィと姉は行方不明という事になっている。
ある時ニリィは母の姿を一目みようと、その屋敷によった。庭の木をよじ登り、そしてベッドをみた。その時母は、包帯でぐるぐるになったからだを動かし、姉の人形をだいていた。それはまだ仲睦まじい家族だったころに、父がいたころに父と一緒に作った人形だった。
「どう……して」
母は愛しそうに、姉の人形を抱いていた。そして、ニリィの人形をぐちゃぐちゃにして、刃物を突き刺し、テーブルの上にほったらかしにしていたのだった。
ニリィは、返る場所をなくし、そして決意した。
「家のない悪魔として生きよう“家族ごっこ”をできる相手を探そう」
と。悪魔としてはまだ小さなその体と頭で考えたのだ。
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