激情

  吹き飛ばされたニリィは、しばらく横たわっていたが、けだるそうに頭をおこすと、髪の毛を整え、暗い目をして

「ひどい!!ひどいひどい!ひどい!」

 と嘆いた。


 その頃、セレェナたちはマリの案内するままに、ある住宅街に来た。マリはその空き地らしき一角にくると、その地面に手を伸ばす、すると、魔法陣が展開し、一行は気づくと地下らしき場所にいた。

「すごい、どうやって」

「私は……“特別”なの、それがどういう意味かは、今でもわからないけれど」

「もしかして……」

 とセレェナが声をかけると、マリは左手首を見せてくれた。魔法陣の印刷された“タグ”がブレスレットにつながれている。正式に“エクソシスト協会監視対象”と印字されている。

「……」

 セレェナは暗い顔をしたが、マリは対照的に明るかった。

「さあ、部屋に案内するわ」

 そういうと、暗い廊下をすすむ。廊下の突き当りには何もなかったが、その少し前、左側に大きな扉があり、マリが壁の端末に手をかざすと、魔法陣が起動して、電子音がして扉が開いた。

「さあ、いらっしゃい……私の部屋へ」


 ニリィは、久々の“魔力”の浪費、それから人間にしてやられた衝撃からか、頭を抱えてうずくまっていた。

「この野郎、この野郎!!この野郎!!私の家族のくせに!!家族だって!!いったじゃない!!私、私のっ……」

 ニリィは魔界での生活をおもいだしていた。下級な魔族の子供としてうまれ、大事に育てられていたものの、人間でいう10歳ごろのある時、事態は一変した。

「父さんな、魔王宮で仕事をすることになったんだ」

 家族は喜んだ。宮廷画家として推薦され、異例の出世だ。しかし、その幸せも長くは続かなかった。ある日父は多額の財産を残して、そのまま、名を変え、宮廷で別の仮定をつくり、家に帰らなくなった。


 宮廷には、貴族や社会階級の高い悪魔しか近づけない。

「お父さん、どうして」

 ニリィは不安になった。そしてその不安は、敵中した。

「どうして、あなた……」

 母は情緒不安定になり、姉はニリィにあたるようになった。母は、ニリィの姉によくいっていたのだ。

「あなたは、特別な魔術をつかって生んだ子なのに、どうして立派な悪魔にならなかったの?あなたさえ強ければ、私たちの家はずっと幸せだったのに」

 ニリィは、そんな姉を哀れに思っていたが、ある時から、姉は態度を変えた。ニリィを優しく扱うようになり“私たちだけが家族”というようになったのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る