種床のマリ

「くっそ!!……気に入らない、気に入らない、気に入らない!!」

 ニリィは、その場で魔力をため込み、怒りを増幅させているようだった。周囲の人間は、彼女をみつめ、そしてその目に釘付けになった。ニリィはその視線を利用して、チャームを使おうとしているようだった。


 セレェナは急いで、あの女性のもとに向かった。トレトーはいう。

「あいつめは“チャーム”で大量の人間の精力を奪おうとしているようだ、しかし、そんなことをすれば、大量の魔力を使用する、疲労もあるだろう、次の技さえよければ、あいつは動けなくなるはずだ!」

 トレトーは、ぼーっとして走ったせいで倒れ掛かるリコを支えた。その一方で、セレェナは走るのをとめ、階段を上り切った先で“彼女”をみつけた。

「あなた……マリさん……ですよね?」

「え?」

 しばしの沈黙、二人だけが景色においていかれたようだった。女性は顎に手を当て、思慮深そうに眉をよせたあと答えた。

「そうだけど、あなた……教会の方?もう、話すことは」

「悪魔主義者です!!」

 マリさんは目を丸くした。もちろんトレトーもだった。

「げ、厳密には違うけれど、でもそんなようなものです、秘密が多い人間なんです!」

「プッ……ハハハ!!」

 マリさんはハンカチをとりだすと涙をふいて、セレェナに手を伸ばした。

「そう、あなたは悪魔主義者さんなのね、とってもその……思春期って感じ」

「あはは」

 セレェナは頭をかくと、端的に今の状況を説明した。そして言い放った。

「あなたから“悪魔の香り”がするってトレトーが、だから、もしかしたらかばってくれるかもっておもって……」

「ふむ、そうねえ」

 マリさんが考えていると、トレトーが叫んだ。

「やばい!!くるぞ!!!」

 図書館前の階段下広場で、巨大な翼をひろげたニリィが、上をみおろし、そして叫んだ。

「その女のせいなのね!」

 次の瞬間、ニリィは、セレェナの肩に手をやり、後ろをとった。

「まずい!」

 トレトーはセレェナに手を伸ばした。そして、ぎゅっと握り、セレェナに耳打ちをした。

 そのいちゃつく様子をみていたニリィは、余計に腹をたてて、マリさんの腰にてをやり、口から“種”を放りこんだ。

「まずい!!」 

 セレェナが叫んだのもつかの間、ニリィは、種床となったマリさんから“特殊な魔力”をうけとり、人間に魔力で干渉するための力をえたのだった。

「くらええ!」

 とびあがったニリィはセレェナの顔を鷲掴みにして、その上から頭突きをしようとした。その瞬間だった。

「“衝撃波インパクト!!”」

 セレェナのてをひっぱって飛び上がったトレトーは、ニリィの腹に“魔導書”に登録された“ヤニー”の力を使った。ニリィは吹き飛ばされ、地面に転がる。

「ひどい、お兄ちゃん……」

 うるうると目をうるませて、トレトーはその様子にひるんだが、セレェナは足の動きを見逃さなかった。それに応じて、セレェナは口から何かをはきだした。

「バインド・ショット!!!」

 それは、バインド・グミだった。バインド・グミははじけ、爆発した魔力は、ニリィをはるかかなたに吹き飛ばした。




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