廊下、教室

「どいてくれるぅ!?」

《ビクッ》

 廊下をふざけて占拠していた3人の男子生徒にむかって、すさまじい眼光と鋭い声量で言い放つリコ。ふわふわ、おっとりとしたいつもの雰囲気と違い、殺気だち、かつ青筋をたてている。

(出たよ、リコの”男子特効”)

 男子特効と名付けられたそれは、その強烈な男子への冷たい態度に限られない。男子を相手にするときは、力もまた強くなるし過激な手段に打って出る事もある。男子生徒は戦々恐々として動けなくなっていたので

「まあまあ、リコちゃん、それにあなた方も、占拠されると他の方がこまるので、ほどほどにしておいてくださいねえ」

「は、はい、すみません!」

 そして男子生徒たちは蜘蛛の子を散らすようににげていった。それでもリコは、はあ?とでもいいたそうな顔でセレェナをみていたのだった。


 ホームルームが終わり、数時間が経過して昼も近くなったころ、授業中にセレェナは奇妙な人影を廊下側で見た気がした。優等生で、先生にも愛想を振りまいていた彼女は授業に集中していたが、それでも何か胸騒ぎがする感覚があった。そう、廊下にいるものが人間であるように思えなかったのだ。あるいは魔物―もし本当にそうであるならば授業より優先しなければいけない。

 葛藤しつつ、授業の進展をみていたが、意を決して立ち上がった。

「先生!すみません、お手洗いにいかせてください」

 彼女の意外な申しでに目を丸めながらも、セレェナの日頃の行いのせいか、生徒たちも教師もまた、朗らかな顔で、いってらっしゃいといってくれた。


 廊下にでると、その端っこの突き当りの階段の踊り場の影に人を見た気がした。それも、やはり彼女には心当たりのある気配のように思えた。

―悪魔の羽の生え、丸く黄色と白の縞々で目のついた帽子―

 あの子供だ、墓場の近くのビルで見た子供。あれは、人間じゃない事は確かだ。悪い人間じゃない。けれどどうしてこんな場所までついてきてー……。ふと、考え直して、思い当たる節があり、踵を返して教室に戻った。


 踊り場の階段からひょこっと顔を出した子供―悪魔トレトーである。

「ばれたかなあ?ベンQ」

「ばればれでございますよ」

「でも、”約束”は”約束”彼女が言い出したことだ、忘れてもらっちゃこまる」

「まあ、あなた様の”正体”を信じておられなかったのでしょう」

「でも、人間とうまくやれるのだろうか、また失敗するのじゃ……」

「大丈夫、からかいながらも彼女は私をかぶり”あなた”を目撃した、驚いてわたしを脱いでも”見えていた”間違いない、欠落した記憶の関係者、何らかの"契約者"です」




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