騎士のささやき。
セレェナの蹴りは、騎士の頭に直撃したはずだった。が、埃が立ち上ったあと現れた騎士は、まったく微動だにしていなかった。そして、セレェナは騎士がぴくりと肩を動かした瞬間に肩を蹴とばし、距離をとった。騎士は、首筋に手をやり頭を回してストレッチをした。
トレトーは、ふっと高台からおりてきて、お尻のホコリを払った。
「やはりな……」
「やはり?!!何がやはりなのよ、悪魔だか幽霊だか知らないけど、早く助けなさいよ!!あんたがぼーっと見てるだけとは思わなかった!!」
「我は強い、故に……簡単に力を現さないのだ、ふっ」
(うさんくさいなあ……でも、あの時たしかに……)
ふと、睨みながらセレェナは尋ねる。
「あんたなら、コイツ楽々倒せるの?それとも、怖い?」
「簡単だ、魔物くらい……だが、お前の資質を知りたい……我と契約するか?簡単なことだ、私の記憶が戻るまでのこと……」
「あんたの“人間性”によるね」
「我は、人間と悪魔の共存の可能性を探している、今は利用する形だが、私の従者の発明品には人間の“魔力”を利用する事で発動するものがある、人間の魔力と悪魔の魔力は反発するが、悪魔もそれをわかっていて、人間を煽り、騙すことによって自分の魔力に刺激を与え、反響・増幅させて使うのだ」
「御託はいいから、早くたすけてよ!!」
「ならばこう言え、偉大なるベンQの発明に従う」
「分かった!従う!」
「誰に?」
「ベンザだか、ベンキだか……」
「ほう、侮辱ときたか」
「嘘よ嘘!!ベンQの発明に従う!!」
ニヤリ、と笑う。肩に力をいれふりかぶる。
「あ……」
とフォームをそのままで動きをとめた。
「今度は何!?」
「……“少々”幽霊や魔物が見えやすくなり、好かれやすくなるがいいか」
「いいわよ!早くして!!」
トレトーは勢いよく何かをセレェナに投げた。セレェナはそれを片手でキャッチすると、手のひらより小さなテニスボール大のものだ。そのグニグニした感触に若干引いた。
「それは“バインド・グミ”だ」
「何よ、どう使うの?」
「ありったけの魔力……“マナ”を入れろ、それはグミの中で反発し、外に出ようとする、だがそれは“我の魔力”をありったけすったものを材料にしている……その爆発力はすさまじいものになるだろう、あとは投げるなり、蹴るなりして……応用も、あ!!おい!!」
説明の最中、セレェナは敵に向き直る。敵は真摯にセレェナが構えるのをまち、構えた瞬間に、槍を突き出した。
「礼儀正しいわね」
「キシ……デスカラ……」
驚いた。そういえば上位のまものは人間の言葉をしゃべると聞いた事がある。そんな事をかんがえながら、腰をおろして、左回転しなが槍の連撃をよける。ふと、騎士が何かに気づき、やりを振りかぶった。
「!!」
セレェナは、その矛先が背後に向けられていた。リコは自分を心配してか、屋上に上ってきていてペントハウス前にたっていた。騎士はにやりと笑いいった。
「アクマモ、マモノモ、シンジルナ」
「リコ!!!」
だが、呼びかけても反応が鈍いことを悟ったセレェナは瞬間的に体をひるがえし、低く構えると、腰と膝に力をいれ、高くとびあがり、その力を利用して、騎士に蹴りをいれた。
「グッ……」
少しひるんだ騎士は、セレェナの様子をうかがう、セレェナは右手に“バウンド・グミ”を持っていた。
「私ハ……“アノ方”ノ命令デキタ……彼ハコウイッテイタ“オ前タチヲ監視シテイルゾ”」
(??)
セレェナは右手をふりかぶった。そして勢いよく何かをなげた。騎士はそれをよけようとしたが、そのモノの正体に気づき、あっけにとられた。それは、靴下だ。いつぬいだのか、セレェナのものだ。
(グミハドコニ……)
そう考えた瞬間だった。セレェナは思い切り接近し、騎士の懐にはいる。騎士は槍をうちまわしたが、ペシペシとセレェナは槍をかわし、薙ぎ払う。騎士はセレェナの猛攻にたじろぎ、セレェナは槍の根元に近づいていった。そして根付近で、騎士と槍を奪い合う姿勢になると、槍はセレェナの口の異変に気付いた。満面の笑みを浮かべて、頬をパンパンに膨らませている。
(シマッ……)
「プシュッ」
とセレェナの口が少し開かれたかとおもったら、勢いよく白い球体が飛び出した。その球体は、セレェナのマナを取り込み光輝き、また、内部から黒い光ももれだしていた、それは騎士の顔面のすぐ前で爆発し、勢いよく突き抜けていった。
《ズドオオーン》
騎士の頭部は粉砕・消失し、そして首から下も徐々に消失していくのだった。
リコがセレェナに抱き着き、安全を確認して階段を下りる。彼らに続いてトレトーも姿を消すと、一件落着したようだった。だがその様子を、校舎に生える高木の上から見下ろす悪魔がいた。ヤニーである、彼はぽつりとつぶやいた。
「お前たちを監視しているぞ……」
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