悪魔のささやき。

 セレェナは、叫んだ。両手の人差し指と中指をたてて、靴の側面をなぞると足にマナをこめる。

「ホーリー・プットオン!!」

 草履のような魔物が飛び上がる。ふと、墓地でみたものとずいぶん弱いオーラを感じた。敵は両手でセレェナにタックルをしかけるが、のばした手を利用してその上にとびあがり、胴体を横回転させ足蹴りをした。

《ズドオオン!!!》

「ウゴオオオァオオオ」

 まるで、埃をかぶった布を思い切りけったように、煙が飛散し、敵はふぞろいな顔のパーツをめちゃくちゃにゆがませながら、白く美しい光にガラスが割れるような形で〝光の筋〟に浸食され、消滅した。

「実質的なエクソシストの養成高校をなめるなよ!!」

 ふと、地面へ落下し着地した瞬間だった。階段を駆け上ってくる足音とともに、聞き覚えのある甘ったる声が、珍しく覇気を纏い空に響いた。

「危ない!!後ろ!!後頭部!」

 ふと瞬時に首を動かし、それよりも早く目を動かし目の端をみると、ゴミ箱のような魔物が鉄骨を手にしてセレェナの後頭部を強打する寸前だった。セレェナは咄嗟にリンボーダンスのような形で、みをかがめた。

「!!!」

 ゴミ箱のような魔物はおどろいて、ふりきった鉄骨に勢いをもっていかれよろける。その足をセレェナは思い切り蹴り上げた。

「シャアッッ!!!」

《ズドン!!》

 ゴミ箱の化け物は、皮肉にも自分の後頭部を強打し、そのままサラサラと消滅していった。セレェナの美しく長い脚をみて、満足気に笑いながら。


 トレトーは、ペントハウスの上にのって、足をプラプラさせている。セレェナは、乾いた笑いがでた。

「あんた……さすが悪魔ね」

 ぷい、と顔をそむけたトレトーにいら立ちながら、自分とトレトーの間に立つ最後の魔物に目を向けた。

(あの時と同じくらいかしら、評価基準……A+くらいはありそうな魔物だわ)

 セレェナは不意打ちで両手に力をこめ、思い切り的の胴を左右のこぶしで立て続けに二発なぐった……つもりでいた。

《ドン!!ドン!!!》

 むしろ反対に、中世の騎士の魔物は槍のようなものでセレェナの体をうちぬいた。一瞬呼吸が苦しくなる。―霊体―基本的に魔物に実体はないとはいえ、精神的なダメージは感じる。生命エネルギーに直接ダメージが入るようなものだ。その許容量をこえれば、当然死に至る。


 しかし、セレェナには自信があった。

「私は、神の使い!!エクソシストになる女!!!」

 セレェナは、全身からマナを放出し、先ほど両足にためたマナを今度は右手で左足から右足にすべて移した。そして、体を斜めに格闘術の姿勢をとると、甲冑を纏う中世の騎士のような魔物もまた、槍をジリ、とかまえて相対する構えをとった。


 一瞬の静寂。舞い落ちるカラスの羽の残骸……。セレェナは一気に距離をつめった。敵は一瞬何が起きたかわからなかっただろう。敵の視界が悪い事をりようし、姿勢を低くして自分を見失った瞬間に思いきり歩幅を開き距離をつめた。そして、右足をおおざっぱに、左回りにぶん回した。

「!!??」

 本気のケリが来ると思っていた敵はひるみ、後退したが、セレェナは両手を地面につき、次の用意を始めていた。今度は逆に胴を回転させ、勢いよくかかとに力をこめた。

「くらええええ!!!」

《ズドォン!!!》

 すさまじい衝撃とともに、騎士の側頭部に綺麗な一撃がはいった。



 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る