屋上。大親友カリューナ、トレトーの読心術

 放課後。再びセレェナは屋上にいた。向かい合う形でトレトーは彼女を見つめていた。

「きたか……セレェナ、約束を果たしに」

「結局、何が望みなの?」

「我は、我の過去の記憶を取り戻したい、それだけではないぞ、お前にもメリットがあるはずだ……お前の魔晶の“記憶”に歪みが見られた」

「魔晶?」

「お前たちがマナとよび“マナの源[マナハート]》”と呼ぶべきものだ」

「はあ?お前……私たちと悪魔が同じだとでも?」

 ふと、きょとんとして、トレトーはセレェナを見つめた。まるで人形的で、何の疑問も疑いもなく、ただ事実を見透かしているような力のない深淵の瞳がこちらをみている。

「あたり前じゃないか、我たちもお前たちも、もとは同じ種族だ」

 その整然とした態度に、汗をかくセレェナ。今までただの幽霊だと思っていた相手に対して初めて畏れを感じたのだった。

「それで……そうね、私は【あるトラウマ】を持っているわ、それが記憶をゆがめていると思っていたけれど、確かに幼少期から記憶力がよかったのに、“あの時期”だけ記憶が歪んでいる気はするわ」

「あの時期?」

 そっとセレェナは自分の胸元に右手をあてる。ズキン、と心が痛んだ。

「私の大親友、カリューナが大病にかかって、余命あとわずかって時よ」

「ふむ……お前、そいつが大好きだったな、そして、尊敬していた……」

「当然じゃない……“ノブレス・オブリージュ”を地でいく聖人だったわ、悪魔なんて、目じゃないもの」

 ふと、今度はどこかトレトーがたじろいだ様子があり、額から汗を流していた。セレェナは続ける。


「ただし、条件がある」

「条件?」

「“私の平穏な学生生活を守ること”」

「フッ」

「何で笑うの?」

「お前の二重人格はよくわかっているからだ“私のチャーム”は“読心術”だからな」

「はあ、チャーム?」

「まあ、悪魔固有の対人間能力のようなものだ……契約はほぼ成立、だが、まだ書に記していない……そうだ、ひとつ問題があるのだ」


《カァーッ、カァーッ、カァーッ!!!!》

 カラスの群れが飛び立った。そして、その影の向こうから、3体ほどの異形が現れた。草履の頭のようなものに左右斜めになった目玉と、手足のついたもの、ゴミ箱に羽が生えたようなもの、首のない、中世の騎士のようなもの、いずれも魔物だった。


 その中でもっとも迫力のある中世の騎士のようなものが、カラスを2,3羽捕まえると、首元にもっていく。まるで地獄の門のようなギザギザの歯が四方八方に生えた肉がもりあがってきて、断末魔もろともそのカラスをグシャグシャと噛み千切り飲み込んだ。

 


「他の悪魔からの警告だ」

 上空には、暗雲によってこう警告がなされていた。

「悪魔が人間界で自由になれると思うなよ」


「フン、臨むところよ、これで学校に言い訳もできるわ」

 セレェナとトレトーはならんで敵に対して構えをとった。

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