スラム街の姉御・過去からの手紙

 セレェナ・ランブレント。彼女の経歴は偽装されており、過去をしるものが少ない。だがある時期から彼女はもてはやされ始めた。子役としてひっそりと成功していたのだ。子役時代の事だし、点々としているから、学校の友人でも知る人ぞしる時代だ。しかし、そのおかげで、今の引き取り手である義理の母の目にとまった。宝石ブランドを持つ、アーシャ・ランブレント。

 アーシャは言う。

「信頼できる人以外に、あなたが孤児だったことを話してはだめよ」

 そう、セレェナは、12歳になるまで、孤児だったのだ。そして、彼女の強烈な力と格闘術はその時手に入れたものだ。孤児院にいながら、スラム街に出入りし、子供でも大人でも助けられる人は助けていた。時に悪い事をしたり、時に悪い人間をおいはらったり、そうして彼は独自の格闘術と、筋力を手に入れたのだ、今も、ひっそり鍛練はかかさない。


「あなたの都合はわかるわよ」

と、リコがいう。

「でも……」

「でもじゃないでしょ、どうするの?」

(まるで母親みたい)

 二人は教室に戻り、机をかたずけながら見つめあい話をしていた。セレェナが伝えたのは、屋上での事だ。


「私は、あの“悪魔”を名乗る幽霊に、助けを求められたわ、この間助けられた見返りに……というより私が約束したからなのだけど……」

 

―【セレェナ・レンブラント、お前の魔力解析により、我とお前に深い関係があったことがうかがえる、我の“魔導書”には、今も眠り続けるよるべなき魂片がある、それが何なのか、どうして眠っているのか、我にはわからぬのだ】


 【何?魂片って】


 【簡単にいえば、契約によって得られた人間の魂の一部だな、契約書のようなものだ、それによって、悪魔は力を得られるはずなのだ……あるいは、お前の友人、知人が過去に……我と契約を】


 【!!??】

 セレェナは唇に手を当てた。ふと、心当たりがあったのだ。それは彼女が子役時代の事だった。彼女には大親友がいたのだ。彼女を子役に引き込み、かつ、人生を変えてくれた人が……。


 フラッシュバックのように光景が流れ込んでくる。

 【あなたが全部悪いのよ!!!】

 【そうよ、セレェナ、私がすべて悪い……私はあなたの英雄になれなかった、最後まで、あなたの面倒をみれなかった……】

 口の中に苦いものが流れ込んでくる感じがした。コーヒーよりも苦く、嫌悪感がほとばしる。そう、自分自身の“罪”への後悔だ。

 

 (あの時、私は彼女へ私の犯した罪をかぶせた……)

 悪魔トレトーは立て続けに彼女にあるものを差し出した。

 【これが印だ、羊皮紙のようじゃが……これをみてみろ、つまり、筆跡だ】

 ふと、手を伸ばす。文字が霞んで読めないがこう書かれていた。

 「親愛なるセレェナへ」

 それはかつて自分を愛し、自分を助けてくれた人間の筆跡、過去からの手紙だった。


 ふと意識を現実に戻す。教室には机を引きずり席を戻す音がする。

「リコ……私、どうすれば……」

「セレェーナー簡単よー、あなたの親友がいつも言っていたことをおもいだして……“穏やかに待て、そして自分の心の素直さに従え”」

「もし、あれが本物なら後悔する……ありがとう、リコ」

 ふと、リコに感謝をする。するとリコはいった。

「心配しなーい、ここではリコちゃんが、セレェナの姉御おねえちゃんなのよ!!」

 胸にトンと拳をたてる、リコのふくよかな胸がゆれた。

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