休日の終わり。
楽しい週末が終わり月曜日、何気ない日常を終え、制服で帰宅途中、セレェナは足音が一人分多いのに気づいた。もう家の近くだったので、そのまま家に帰ってもよかったが万が一ストーカーの場合、住所を知られるのも嫌だと思った。そこで、あえて足音に聞き耳を立てる。その音はどこかリアリティが欠落している気がした。反響音がないのだ。
音の変化と、リズムで大体の距離をつかむ。“相手は人間じゃない”から、奇抜な手段を使ってもかまわないだろう、と思えた。ふとしゃがみこむ、そして、足にマナを流し込んだ。
勢いよくとびあがると、後ろ向きに回転して、相手の背後をとって着地した。
「ホーリープット・オン」
ストーカーは驚いて振り返る。その姿に一瞬たじろいだが、すぐに決意して、右手にマナを送り込んで、ビンタをした。
「私は、カリューナよ!」
確かにその顔は、記憶の中の姿ににていた。大人っぽくはかなげなまなざし、ベリーショート、白と黒に染めた髪、横に広いが、丸みを帯び美しい唇。
「あなたは、違うわ!!」
今度は手のひらにマナをとりこみ、勢いよく敵の源にマナを打ち込んだ。ペリ、と表皮だけがはげて、左半身の本当の姿が露わになる。白い服をきた虚ろな女性の幽霊だ。
「何をしに来たの?」
「“警告”……私は何もない人生をおくったから、幸せな人生を送れなかった“あの悪魔”は私に生きる意味をくれた」
「あの悪魔?」
「きっと、もうすぐ会うわ、トレトーなんかについちゃ不幸になるっていってたわよ」
「……」
幽霊は、ボロボロと崩れ落ちていく。セレェナのマナは、確かにこうした下等な幽霊を成仏できるが、ここまで脆いは、彼女の恨みがそれほど強くないせいだと思えた。幽霊はいった。
「なぜわかったの?私がカリューナじゃないと」
「記憶の中の姿より……“成長している”から、何らかの呪いや魔術の介入をうけなければ、人間は死後、幽霊になっても元の姿でさまよい続ける……それに、カリューナの魂は“悪魔に取られた”はずだから、その記憶だけぼんやりとあるのよ」
「悪魔は、幽霊や魔物より……人を騙す事に長けているわ、気を付けるのよ」
「わかってるわよ……」
幽霊の成仏を見送った後、違和感にきづいた。振り返ると、物陰の後ろから別の人間が自分をみていた。自分の術に目をらんらんとかがやかせていて、怖気づきながら、頭をさげて姿を現した。
「セレェナさん……ごめんなさい、付け回すような事をして……少し相談があるんです」
そこにいたのはクラント・レヌロだった。
「はあ……学校でいえばいいのに、いいわ、あなたの事、心配だったし……教師も問題視してるのに、屋上の事件のあと教師も私のこともさけたでしょ?すぐに下校しちゃったから、近くの喫茶店に入りましょ、おいしいコーヒーが出るの」
そういって、セレェナはにこりとわらった。
喫茶店に入ると、クラントはゆっくりとしゃべりだした。
「俺……あの時いったみたいに、俺が標的から外れる事で、他人に迷惑がかかるのが不安で……」
「それは、私がサポートするわ、教師だって本気だったわよ、熱血新人教師のユナさんがいるでしょう……彼女の熱量はすごいわよ」
「はは!!」
クラントは、相手がセレェナだったからか、安心して楽しそうに会話をしてくれた。セレェナも楽しく様々な話をして、どこか親近感を覚えたのだった。
「あの……もちろん、脅しや何かではありませんよ、ただ、これ……」
「あっ……」
差し出されたのは“バインド・グミ”だった。小さな破片だったが、トレトーにかえさなければ。受け取ろうとすると、クラントは手を引っ込めた。
「私に預けてください、悪魔の気配がするし、もしばれたら……あなたの立場も危うい……ほかにも持っているのなら、預かりますよ」
セレェナははっとした。そうだ、週末は楽しい事がたくさんあったので忘れていたが、今自分は悪魔に協力をしているのだ。トレトーから“バインド・グミ”を預かってはいたが、たしかにこれを持っていてはまずい、それに。
「ええ、私の親は両方エクソシストですから、道に落ちていたといって、きちんと処分します」
その良心と、自分の後ろめたさから、その誘いを断り切れなかった。
店をでて別れ際、セレェナは思わずこう声をかけた。
「ありがとうね」
「反対ですよ」
「え?」
「お礼をいうのは、こちらのほうです、あの時助けていただいて……」
「はは」
「ははは」
別れたあと、いくつかの交通機関を経て、クラントは“ある場所”にきた。フェンスで囲われたコンテナのように小さな廃屋で、鉄骨がところどころにむき出しになっている。
「きたか……“サンプル回収”ごくろうさま」
黒いカラスのような翼をひろげ、両腕を壁に預けている悪魔“ヤニー”がそこにはいた。
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