挫折
クラントの直ぐ傍まで駆けつけて、そして右手を振り上げた瞬間だった。
《シュン》
ヤニーがギリギリでトレトーの腹に手を伸ばす。
「逃げきれ……」
《ドスンッ!!!》
その瞬間、トレトーの腹部に衝撃が走る。ヤニーのスキル“インパクト”だった。トレントは地面にまた転がされた。手のひらをみて、指をならしてぷらぷらさせながら、ヤニーはトレトーに近づいいていく。
トレトーは、腰にさげたバックから魔導書をとりだし、いった。
「俺には、切り札がある、切り札が」
「切り札?お前に切り札などないだろう、悪魔の魂をひとつももっていないお前には……従者も一人、出来損ないの」
「黙れ!!!」
トレトーが開いた魔導書には、左半分の端、人間の欄に確かに光る魂がはめられていた。
「ほう……」
ヤニーは、顎をあげ、見下ろしながら無表情に相手を見つめた。突然ふりかえり、胸元から砂時計を取り出すヤニー、それをグラウンドの端、校舎脇の水道の上においた。
「ふむ、これで邪魔はいないな……何か小細工をしていても関係なくなる……"チャーム"をかけよう、これは魔術とは別の、"悪魔が持つ個別のスキル"さ」
その頃、校舎の中を駆け回る影があった。リコと、トレトーの帽子である。トレトーがつけている帽子は“フェイク”だったのだ。帽子は自分でふよふよとういて、リコを案内する。
「こっちです、リコ殿」
「ありがとう!!ベンQ!!」
なぜかそういわれると、帽子=ベンQは顔を赤らめたのだった。しかし、ある曲がり角をまがった瞬間だった。
「廊下を走らない!!!!……」
ふと、化粧の濃い、ななめにパッツンとした整ったショートヘアーの、お局、40代くらいの、教師リリカが立ちはだかった。
「それよりなにより、どうしてこんな夜に校舎に?」
「せ、先生こそ……」
「私はどうでもいいでしょう、はあ、残業なのよ、あなたたちこそ、何か物音がするからきてみたら……」
「先生!!見て!!」
「ん?」
「何か、光って見えるでしょ?」
「たしかに……ちらちらと……あれは、マナ?」
「違う!!今、悪魔がグラウンドにいるの!!お願い、先生も力を貸して!!説明している暇もないの!!」
「!!しかし……」
悪魔と聞いて、教師はおののいた。それもそうだ。ここはゆくゆくはエクソシストになる人間を輩出する高校でもある。だが、それでも悩んでいると、ベンQが、突然光輝いた。
「ここは私におまかせを」
ガラスに、帽子のツバの中からでてきた、まるで人形のような手をかざしたかとおもえば、そこにははっきりと、”悪魔”達の姿がうつった。それは光と呼応しており、教師も信じざるをえなかった。
「わかったわ、何をすればいいの?」
「いま私たちは”先生の後ろの教室”をめざしていたの、まずは通して!!」
「はあ……まったく」
教師は、手をつきもたれかかっていた壁からはなれ、どうぞ、とジェスチャーをおくった。
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