壁
薄暗いリオルゥ高校のグラウンドに、4人の影があった。
「クラント―どうして……」
「セレェナ……俺は……あなたになりたかった、けれど無理だった、だから“決闘”を申し入れた……あなたに取りついた“悪魔”と、僕にとりついた“悪魔”どちらが強いか」
深夜―向かいあうセレェナとクラント、その間に、トレトーとヤニー各々の“宿主”の前にそれを庇うようにたつ。
「あんた、“ヤニー”っていったわね、“秘密”を教えてくれるって、本当なのね」
トレトーは、それについて何も聞かされておらず、疑問に思いセレェナを振り返る。
「ああ、本当だ……」
「セレェナ、お前、我を裏切ったか!」
そう叫んだ瞬間、ヤニーは助走をつけたかと思うと、瞬時に瞬間移動のようにトレトーの鼻先にたった。
「!!!」
にやり、と笑うと、トレトーが身構えるより早く右こぶしに黒い“魔力”を宿し、彼をなぐりつけた。
《ズドォオーーーン》
すさまじい音とともに、トレトーは数十メートルもふきとばされる。地面に“ツメ”をたて、なんとか腰を下ろした姿勢をたもってはいたが、その打撃は、トレトーのアゴをはずした。
《ガコリ》
アゴを直すと、トレトーは小さなこん棒状のものを取り出し、応戦の用意をした。しかし、ヤニーは容赦なく接敵すると、両腕で思い切りトレトーをなぐりつけた。一方的だった。
「お前は、かわいい弟だったよ!!」
「くっ!!!」
「お前は、人間を愛し、魔物にさえ慈愛を注ぎ、ベンQを執事にした、だがお前は、家族のだれにも必要とされてこなかった!!!お前はもっと小さなころ、俺を慕っていたなあ!!だがその理由をおれは見極めていたぞ!!お前は、俺が他の誰よりもお前にやさしくしていたといった、だが違う、俺は!!!他の誰より“お前をいびる事が少なかった”だけだ、お前は家族の、兄弟の誰からも愛されていなかった!!!」
《ドスッ、ドスッ、ダスダスッ》
ヤニーの打撃を、なんとかしてトレトーが、こん棒でかばうも、しかしその威力は、こん棒をつくにけて伝わってきた。トレトーは、その攻勢がやみ、ヤニーが息を切らしていると、ニヤリ、とわらってこん棒を横に掲げた。
「このこん棒は……ベンQの発明品だ、“宿主”の力を使い、魔力を増幅する、私が人を愛し、愛される限り……」
《ヂリッ》
一瞬、黒く明るい光が辺り一面を照らした。だがそれは、ほんの一瞬だった。
《パッ》
と消えてしまった。
「がははははははは!!!!」
腹を抱えて、大笑いするヤニー。
《シュンッ》
素早く接敵すると、膝蹴りを放った。遠くころがっていくヤニー、小さな手と体がぼろぼろになり、力なくあおむけになった。ヤニーは右足をあげ、言い放つ。
「“インパクト”」
そういった瞬間、トレトーは、地面に深く食い込み、うめられたのだった。
「はははははは」
拍手をしながら、セレェナに近づくヤニー。
「……これでよかったのね?」
「ああ、そうさ……お前は、俺の宿主になる……そういう“契約”だ」
「本当に“あの手紙”は“トレトーの捏造”だったのね?」
「ああ、悪魔は皆“記憶改ざん”の魔法を使えるからな、特に人間相手なら、造作もあい……悪魔相手なら、相当な魔力がいるが」
「それで?“本物の手紙”はどこにあるの?あなたが本当は知っているって話でしょ?」
「ああ、教えてやろう……」
(!!!??)
ふと、こめかみに手を当てるヤニー、しかし、おかしかった。記憶が“思い出せない”
その時、背後の埃のたちのぼる、“トレトーが埋まった穴”からぬっと、人影が立ち上がる。
「トレトー?」
体を起こしたのは、まぎれもなくトレトーだ。傷だらけだが、まだ息はあるようだった。
「しつこいぞ!!」
怒鳴るヤニー。
「お前が我を忘れても、お前のために宿主を倒す!!セレェナ!!!」
トレトーは叫ぶ。そして走り出した。その目標は、クラントだった。
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