マリと老婆

 トレトーとマリの身を案じて、セレェナは、ニリィを止めようとした。リングの力がなければ、彼女はまた“暴走”してしまう。だが、ベンQが意外にも彼女を制止した。

「マリを信じましょう」

「え?だって」

「私は違和感に気づきました、指輪は壊れていない、彼女がもとめているものは別の物ではないかと」

「???」

 ニリィは、トレトーをゆすった。マリがとめる。

「ちょっと、まだ安静にしていないと」

「どうして!!トレトー!!私は」

 涙を流すニリィ。

「私は、あなたたちを始めてみたころから、家族のようだとおもっていた、お兄ちゃんが大切にしたからベンQの事も他の大人たちとは違って差別もしなかった、お兄ちゃんが、指輪は、お兄ちゃんがつくったものだといったから、おかしいとわかっていても、それを信じた、あなたたちは家族だから」

「か、ぞ、く」

 トレトーは、ニリィに手を伸ばしていった。

「私は、ここまでするつもりはなかった、ただ黙ってでていったお兄ちゃんを捕まえてかえそうとしただけ、従者のことは、おにいの大切な人だから、報告せずに、どうして、おにいは、自分があのリングを発明していないことを悔しくおもったの?それとも、私が恥ずかしまぎれにいった事を本気にしたの?」

「ニリィ……」

「私は、お兄がとても弱い悪魔だとしっていた、それでも、お兄ちゃんのやさしさもしっていた!!」

 ニリィは、右手のグローブをぬいで、その中指をみせた。

「ホラ!!本物の指輪は隠しておいた、庭にいた色々な魔物からも、反応があったから」

 遠くで、ベンQが見つめる。

「トレトー様……」


「そんなウソで、壊れないでしょ!!ただの恥ずかしまぎれにいっただけ!!あなたに能力があればいいとか、あなたの従者の能力は確かに優れていた、だけどトレトー、あなたはあなた、私だけのお兄ちゃんでしょ!!」

 トレトーを抱きしめるニリィをみて、マリははっとした。その背中をいつのまにそこにいたのか、祖母のへブルたたく。

「お母さん」

 うなづくと、マリはニリィに言い放った。

「ねえ、“あなたの血を、お兄さんのためにわけあたえられる?”」

「え?」

 ニリィは一瞬硬直した。

「それって……」

「ええ、悪魔にとっては家名を捨てる、ほとんどの場合は家から見放されることになるわね、悪魔は血を重要とするもの」

「でも、前例が……」

「前例ならあるわ、私は処置したことがある、お母さんも」

「その人が?」

 確かに目の前にいる老婆は、どこか悪魔の魔力を感じさせた。

「この人はヘヴル、かつて、悪魔にとりつかれ、悪魔に救われた人よ」


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