病理 悪魔病 20年前の最終戦争 母ヘヴル

 奥の部屋につくと、厳重な鍵がかかっていた。まるで金庫のような、鍵と番号を入力するタイプのようだ。扉が少しあく、すると、トレトーは言葉を失った。悪魔が本性を現した時のような、黒いコウモリのような羽が見えたからだった。


「それで、マリさんってどういう人なの?私、そういうの疎いんだー」

 リコがとぼけたように口にする。

「はあ、あんたの天然はわかってるよ」

 頭をかきながら、セレェナはリコに説明する。


「悪魔病、悪魔と戦争が行われた第一次悪魔戦争は90年前、そして、20年前にも小規模だけれど戦争がおこった、その時流行したのが悪魔病だった」

「悪魔病?それって」

「人間が悪魔に変異するもの、悪魔の研究によるものだといわれているけれど、”悪魔化”した人間は、人間界を離れ、かつての自分から生まれ変わったように別人になった」

「人間が悪魔に……悪魔病か、たしかにそういう病気があったって授業でならったかも」

「その時、悪魔病に抵抗した人々もいた、悪魔病は、人間に発症するとそのほとんどは健康的被害をおこし、2か月以内に死にいたる、死ななかった場合、半分悪魔になったり、魔物化したり"完全な悪魔化"はほとんど成功しなかったわ」

「そうなんだ」

 リコは声のトーンがさがり落ち込んだ。セレェナは微笑んでその手をにぎった。

「悪魔病に対する偏見もひろがったわ、本来は悪魔と契約しなければ感染はしない、それも一部の悪魔とね、けれど、空気感染するとか人から人に移るとかそういった噂や妄想もひろがった、それで、様々な事件が起きたわ、隔離されたり、嬲り殺されたひとがいたり」

「……」

「でも、そのときまったく異なるふるまいをした人がいたの、それがマリちゃんのお母さんだった、ヘヴルという人だった、悪魔と協調しようと、そして“病を治そう”と、彼女いわく”悪魔病”は悪魔にすら制御できないもので、その病を研究していたのは事実だけど、狙ってそれを広げたわけではないと、未完成のままで、悪魔にも危害があるのだと主張したわ」

「それでどうなったの?」

「彼女は、様々な人間に狙われることになった、エクソシスト、軍、政府要人、そしてある時からぷっつりと表舞台から姿を消すことになるの、皆は、彼女が亡命したと信じた、悪魔に比較的おおらかな、南アジアの国の組織に」

 そこでセレェナは出されたお茶をのみ、一呼吸おえた。

「生きていたのよ、彼女が主導した組織"セント・デビル"によって発見された、彼女は”悪魔化”していた、その世話をしていたのがマリちゃん、彼女は、組織が来たときにも、母親をかばった、そしていったの」

 リコはセレェナの瞳をみつめた。

「“母の病気は絶対に治る、私が治す!”」




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