チャーム

「見せてみろ、切り札とやら……」

 ヤニーはトレトーに向かって叫ぶ。トレトーは、魔導書を広げて、高らかに叫んだ。

「"カリューナの魂よ、我に力を貸したまえ!!"」

 セレェナは、ピクリ、と動きをとめた。


 トレトーの体が、白く光りだした。

「ほう?」

 ヤニーは、片手の肩を片手でささえ、腕をのばし、背中をひねり、ストレッチをすると、自らの腕に力をためた。すると、腕全体が黒い光に覆われた。構えて呼びかける。

「いくぞ!!」

「おう!!」

 トレトーもまた低くかまえ、光るマナをあつめ、対峙する。そして両者、同じタイミングで地面をけりあげて、グラウンドの中央で、衝突した。

《バチバチバチバチィッ》

 落雷のような火花が散る。お互いの腹部をめがけて、魔力そのものを打ち込んだ。これが"兄弟げんかの流儀"だった。

「うおおおお」

「あああああ!!!」

 ヤニーの雄たけびに呼応するように、まけじとトレトーも叫んだ。だがあるとき、ヤニーは相手の体をよこなぐりにおしこむようになぐりつけた。違和感を感じてトレトーが下を見たときにはおそかった。


"インパクト"の痕跡。大穴である。足を取られて、ヤニーは強い一撃をうけ、体制を立て直すまでもなく、魔力で保護されてない脇腹をなぐられ吹き飛ばされた。

《シュゥウウッ》

 吹き飛ばされる自分を追いかける陰がいた。ヤニーである。ヤニーはまたトレトーの腹部に手を当てると、叫んだ。

「インパクト!!!!!」

 終わった……そう意識したころには、すでに遅く、トレトーは斜めにふきとばされ、地面にめり込んでいた。


《ズサ、ズサ、ズサ……》

 朦朧とする意識の中、足音だけが響いた、見下ろしたのは、ヤニーだ。

「やはり……お前はいつまでたっても……最弱の悪魔だ」


 周囲を見渡し、ヤニーは、首をひねり、顎に手をのせる。

「ふむ……おかしい」

「なに……が、だ」

「お前はなぜ人間たちのキレイな魔力と、自分の魔力を混ぜなかったのか、その爆発力は、魔界でもよく知られている、どんな人間でもな……だが、違和感はそれだけではない」

 悪魔ヤニーは、傍らにおちている”ベンQ”の帽子をとる。それが偽物だとわかると

「やはり……あの”使い魔”どこにいやがる?」

「ふん……」

 ヤニーは、指パッチンをする、それと同時に、先ほど水道の上におかれた砂時計が反転した。ヤニーはセレェナに命じた。

「チャーム※命令、”トレトーを始末しろ”」

「!!」

 呼びかけられたセレェナの周囲に赤色の光がまとわりつく。そして、瞳が輝きだすと、セレェナは応じた。

「セレェナは、ヤニーの傍いく、ヤニーは傍らから小さなナイフをさしだすと、いった」

「これは“魔族のナイフ”だ、こいつをさせば、致命傷を負わせる事ができる、できるな?」

「はい、ヤニー様」

 セレェナは、従順になった。完全に支配されているようだった。

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