強がり。

 セレェナは、トレトーに近づき、みおろした。ナイフをてに、穴のそこへおり、両手で柄を持ち方より後ろにふりかぶった。しかし、その時一瞬の躊躇いが生じた。

「大……丈夫だ、セレェナ、すべて、決まっていることだ」

「……」

 セレェナは意識が混濁した、トレトーとの記憶と、カリューナの記憶が頭の中を駆け巡る。

「どうした?セレェナ」

 その時だった、ヤニーが後方からよびかけるも、セレェナは、突然ナイフを取り落とした。

「どうした?……ハッ」

 ヤニーは、自分の手をみつめる。魔力がよわまっている。"種床"から送られてきているはずの魔力が……よわまっている。


「くそが……余計な事をしやがって」

 その奥、校舎からリリカと、リコ、ベンQがでてきた。

「セレェナ……」

 呼ばれたセレェナは、穴から這い上がり、呆然として、頭を抱えて座り込んだ。


 ヤニーは、傍らにすわっているクラントに呼びかける。

「おい……」

「は、はい」

「お前……裏切ったな?」

「……」

「初めから"自分が苗床"にならない事をしって、逆恨みをした、そうだろう?」

「……違う、俺は、"いい人間"を騙すのが嫌になったんだ、"悪事"や"サイト"だって、あのヤンキーたちに言われてやったことだ、でも気づいた、俺は誘惑にだまされる、悪魔に魂を売る人間じゃない」


《ガッ》

 ヤニーは、右手でクラントの頭をがっしりとつかんだ。

《メキメキメキメキ》

「うわああああ!!!」

「俺のような上位悪魔は!!強制的に人間の精力を奪うこともできるんだよ!!」

 ヤニーは”真っ黒の種”をどこかからとりだして、無理やりクラントの口に放り込んだ。クラントの口の中で、種はあばれ、頬をつつき、やがて喉をつたって奥のほうへおりていった。

(まあ、もって10分だがな……しかしその間に”ケリ”をつけてやろう)

 ふと、その脇で、穴の底からトレトーが立ち上がってくるのがみえた。トレトーは、本物のベンQをかぶると、それを反対にまわした。

「ほう」

 間違いない。よく覚えている、それが彼が〝チャーム〟を使う時の術式である。

《パチン!!》

 トレトーは続けて指をならした。それまでがチャームの発動条件。だが、ヤニーは、何も感じなかった。悪魔が悪魔にチャームをかけるとき、基本的に悪魔はそれにかかったと”漠然”と理解することができる。自分より強い悪魔ならなおさらだ。

「ふん、死にかけて、信じたものたちの”無能さ”を悟りながら、実力をだせないとは、本当に、弱い悪魔だ……」


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