弾丸 インビジブル

 ニリィは、満たされたような声で叫んだ。

「お兄ちゃん!!!また私のために色々つくって……」

 そうしてトレトーに抱き着いた瞬間。銃声が響き、弾丸が傍らの空間を貫いたのを感じた。

(そうだ……“敵”だ、油断していた、トレトーの事で頭がいっぱいで、トレトーにも忠告さえしなかった……こんなところで、やっと幸福を満たした場面で死ぬなんて、まるで劣等な人間の悲劇映画でもあるまいし……)

 そして、トレトーからはなれ血がふきでているであろう体を見下ろした。

「あ、あ……」

 なさけない声、我ながら自分で声をだしているとも感じない。麻痺しているのだ。あまりのショックに。あの時から長らくの日々が過ぎても変わらない。私は子供のまま。

 しかし、トレトーは振り返り、すぐさま異変の正体に気づいた。

「セレェナ!!!」

 老婆のフードをはいで、様態を確認している。老婆は“ベンQ”の帽子をかぶっている、ニリィは思い出した。

(あの執事、いつもトレトーのそばにいた、“魔物”執事だわ)

老婆のふりをして腰をまげていたのは、あの少女、セレェナだったのか。しかし、そうじゃない、弾丸は……彼女に命中したのだ。


 トレトーは激高した。そしてセレェナは、ありったけの魔力を右手につめて、バインド・グミを少女にむけた。

「ちが……違う!!」


《ズドーン!!!!》

「!!!」

 セレェナは、バインドグミを使いマナと魔力の混合弾を射出した。それはニリィの髪をちぎった。

「ニリィの……ニリィの髪……お母さんが唯一ほめてくれた……髪!!」

 静かに自分の髪をさわり、今までとは違い、うつむいて静かに怒りをためるニリィ。

「許さない!!!人間ごときが!!私から家族を奪うなんて」


 セレェナに拾い上げられたベンQが、セレェナの手の中で叫んだ。

「危ない!!」

 感づいたトレトーがベンQに向けて魔力を放出する。ベンQは魔力をつかって、バリアをはった。

《ジュゥウウウ!!》

 セレェナは、はじいた敵の攻撃をみた。まるでレーザーのような白いものが飛んできたようにおもったが、下をみると、粘り気のある蜘蛛の糸のようなものが地面に転がっていた。

「蜘蛛?」

「ええ、ニリィの“スキル”です、蜘蛛の糸のような粘り気のある魔力をねって、相手を拘束してしまう、威力こそよわいですが、拘束されると……」

 ニリィは指輪をみた。

「どうして……私はただ“家族”のために、“幻想の家族”のために」

 そしてリングをみる、リングは光っていた、これまでになく、力強く。セレェナは疑問に思った。

「そうだよね、諦めちゃだめだよね」

《ズドンッ》

 すさまじい音をだして地面がくりぬかれ、セレェナはニリィが跳躍したことに気づいた。

《パラリ》

 地面に先程ニリィが示した“告発状”が落ちていた。セレェナはそれをみて、首を傾げた。

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