稽古
数週間するとカリューナに誘われて、同じ孤児には内緒で演劇やテレビの仕事ももらった。カリューナの目の付け所がよかったのか、的確なアドバイスのおかげかなんなくこなせて、割と業界の人間たちからも評判がよかったらしい。
自分にそんな才能があるなんて、とカリューナは意外だったが、トントン拍子に話が進むのを何の疑いもなかった。
しばらくするとカリューナと同じアイドルグループへの参加が決まった。同世代の優しい女の子たちで、セラ、ケリン、ディディという名前だった。
「ホラ、背筋を張って」
カリューナにせかされて、三人と出会った。セラは綺麗な歌声と、平均的な体型だが美しい青い瞳。か細いが意外と体力のある、長髪のケリン。褐色気味にピンク髪の似合うディディ。皆カリューナほどではないが大人びていて、それぞれに美しかった。
カリューナのアドバイスで一番覚えているのは
「周りが求める自分に耳を傾けて、素直にふるまえば、周りの自分に対する期待が、ほとんどおおらかで、ひいき気味な事がわかる、あなたの“味方”は、あなたの“成長”に期待している」
アイドルグループも成功して、1年数か月の夢のような日々が続いた。だが、ある時、カリューナが大病にかかった。奇病で、治療法もない。余命は数か月とされる。もちろんショックだったが、それをカリューナの口からではなく、孤児院の新聞で見たのが一番ショックだった。
そこからだ。記憶があいまいになるのは……、セレェナは、ある大人に奇妙な本をもらった。「魔導書」といったか。悪魔と契約するための本だという。それをどうしたのか、最終的にどうなったのかしか覚えてはいない。
カリューナがいなくなってから、セレェナは気がおかしくなったのか、アイドルグループのメンバーにも孤児院の仲間にも辛くあたった。そして、それだけではなく、恐ろしい悲劇がおこった。
あるときアイドルグループのリーダー、“セラ”が自分のバックを勝手にあさり、ある一冊の本を取り出したのだ。それはグループ内ですぐに有名になった。
「恨み言リスト」
である。グループのメンバーの悪口をつらつらとかかれていた。カリューナの名前はなかった。
それから、居心地が悪くなり仕事も減らしグループも脱退。2か月ほどたったあとのことだ。セレェナは元グループの三人に空き地に呼び出されていた。ボコボコになぐられ、ひん死になっているところを、なぜかカリューナが病院から脱走して駆けつけたのだ。
カリューナは“魔導書”をもってきて、自分に“自分の幸せ”を願えといった。自分の性格からいって、相手を呪うことはできないが、しかし、悪魔の力でおその状況を打破する事はできるだろうと。
セレェナが覚えているのは……カリューナが大変な時だったにもかかわらず。確かに“悪魔”を召喚し、“悪魔”に“自分の幸せ”をお願いしたこと。
あるいはあの恨み言のノートを見るに、そんな記憶がないまでも、セレェナはいじめられていたのかもしれないが、それでもその事実が、彼女の心をひどく痛めつけていた。
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