魔王

「ヤニー!!!お前は人間界に来て何をするつもりだったんだ、お前も“違反者”だろう!!」

 トレトーは叫んだが、ヤニーはとびあがり、すでに左手に力をこめていた。そしてさけびながら、圧縮魔力を手のひらに抱え、振り下ろした。

「俺は……魔王になる、人間界の……魔界でだめだったんだ、俺は、この世界を支配してやる」

 立ち上がる。地面には高さ2メートルほどの大穴があいていた。そしてその一番底に、セレェナが横たわっていた。

「最弱の悪魔に”助け”を求めたのが失敗だったな……人間なら、これで死ぬだろう、俺は、悪魔の血は……緑で汚くてきらいなんだ、人間の血なら……」

 そういって、底を覗き込んだ。そしてそのすぐ横から妙な”気配”を感じた。次の瞬間。

《スッ》

 吹き飛ばされる寸前、彼は自分の頬に紙がふれたのを感じた、そして吹き飛ばされながら、その様子をみた。紙?手紙で拳をおおった、セレェナだった。

《ズドオオォオオオオオオン》

 

「な、何が……何がおきたんだ」

 ズシン、と深い痛みが体中を走る。顔をあげると、グラウンドの端までふきとばされていた。

「7年分の、お返しよ……」

「な、何を言っている、なぜ、人間が悪魔を殴りつけることができる」

「"悪魔と人間"の約束のためよ」

 そういって、セレェナは語りだした。

「7年前、私は“ある人”から悪魔写本ディモコーデックスを渡されたわ、幼かったのもあるし、悪魔に惑わされていたのかもしれない、けれど、悪魔写本ディモコーデックスを使う目的はただ一つ、”カリューナ”の不治の病を治すためだったの」

「そんな、出まかせをいうな!!聞くな!!!お前ら!!」

 そういって、スマートフォンに向けて話した。"裏サイト"を利用する人間の"感情の起伏"が弱まったせいで、魔力が徐々にぬけていく。

「私は“悪魔写本ディモコーデックス”の影響で変貌していった、その書を長くてにした人間は、悪魔に操作されやすくなる、そこに付け込んだのが、あなた”ヤニー”よ」

「ちょ、ちょっとまて、私にはそんな記憶がないぞ!」

「"封印"したからよ、もう二度と、私に敵意を向けないように、そして、もし敵意を向けた時に、カリューナはある取り決めをしたの」

「何をいっている!!お前は、お前たちは!!トレトーと取引をしたんだ!!そして、トレトーは、お前の友人の命を奪った、そしてお前の願いをかなえた!!」

「じゃあ聞くけど、"私の願い"って何?」

「うっ……」

 ヤニーは頭を抱えた。思い出せそうで、思い出せない。

「"かなえたのは、カリューナの願い"よ」

「!!??」

 セレェナは、手紙を広げた。

「これは、この手紙は、"バインド・グミ"よ、私は、トレトーと仲直りして思い出したの。ベンQが開発した魔力圧縮・発散アイテム、さっき、下で倒れてたのも、あなたを吹き飛ばしたのも”これに封じられた魔力”あなたを完全に封印する"魔法陣"も書かれていたみたいね」

「!!」

 セレェナの広げた手紙には、【親愛なるセレェナへ】のあとに、魔力を流し込んだためか、こうかかれていた。

「親愛なるセレェナへ

 あなたのしたことは悪魔との契約であり、許されない事だけれど、清廉潔白で優しいあなたにとっては“いいいたずら”だったわ、私は、あなたが心配だったの、いつも何かを抱え込んで、いつも人の心配をしているあなたが、残念ながら私の時間はもう長くない、あなたの変化をしった悪魔“トレトー”が私に約束をしてくれたの、“私の魂の一部、今世の記憶”を使って、その願いをかなえてくれるって、私は、あなたの魂を使って長生きしようと思わない、その代わり、こう願った。」

 セレェナは、涙を流していた。

「その願いは“あなたが、平穏であること、私が死んでも、あなたと私は一心同体、同じであること、あなたが生きれば、私の魂も共に生きている”」






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