少女

 セレェナは、ある休日。トレトーの手を引きながら、簡単なニットと紺のジャケットをきて、通学途中の駅前によった。

「マリちゃん像?」

「ええ、まあ都市伝説ね、駅前の公園にある“マリちゃん像”悪魔戦争で、人間と悪魔が対立する中で、悪魔に取りつかれた母親を周囲の人間に黙って看病したとかいう」

「そんなもの、悪魔の関係するはずがないだろう?」

「そうね、“数週間前まで”はね、でも今は違う、昨日、一人で家に帰宅する途中でみたのよ、マリちゃん像から“悪魔”がでてくるところをね」

 ふと、セレェナは足をとめた。

「あら?」

「ん?どうしたのだ?」

「変ねえ、魔力の気配を感じない」

「じゃあ、“不在”なんじゃろ、魔界のいいつけを無視した悪魔はそこら中におる」

「いいつけ?」

「ああ、規則じゃな、現在……人間、エクソシストの脅威をしった我々悪魔は、全面的な戦争を禁じるために、人間界に入る悪魔の数を制限しておる、ひとつは”召喚”でよばれたもの、もうひとつは”偵察”直々に魔王から依頼をうけた悪魔、そのほかは流浪者だな」

「それじゃ、あんたは”偵察”部隊ね」

「冗談……、我は“クリューナ”に呼ばれたが、色々面倒で、そのまま流浪になったのだ」

 ふん、とわかっていたかの様に笑うと、セレェナは“マリちゃん像”に目を向けた。それは、カバンを背負った小学生高学年くらいの小さな少女の像で、横たわる母親を必死で看病している様子が造形されている。

「人間というのは、わからんものだ、どうして悪魔を庇った人間を称えるのだ」

「でもあんたは”人間好き”」

「ふん」

「まって、誰かいるわ、あの女性、でも変ねえ、どうしてあんな……マリちゃんに手をあわせているのかしら?恋人たちが待ち合わせることはあるけれど、あんな奇妙な」

「ふ、大方どこかのカルト宗教の信者だろ」

 セレェナは、女性をみる白いワンピースに、コートをきて、巻紙ハーフアップの、すっとした顔立ちの鼻の高い大人びた女性をみた。彼女は、“マリちゃん像”の前で、それにむけて手を合わせてお祈りをしているように見えた。

「じろじろ見るのも悪いし、証拠もないから、今日はやめておこう」

 そういってさろうとすると、トレトーがセレェナの服の裾をつかんだ。

「まて」

「?」

 セレェナが振り返ると、トレトーは、女性を指さして言った。

「悪魔の気配がする、彼女を追おう」

「え?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る