リコの戸惑い。
ある日のリコ宅。
「だれ?」
玄関をあける。確かにチャイムがなったのに、そこには人がいない。ふと何かを察して、リコはスマホをひざ丈ほどの高さにかざした。スマホが操作され、メモに文字が撃ち込まれる。
「我だ……」
リコはすぐさまにっこりわらって、自室へ彼を案内した。
「……」
机の上にメモ帳を差し出す。そこには彼がいるはずだ。しかし、文字が書き込まれない。それだけでリコは“何かあった”のだと察した。そこで、自分から声をかけた。
「私ね、姉か妹が欲しかったの……でも父親がひどい人で、私が小さなころに出ていってしまって、いまどこで何をしているか……」
見えていないのに、トレトーはコクリ、と頷いた。
「だから、入学式でセレェナを見てから“この人だ”と思った、なにせ、ずっと思い描いていた“姉や妹”の姿そっくりだったから、そう、他の皆は気づかなかったでしょうね、だってずいぶん印象が違うから、でも私は気づいた、あれは“天才子役・レナ&カリューナ”のレナだって、昔から彼女をテレビや雑誌でみて、切り抜きを集めていたくらいなの、かわいくてね」
『天才子役……あいつの過去か』
「そうね、それですぐに仲良くなって、思ったのよ、彼女を守ってあげようって、でもね、彼女はずっとどこか私に距離を置いている、それは、他の人から比べれば私が一番近いって知ってるけど、でもどこか、心に距離を置いている、それはかつて、彼女がひとりの大事な友達を失ったことに関係しているの……わかるでしょ?、そうよ、彼女はいつも、彼女の事を考えている、彼女の二つの人格だって、うすうす気づいているだろうけど"カリューナ"の事が関係している、きっと、粗暴な人格は、カリューナの意識をついでいようとしているの」
『ああ、カリューナ……』
「あなた、最後までセレェナの過去の事、お願いできる?」
『もちろんだ、この命に代えても』
「わかった、もし、裏切ったら容赦しないから……」
リコはトレトーのいる場所をすさまじい眼力で見つめた。トレトーは、今までみたことのない彼女の様子に、少し身震いをしたのだった。
廃墟の暗がりで、悪魔ヤニーが笑っている。
「面白い、面白いじゃないか、そう、こんな事をやっていたのか」
ヤニーは、ノートパソコンを見ながら笑っていた。そこには、こんなホームページがあった。
「聖ルカウス高校裏サイト」
ノートパソコンのおかれているボロ椅子の奥には、クラントが正座で座っている。
そのサイトは、誰と誰が付き合っているだの。誰と誰が喧嘩をしただの。だれが盗みをしただの。そんな噂話が書かれている。
「お前がこのサイトの運営をしているとはな、お前は思ったより優秀な“宿主”だ、幾度も説明した通り、悪魔が人間に干渉するには“宿主”の体と精力がいる、そこで、お前を“トレトーとの戦争”の宿主に指名したい……いいか?」
コクリ、と頷いた。
「このサイト、SNSとも連携しているんだろう?登録した学生のSNSのつぶやきがながれてくる、面白いじゃないか、臨場感があって、そうだ……いい事を思いついた」
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