憎悪

「死ね!!!家族の敵!!!リリーの痛みを!!」

「ベリー!!!やめろ!!!」

 アビーが止めようとする。リリーを安全地帯に退避させたあと、ベリーは再び単独でビルの屋上に飛びあがり、ゴリエテを狙っていたのだった。

《バシュッウウン》

 発砲音とともに弾丸は射出され、キャノピーの脇から、ニリィの左手のリングに命中して、リングが欠けた。その瞬間、リリーは、ゴリエテとともにすさまじい雄たけびをあげた、ビル全体、街一体を揺らすほどの振動だった。

《ガアァアアアアアアア!!!》

「おい!!いい加減にしろ!!ベリー!!!」

 アビーがベリーのもとに飛びあがって、彼女を制止する。

「お前の過去は私が知っている!!だが任務は任務だろ!!“イレギュラー”ごと、危険な目に合わせてどうするんだ、私たちには、まだ善悪の判断が……」

「わかる……わかるよ、悪魔に唆された人間は、全員悪だ……」

「!!!」

 暗い顔をして、正気をうしなったベリーを、ビンタしたアビー。

「いたい」

「あんた、ここで死ぬ気か、力量さが見てわからないか!!」

「私は、いつしんでもいいの……本当は、大切なものなんて、もう何もないから」

 アビーは、はっとして、彼女を抱きしめた。

「わかった、私が間違ってたわ、あなたは、まだ戦場にくるべきじゃなかった……調査、諜報とはいえ……でも」

 アビーはベリーの肩をがっしりとつかむと少し揺さぶっていった。

「あなたは、また“訓練生”に格下げね、その前に組織に戻って、一緒に罰をうけましょう、あなたを指名した責任は、私にもあるもの」

 ベリーは、ぼーっとする頭で、アビーに背中にかつがれ、その場をあとにした。


「ああああああ!!!」

「落ち着いて!!ニリィ!!ニリィってば!!」

「いったん引くのです!!私に考えがあります」

 セレェナは、ベンQの制止に従ってその場をあとにした。その際に、ありったけの力で“バインド・グミ”をキャノピーの全面にぬりたくっておいた。破壊はできそうにないので、目くらましである。


 セレェナはマリの傍によった。

「トレトーは?」

「……まだ、時間がかかります、せめて、母の力を借りれれば……」

 トレトーがいう。

「私の、私の事を囮にしてくれ、あるいはそれによって、私の言葉を彼女にきかせて、チャームを上書きする」

「そんな!!無茶な」

「リングは、まだ壊れていない、我にマナを注入するのだ、一時的に我の中で魔力が増幅し、我が無事に生き返ったと思うだろう」

「違うわよ!!ならなんで暴走しているの!!トレトー!!はっきり!!」

 トレトーの目は生気がなくにじんでいた。強い言葉を使ったセレェナの方が一瞬ひるんだ。

「怖れながら、それに付随して私に妙案があります」

 と、ベンQは告げた。





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