やる気? そんなもの母の中に置いてきたからな

『行くわよ! はぁぁぁっ!!』


 ……ほい。


『まだまだぁぁぁっ!!』


 ……よっ、と。


『……こっちまでやる気無くなるから、もう少しテンションあげてよね』


 だってモンスター狩りなんてやりたくないんだもーん。


 そんなやりとりをしている間に、聖剣で斬ったモンスターが呻き声と共に地面に倒れた。


《レベル7になりました、おめでとうございます》


 よし、今日の目標達成! じゃあ帰るか。


『はぁ…… どうしてハルはこんなにやる気がないのかしら』


 やる気? そんなもの母の中に置いてきたからな。


『……ハルが言うと冗談に聞こえないのよね』


「お疲れ様、はい、タオル…… うふふっ」


 ありがとう母、そこまで汗はかいてないから大丈夫だよ…… だから服の中に手を突っ込まないでね?


「ハルちゃんはやる時はやる男の子なのよ? やる気満々だもんね? ……特に夜なんかは」


『……本当よね、配信くらいやる気を出してくれれば、今のハルの強さならもっと早くレベルが上がるのに』


《配信…… でございますか、お姉様…… はぁ……》


 さて、レベル7に上がったら何が新たに出来るようになったのかな、ちょっと色々試してみよう。


 まずは身体から謎の光を発するだけの魔法は…… おっ? 身体から少し離れた場所でも光るようになった! ……何に使えばいいのかは分からないけど。


 あとは頭の中で自分の力について考えると自然とイメージが浮かんでくるから…… うーん…… 母? 手を繋いで魔法? 


 ちょっと母、手を繋いでいい? 


「うふふっ、いいわよ」


 しっかりと指を絡めるように繋いで…… 目の前に光の玉を作るイメージ、っと。


「あぁん! ハルちゃんが私の中を…… んんっ! いやん!」


 ちょっと母!? 艶かしい声を出さないで。


「だってぇ…… ハルちゃんと繋がっているみたいな感覚がぁ…… はぁん……」


 早く試して終わらせないと、聖剣とアナに勘違いされそう! 光の玉、行け!!


「いやぁぁん! らめぇぇぇっ!!」


 手のひらを広げ前方に突き出すと、母と繋いだ手から不思議な魔力が流れてくるのを感じ、俺の中の魔力と合わさり光の玉となって、手のひらから発射された。


 ゆっくりとしたスピードで発射された拳大の光の玉は、周囲にあった木や岩を丸い形でくり貫くように進み、俺が頭の中で『弾けろ!』と念じると、十数メートル先で小さな爆発を起こした。


『何なの? 勇者の使える魔法とは少し違う、光の中にドロドロとした力を加えたような変わった魔法は……』


 いや、俺にも分からん、ただ頭の中のイメージを再現しただけなんだが…… って、母!? 大丈夫か?


「はぁっ、あっ…… あぁんっ…… ハルちゃん、しゅ、しゅごい……」 


 だ、大丈夫じゃなさそう!! 顔が赤く息も荒くなって、少し身体がピクピクと痙攣してるよ!?


「んんっ、 大丈夫…… はぁっ、はぁっ……」


 これは…… 使ってはいけない力を使ってしまった…… のか?


「ううん…… これはきっと私達の愛の光…… うん、きっとそうよ、だって、ハルちゃんと…… した時に感じる力と一緒なんだもん……」


 ……した時!? そこが重要な所のような気がするんだけど、一体なにした時なんだ?


「やん! 私の口からは恥ずかしくて言えないわぁ…… うふっ」


 母、平気そうだな、よし帰ろう! この話はおしまい!


『した時…… いつもベタベタしてるから、きっと……』


 や、止めろ聖剣! 口に出すんじゃない!


『前にハルがマリーとおさんぽしている時に犬に追っかけられて、普段は出ないもの凄いスピードで走って逃げたあの時の力…… 火事場の馬鹿力ってやつね!!』


 はい、帰ろう。



 ◇



「な、なんだい! 今の爆発音は!?」


『攻撃…… ではなさそうね、ちょっぴり勇者の力を感じたような気がするけど』


「はぁっ、ビックリしたぁ…… さあ、気を取り直してナリ村に向かおうか」


『ビックリし過ぎよ、尻もちついた拍子にズボンが破けてるじゃない』


「えぇっ!? やだなぁ…… お尻の所が破けてパンツが見えそうになってるじゃないか」


『とりあえずナリ村に着いたらズボンを買いましょうね』


「そうだね…… せっかくハルに会えると思ってオシャレしてきたのに、台無しだよ」


『だから村の近くに転送してもらいなさいって言ったでしょ?』


「魔力で気付かれてしまうかもしれないじゃないか、それじゃあつまらないでしょ?」


『まぁね、あっ! ナリ村の入口が見えてきたわ、あそこにユアが立っているわよ』


「ははっ、わざわざお出迎えしてくれているのか、ありがたいね」


「お待ちしておりました…… 魔王様」


「うん、出迎えご苦労様、でも今日はハルのゲーム仲間のオウマとして来ているから、村の中ではくれぐれも魔王様とは呼ばないようにね?」


「はい、かしこまりました」




 ◇




「ふぅー! モンスター狩りの後は温泉に限るわね」


「……そうでございますね」


「何よ、混浴の方を気にして、アナもハル達と入りたかったの?」


「いえいえ、お二人の邪魔をしては悪いですから、私が気にしているのはナリ村の入口の方でございます」


「……アナも気が付いた?」


「はい、懐かしいような、もう感じたくないような魔力を一瞬感じましたので」


「私もよ、はぁっ…… とりあえず何かしてくる訳じゃなさそうだし、無視するわ」


「お姉様、丸くなりましたね、昔なら勇者様よりも先に飛び掛かって行く勢いでございましたのに」


「時代が違うもの、向こうもそう思っているんじゃないかしらね、はぁぁ……」


「ふぅ……」


「それに、温泉に入ってると争いなんて起こす気分にならないわ」


「そうでございますね……」




 ◇




「ハルちゃんの魔法、凄かったわね……」


 うん、母と協力して出したようなものだけどな。


「ハルちゃんと私で作り出す愛の魔法…… うふふっ、素敵ね」


 ……愛かどうかは分からないけど、凄い威力だったな、俺にしては。

 前に見た母の魔法にも少し似ているような気もするけど。

 ほら、サキュバスの所で使った、壁をくり貫いた魔法。


「あれは…… 私の中に残っていたハルちゃんの魔力を凝縮して出した魔法よ」


 俺の魔力? どうして母の中に俺の魔力が?


「私はハルちゃんを産むために力を蓄えるだけの器だったから、私の魔力ってもう残ってないのよ? でもハルちゃんが私を生かすために、ハルちゃんの魔力を私の中に残してくれたからこうして今も生きていられるの」


 そ、そうなの!? あれ、もしかして…… 母の中に残してきた魔力の中に、俺のやる気もあったんじゃないか!? きっとそうだ!


「うふふっ、ハルちゃんがやる気ないのは私がたっぷり甘やかして育てたからじゃないかな?」


 …………そうだね。


「だってハルちゃんと離れ離れになりたくなかったんだもん、やる気を出して旅に出るって言われたら寂しいから…… 私が居ないとダメになるくらい小さな頃から英才教育をしたのよ? うふふっ」


 それ、英才教育って言うの? どちらかというとダメ男製造のような気がするんだけど。


「でもハルちゃんがいないと私はきっと魔力が失くなって消えちゃうから…… うふふっ」


 ちょっと、母! 入浴中だから……


「ハルちゃんの魔力を分けてもらわないとね? うふふっ」


 母、そのやり方で俺から魔力を貰おうなんて…… あっ、だからサキュバス達が『サキュバスよりサキュバスらしい』って言ってたのか…… はぅっ!


「んふっ……」


 やぁーん、母ぁ……



 

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