外に変な奴がいるな

「ちっ…… の喜びを知りやがって……」


 んっ? 外に変な奴がいるな。

 人の家の前でやめてくれないかな。


「ミミ…… どうして……」


 もう一人別の所に変な奴がいる、また物騒になってきたな、やっぱり家の中が一番だ。


『ちょっとハル、あの二人、取り憑かれたように雑貨屋を見てブツブツ言ってるけど何なの、あれ?』


 聖剣よ、変な奴には近付いたらいけないんだぞ? あれらは特にヤバい。


 雑貨屋を恨めしそうに爪を噛みながら見つめる聖女、この世の終わりのような絶望した表情で見つめる猟師の兄ちゃん。


 その雑貨屋の店先には……


「ミミたん、じゃあ行ってくるよ、デュフっ」


「ダーリン、なるべく早く帰ってきてくれよ、早く帰ってきてくれないと…… あたし寂しくて死んじゃうからな」


 抱き合いながらイチャイチャする雑貨屋のミミさんと新たに村に住む事となったトルセイヌさん。


 ナニが…… いや、何があったか分からないが、二人の様子を見ると恋人同士にでもなったのだろう、同棲しているっぽいし。


 そして今日、トルセイヌさんが仕事で村を離れる予定があるらしいのだが、かれこれ一時間ほど店先でイチャイチャし続けている。


 近所迷惑だし俺の部屋の窓から丸見えだからやめて欲しいんだよね、ついでに聖女と兄ちゃんも。


「……ミミたん、そろそろ行かなくちゃいけないんだ、寂しいけど行くよ」


「あぁんダーリン、早く帰ってこいよぉ…… んんっ……」


 またキスしてる! もう何回目だよ…… 早く行け!


「……聖の喜びを知りやがって!」


「ミミ…… どうしてあんな奴と…… うぅっ、俺が先に好きだったのに……」


 聖女と兄ちゃんも早く帰れ! あんたら声が大きいから配信に乗ってしまうだろ、こっちは早く配信したいんだから。


「……ミミたん、やっぱり一旦家に戻ろうか」


「ダーリン? あっ…… もう! 朝にしただろ…… うん、いいよ…… もう一回だけだぞ? ふふっ」


 出発しないんかい!! ああ、もう! 防音室買おうかな。


「きぃぃっ! 聖! 聖! 聖!」


「ミミぃ…… ああ、ミミがあんな表情をするなんて…… 俺とは一度も……」


 雑貨屋に入っていく二人の後を追うように雑貨屋の店先に張り付く二人…… もうお前らお似合いだから付き合っちゃえよ。


『恐ろしくて今日ばかりはハルに外に出ろとは言えないわ』


 だろ? 俺も怖くて出れない、だから絶対旅になんて出ないからな!


『はいはい…… あっ、そろそろ時間じゃないの?』


 おっと、丁度良い時間だな、配信開始をして通話準備、っと、チャットで準備完了と送っておこう。


 今日の配信内容は二人で協力してプレイするタイプのゲームで、ゲーム友達で同じく配信者として活動している人とする予定だ。


「あっ、あー、ハルくん、聞こえるー?」


 おう、聞こえるぞー、こっちは大丈夫そうか?


「大丈夫ー、じゃあ早速やろうか」


 了解。


 このゲームは能力の違う二つのキャラの特性を利用して進めて行かなければならない横スクロールアクションゲームで、意志疎通が出来ないとなかなか難しい。

 もちろん一人プレイもあるが、二人プレイじゃないと行けないステージなんかも用意されている。

 だから今回はお互い初見でのプレイになる。


「うわー、楽しみだねぇー」


 間延びして幼く聞こえる喋り方が特徴のゲーム友達、ニックネームはチャッピ。

 本名やプライベートはほとんど知らない、唯一プライベート関係で知っているのは女の子で遠くに住んでいてゲームが得意だって事くらい。

 前にFPSや怪物狩りゲームなども一緒にやった事があるがなかなか上手かった。

 そういえばリーダーと住んでいる所が近いような話で盛り上がっていたよな。


 とにかく、身バレしたくないから素顔を隠している人もいるくらいだからあまり深くプライベートの事は聞かないのがベストだと俺は思っている。


 そういう俺は聖剣のせいで住んでいる所はバレている、ただこの村が辺境過ぎて訪ねてこようとする人がいないので特に気にしてはいない。

 チャッピやリーダーが話していた時は色々ぼかしながら喋っていたから詳しい住所は分からないが、どうせ俺は家から出るつもりがないから割とどうでもいい。


 俺のそんな感じの接し方が楽なのか、結構遊びに誘ってくれる人がいるので俺的にもありがたい。

 一人でゲームするのも楽しいが、複数人でやるゲームはやっぱり楽しいからな。


「ハルくん、足場お願い」


 あいよ、ほら…… あっ、俺を風で浮かせてくれ。


「ほーい、あははっ」


 おい、飛ばしすぎだ! 


 ほどよい難易度で楽しくもあり雑談する余裕がある、進行も順調だ。


「ねぇ、視聴者さんが言ってるんだけど、ハルくんって家から出ないって本当?」

 

 ああ、外は危ないからな!


「えぇー、でも友達と外で遊んだりしたくならないの?」


 ああ、そんな時間があったらゲームしてるな。


「じゃあハルくんって…… ぼっちなの?」


 ぼっち…… ぼっち…… ぼっち……


『ぷぷっ、ハル、ぼっちって言われてるわよ?』


 べ、別にぼっちじゃないし! この前だって外で魔法使って遊んだり、買い物も行ったもんね!


「ハルくん、魔法使えたの!?」


 あ、あぁ…… 耳をデカくしたり、人形に命を吹き込んだり…… 


「えぇっ! 身体強化に…… 蘇生魔法まで!? す、凄いんだね」


 へっ? ま、まあな! へへへっ


『ハル、嘘は良くないわよ?』


 嘘じゃないもん! 耳デッカくなったもん! 人形動いたもん!


『ハルのバカ! もう知らない!』


 うぇぇーん…… よし、ステージクリア。


「あははっ、相変わらず聖剣ちゃんとの漫才が面白いね」


『漫才じゃない!!』


 そうだ! 言ってやれ聖剣! ちなみにどっちがボケとツッコミ?


「それはハルくんがボケでしょ?」


『ぷぷぷー、ハルのボケ!』


 そういう意味じゃねー! まったく、聖剣はこれだから困る、固いのは……


『言わせないわよ! まったく……』


「あははっ、二人はベストパートナーって感じだね」


 そんな訳ないだろ? んっ? リビングが騒がしい…… 母が何かしているのか?


「…………」


 ひっ! あぁビックリした、母が俺の部屋をドアの隙間から覗いてるよ。


『何してるのかしら? ……んっ、『ハルちゃんのベストパートナーは私』? 何に対抗しているのよ、えっ? 『きっとあっちもベストパートナー』? 何の話よ!』


 母…… 今配信中だから勘弁してね? うん、後で埋め合わせするから。


「ハルくん、あの…… 埋め合わせっていうのは?」


 ああ、母が何か機嫌を損ねたみたいだから色々奉仕してご機嫌を取ろうかと思ってな。


「ご機嫌…… 奉仕…… 埋め合わせ…… ナニを埋めて合わせるんだろう……」


 ちょい! 何か語弊のある言い方だな! ただちょっとしたスキンシップを取るだけだよ、肩を揉んだりマッサージしたり。


「スキンシップ…… 揉んで…… マッサージ」


 こいつ、わざと変な所で区切りやがって! 母も覗きながら顔を赤らめないで!

 ……まったく、コメントが加速してるじゃないか、一巡したらどうするんだよ。


「あははっ、やっぱりハルくんは面白いね」


『ハルが遊ばれてる…… ぷぷっ』


 クソっ! からかいやがって…… ひぃぃっ!


『どうしたのハ…… ひぃぃっ!』


「ビックリした! いきなり悲鳴上げないでよ」


 お、おい聖剣! 窓に……


「聖! 聖! 勇者様まで聖の喜びを……」


『ビ○チ聖女…… 窓に張り付いて何してるのよ』


 聖剣、奴は闇に飲まれてる、光を!!


『はいはい……』


「うぎゃあぁぁぁぁっ!」


 おー、今日は一段と眩しいな。


 よし、聖女はいなくなったな、カーテン閉めとこ。


 そしてチラリと窓から外を覗くと、トルセイヌさんとミミさんが相変わらず店先でイチャイチャしていた…… こりゃもう出掛けないな。

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