朝っぱらから何を叫んでやがる!!
穏やかな日常、爽やかな朝。
窓に太陽の光が差し込み、優しい暖かさと鳥のさえずりでゆっくりと目が覚めていく。
「あぁぁっ、聖ぃぃぃっ!」
「うぅん…… ハル、ちゃぁん……」
鳥のさえずり…… 優しい暖かさ……
「聖ぃ! 聖ぃ!」
「んぅっ…… ハルちゃん、そこは、らめぇ…… すぅ…… すぅ……」
…………
「あぁぁぁぁぁーー!! ズルい! ズルいですわーー!」
うるせぇーー!! 朝っぱらから何を叫んでやがる!! あと、母? 一体どんな夢を見ていたの? 一緒に寝るならちゃんと服を着てって毎回言ってるよね?
「うぅん…… だってぇ、ハルちゃんがポカポカして火照…… 暑くなっちゃったんだもぉん」
はいはい、また脱ぎ散らかして…… まったく母はしょうがないなぁ。
「聖! ふぉぉぉーー!!」
聖女、色々溜まっておかしくなっちまったな、もうダメかもしれない。
「ビ○チの鳴き声がするぅ…… 鳴けなくなる加護も追加した方が良いかしらねぇ?」
寝ぼけながらとんでもない事を言ってるね? 声まで封じるのはいくらなんでもかわいそうじゃないか?
『はぁ…… 毎朝飽きもせずによくやるわね』
聖女の暴走はミミさんとトルセイヌさんの事があってから更に酷くなった。
嫌がらせのように毎朝雑貨屋の前で叫びながら踊り狂う聖女、しかし被害を受けている当人達はまったく気にしてはいないらしい。
ミミさんいわく『外の雑音なんて気にならないくらい毎日グッスリ寝てるさ…… ふふっ』と意味ありげに笑っていた。
しかし近所迷惑になっているので是非とも止めさせて欲しい。
『ハルが行ってきなさいよ、うるさくて寝てられないわ』
「ハルちゃん、ほっといてママと二度寝しましょ?」
正直関わりたくないんだよ、あと母、服を着てね。
放置する事に決めて、またベッドに戻り布団を被り耳を塞いでいると、踊り疲れたのか聖女の叫び声は聞こえなくなった。
「うふふっ……」
視界も塞がっているけど何でだろう? こういう時は気にしないのが一番、ついでに顔に柔らかいものが押し付けられているのも気にしない。
「勇者さーん! 居ますかー?」
……んんっ? この声はルナか、こんな朝早くにどうしたんだろう。
「お願いがあって来ましたぁー、勇者さーん」
お願いなんて珍しいな、ちょっと母? 起きたいから俺の頭を抱えている腕を離して?
「んふっ、じゃあ……」
えっ? はいはい…… これでいい?
「んっ…… んふふっ、ハルちゃんからなんて、幸せ……」
『あんた達、本当に親子? まるで恋人みたいね』
「あら? 恋人なんかよりも家族…… 親子の方が固い絆で結ばれてると思わない? 絶対切れない絆よ?」
『うーん、なるほどねぇ……』
何を言ってるんだ? まぁいいや。
はいはーい、今行きますよーっと。
「勇者さん、おはようございます!」
朝から元気だな、それでお願いってなんだ? 最初に言っておくが冒険はしないからな。
「違いますよー、今、動けない村長さんから頼まれた事を手伝って欲しいんです」
村長? しかも動けないって大丈夫なのか?
「しばらくしたら治ると思うんで大丈夫ですよー、で、手伝ってくれますか?」
うーん、内容による。
「内容ですかぁ…… 聖女レーナお姉さんの封印です」
ふ、封印!?
「村の皆からうるさいって苦情がいっぱいきて、村長さんも困ってるみたいです」
いや、確かにうるさいけど、封印はかわいそうだって。
母が加護を与えるよりも本人はハードだと思うぞ?
「村長さんが言うにはレーナお姉さんの内なる聖魔力が溜まりすぎて暴走しているんじゃないかって話ですよ? だから私の魔力でレーナお姉さんの聖魔力を封印して欲しいって頼まれました!」
聖魔力…… っていうか性欲じゃないの? セイセイ言ってるし。
「レーナお姉さんはああ見えても聖女様ですからね、並の魔力量じゃないんです、でも魔力をたくさん解放してない状態が続いたから、ちょっとアレになっちゃったみたいです」
ルナにまでちょっとバカにされている聖女…… かわいそ。
っていうか、何で村長がそんな詳しく知っているんだ?
「うーん、あまり深く聞けなかったんですが、村長さんの死んだ奥さんが聖魔力を使えたみたいなんです、だから『出会った頃の婆さんを見ているようでかわいそうだ』って、小声で言っているのが聞こえちゃいました」
そうだったのか、だから村長は聖女がこの村に住み着いた時にあんなに気にかけていたんだな。
よし、分かったけど、俺は何をすればいいんだ?
「勇者さんはレーナお姉さんの動きを止める囮になって下さい!」
なるほどねぇ、囮かぁ…… だが断る!!
「えぇー、そこを何とか!」
やだよ! あんな飢えた獣の前で囮なんて、食べられに行くようなもんじゃないか!
「大丈夫ですよ、食べられても先っちょだけです先っちょだけ!」
先っちょだけでもイヤっ!! 絶対先っちょだけじゃ済まないじゃん!
「んっ? 指先をかぷっ、て食べられるくらいだと思いますよ? 私が魔法で動きを止めますし」
へっ!? あ、あぁ、指先ね! そ、それでもイヤだなぁ…… あははっ。
「勇者さん、どこを食べられると思ったんですかー? あっ! まさか……」
こらっ! ルナがそんな事を今から覚えちゃダメ……
「頭を丸噛りだと思ったんですかー? いくらレーナお姉さんでもそこまでしないですよー」
いや、頭は頭でも…… うん、もうこれくらいにしとこう。
分かったよ、行けばいいんだろ? ……あれ? 聖女の話題が出ているのに母が騒がしくないな?
『マリーならずっとベッドの上でウットリとしているわよ?』
母…… とにかく行くか、村の皆のために! 勇者として!
『何取って付けたかのように勇者アピールしてんのよ……』
スキップしているルナに付いて行くと、すぐに聖女が住んでいる家の前に…… って、聖女の奴、家の前に豪華な椅子を置いて足を組んで座っているけど、何してんだ?
「ふふっ、よく来ましたね、勇者様とルナ」
何をボス感出しているんだ聖女は、こいつボス的存在か?
「レーナお姉さーん、封印しに来ましたよー」
ルナはルナでノリが分かってないから軽いなぁ。
「ふふふっ…… おーっほっほっ! このわたくしを封印? 笑わせてくれるわね」
「行きますよー、えいっ!!」
ルナ!? そこはちょっとくらい会話する流れじゃないかな? まあ手っ取り早くていいか。
「はっ!! ……ふふっ、効かないですわ!!」
「えぇー、弾かれちゃいましたー」
凄っ…… ていうかルナ? 今の完全に攻撃魔法だったよね?
「ルナは少し大人しくしていなさい」
聖女の手から強烈な光がルナに向かって出た! すっげー!! じゃなくて、ルナー!
「はぅぅ…… 光に包まれて力が出ないですぅ」
おぉーい!! お前がやられたら俺がいる意味が失くなる…… ひぃぃっ!!
「ふふふっ…… 勇者様ぁ? あれを見て下さい」
えっ、あれって……
「ダーリン、何だか切なくなってきた…… 早く帰って来てぇ」
ミミさん? 店先で何をモジモジしているんだ? 確か昨日トルセイヌさんが仕事のためにやっと村から出発したんだよな?
「聖ゆえにミミ様も苦しまなければならないのです、聖ゆえに!」
は、はぁ……
「だからわたくしも聖ゆえに苦しむのならば…… ○女などいらぬのですわ!!」
ちょっと何を言ってるか分からないし、目がキマってて怖い!!
「勇者様の○○○をわたくしの○○○に○○れば、わたくしは踊り狂う苦しみから解放されるんです! だから勇者様ぁ? ふひひっ、一緒に苦しみから解放されましょ?」
お、俺は苦しんでないです! だから巻き込まないでぇーー!! いやー! 脱がさないでぇーー!!
『ハ、ハルーーー!!』
「そこまでだ、レーナ」
えっ、助かったけど…… 誰?
「ほう…… 若くなりましたね、村長」
そ、村長!? いや、ついこの間まで腰の曲がった爺さんだったのに、ルナの魔法のせいでムキムキになってしまったけど、若返りまでしたの!? あらやだ、イケメン……
「レーナよ、処○を捨てても聖は滅びぬぞ? むしろ高まるだけだ」
「な、何を! ちょっとカッコ良くなったからって…… わたくしを止めないで下さい!」
「そうか…… ならば仕方ない、許せレーナ…… 婆さん、すまぬ……」
「何をするつもりですの!?」
「ぱわぁっ!!」
えっ、村長? その指先一つで何が出来るの?
「……レーナ、魔力源の乱れを解消させてもらった、そしてお前はもうイ○○○○」
「へっ? あっ、あぁぁっ? んっ……」
んっ?
「んほぉぉっ!!」
聖女ーー!! なんか白目剥いてビクンビクンしてるんですけど! ダブルピースしてるんですけど!
『ハル、付き合ってたらバカになるから帰るわよ』
うん、そだねー。
後日。
「ふふっ、おはようございます皆さん、今日もいい天気ですわね」
おい、お前誰だよ。
「あら、勇者様もおはようございます」
お、おはよう……
「勇者様の活躍、陰ながら見守り祈らせていただきますね? わたくしはもう一緒に旅立つ資格は…… ないので」
いや見守らなくていいし旅立たないし。
あと……
「ふふっ、コウタローさん、お加減いかがですか?」
「ああ、問題ない」
コウタロー…… 村長と聖女……
ナニかミミさんとトルセイヌさんと似た雰囲気を醸し出しているような……
「やりました! また実験成功です!」
若返った村長を見てはしゃいでるけどルナ、原因はお前か! 村長を実験に使うなってあれほど言っただろ!
とにかく聖女問題は解決したので良かったが、なんだかなぁ……
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