暇なんだろ?
『はぁ…… 平和ね』
ため息なんてついてどうしたんだよ、平和なのはいい事じゃないか。
『それはそうなんだけど、はぁ……』
聖剣。
『何?』
暇なんだろ?
『…………』
こいつ俺に文句を言うかゲーム見ているくらいしかしてないもんな、そりゃあ暇だよ。
『大昔は、それはもう毎日のように敵を斬って斬って斬りまくって暇を感じる事はなかったわね、それはそれで嫌だったけど、『私、活躍してる!』とも思ってたわ、でも今の私は何? ハルに小言を言って、ボケーっとハルがゲームしているのを見て、たまに光るくらい…… 生きてる気がしないわ』
聖剣も生きてるもんなのか? まぁ喋ってるけど。
『一応生きてる事になるのかしら? そんな気は全くしないけど、はぁぁ……』
どっか遊びに行けばいいじゃん、一人で。
『ハルから離れられないからどこにも行けないのよ!』
そんな事言われても……
『せめて少しは旅に出てレベルアップしてくれれば、リンクは切れないけれど今よりは離れられるようになるのに、ハルったらやる気がないからそれも無理ね』
……何? レベルアップで離れられる距離が変わるのか?
『勇者の技、というか能力? って感じで、聖剣を離れた場所から操る事が先代の勇者にはできたのよ、それを覚えて応用すれば私単体でも少しは動けそうなんだけど…… ハルにはきっと無理よ』
よし、俺はレベルアップするぞ! どうすればいい?
『へっ!? ハ、ハルがやる気を出してる! 天変地異でも起こるのかしら』
聖剣から距離を置けるという事は一人になれる時間が増えるという事、是非一人の時間が欲しい。
何をしたいかって? 誰もが一人でもぞもぞしたい日があるだろ、分かるよな? 分からない? またまたぁ、恥ずかしがるなって。
で、どうすればいいんだよ。
『そ、それは…… モンスターを狩ったり、対人戦や対魔戦をするとレベルアップするわ』
えっ? それならモンスターも狩ってるし対人戦や対魔戦もしてるぞ!? なぜ俺のレベルが上がってないんだ?
『ゲームはノーカウントに決まってるでしょ! リアルじゃないとダメよ』
ちぇっ、じゃあ無理じゃん、もっと楽なのはないのか?
『勇者に楽な道なんてないわよ』
えぇー、勇者特有のチートとかあってもいいのに、歩くだけでレベルアップとか。
『すぐに楽しようとするんだから、先代の勇者はとても辛くて苦しい戦いの中、必死に自分を鍛えていたのよ? そこまでやれとは言わないけど、成長するために時には辛い経験が必要になる事もあるの』
ふーん…… でも辛いの嫌だしー、母に危ない事するなって言われてるしー。
『じゃあやめればいいじゃない、どうせハルなんかには無理よ、無理』
なんか…… だと? 聖剣! 俺だってやる時はやるんだ! 今に見てろ!
『ふ、ふーん、へっぽこなハルにできるのかしらねー?』
行くぞ聖剣! 俺の力を見せてやる!
『はいはい、期待してないけどねー ……ふふっ、ハルったらムキになっちゃって、少しくらいは鍛えておいた方がハルの為になるわよね、でもあまり言い過ぎるといじけるからほどほどにしておかないといけないわね』
クソっ! 俺だってやれば…… で、どうしよう、モンスターを狩る? 対人戦? ルナに頼んで…… いや、アイツは加減を知らなさそうだからやめておこう。
『村の外に出る小型のモンスターにしておいたら? 最初から無理すると怪我するわよ?』
……ふん、仕方ない、そうしといてやるか。
モンスター…… モンスター…… おーい、モンスターさーん? いないなぁ。
『あっ、プリンスライムがいるわよ』
えぇ、ぶよぶよして気持ち悪いからパス。
『あっちにはデカチューよ!』
ネズミのバケモン? パスパス。
『あの鳥型のモンスターは?』
チワーッスダック? いや、アイツは鳴き声がデカいからヤダ。
『もう! ワガママばっかり言って! 何でもいいから戦ってみなさいよ!』
いや、初めての相手は慎重に選ばないとな? 初体験は素敵な思い出にしたいし。
『何か嫌な言い方ね…… あっ! コラっ、ハルの邪魔しちゃダメよ!』
誰に言ってる? 木の陰に隠れて見ているのは ……母? えっ? 是非ママとお手合わせを? いやいや母とは戦えないよ、何でそんな顔を真っ赤にしてるの? んっ? 素敵な思い出作りましょうって……
『もうマリーは無視しなさい、ほらモンスターに気付かれたわよ? 私をちゃんと構えなさい』
げっ! 三体ともこっちに向かって来てるじゃないか! あわわっ、どうしよ。
『ハル、集中してモンスターの動きを見なさい、後は私に力を込めて振るだけよ!』
うわぁっ、ど、ど、どうすれば…… ええい! こうなりゃヤケだ!!
「ビギャジュウー!」
や、やったか!?
『どこを見てるの! かすりもしてないわよ! ちゃんとモンスターを見なさいって言ってるでしょ!?』
は、はぁい…… ひぃぃ、怖いよぉー。
『こんな雑魚モンスターだったら私を軽く当てるだけでも倒せるから大丈夫、ハルはやれば出来る子よ、頑張りなさい』
「チワーッス!! チワーッス!!」
軽く当てる…… 左手は添えるだけ……
『……雑念が入ってるわね』
……ふんっ!!
「グ、グワーッスっっっ!!」
手応えあり! 今度こそやったぞ!
……ちっ、外したか、すばしっこい奴め! あれっ? し、死んでる! なんてこった!
『当たってないのにどういう手応えがあったのよ…… コラーっ! マリーはあっち行ってなさい! なんで倒しちゃうのよ!』
母、なんで抱き着くの? 危なかったから? ああ、うん、晩御飯までには帰るよ。
って、母が倒したの!? さっきまで離れた木の陰にいたのに一瞬で近付いてチワーッスダックを…… まさか母、チート使った? あーあ、やる気が失くなってきちゃった。
『ほ、ほら、プリンスライムが残ってるわよ!』
どうせ俺なんて勇者に向いてないんだ。
あー、どうせなら母が勇者になれば良かったんじゃないか? はぁ、帰ってゲームでもするか。
『な、何言ってるの!? そんな訳ないじゃない、ハルが勇者に選ばれたのだって意味があるはずよ…… 多分』
ふーん、こんな雑魚モンスターに聖剣振っても当たらない俺が…… ねぇ。
『ちょっとハル…… あぁもう! マリーのせいでハルがいじけちゃったじゃない! ……えっ、計算通り? いじけたハルを全身全霊慰めてあげる? バカ言ってないでさっさと帰りなさい!!』
はぁぁぁ…… おい聖剣、ブツブツ言ってないで帰るぞ…… って、足がなんかベトベトする! ひぃぃっ! プ、プリンスライムが俺のズボンを溶かしながら上に登ってこようとしている!
『ハル!? は、早く剥がして距離を取りなさい…… あっ』
ぎゃあぁぁっ! ズボンがぁぁっ! ひっ、パンツは…… パンツは、らめぇぇぇっ! ……ぐちょって音がしたけど何の音?
《プリンスライムを倒しました》
《レベル2になりました》
……へっ? 頭の中に直接話しかけてくるのは誰?
《どうも、こんにちは》
あ、あなたは……
《ウンス・アナと申します》
は、はぁ…… 初めまして……
《以後、よろしくお願いいたします》
こちらこそよろしくお願いします…… で、どこから話しかけてるんですか? 目的は何ですか? ご趣味は?
《私はただのウンス・アナでございます、趣味は勇者観察です》
あぁー、観察されちゃってる感じ? やだなぁ。
《はい、ただ観察して勇者の成長を見守るだけの存在でございます》
……戦闘の時だけだよね?
《基本はそうでございます、ただ戦闘状態の時も観察しております、最近だとマリー様とお風呂で……》
わー!! わー!! やめてー!! それはカクヨ…… ここじゃあ駄目なやつ! あと戦闘はしてないから! あくまでも状態異常になっただけだから!
《とにかく、レベル2になりました、おめでとうございます》
あ、ありがとう…… あまり観察しなくていいからね?
《はい、あくまで戦闘の時だけでございますから、心配せずにご家族が寝静まった後、存分に一人で戦闘して下さい》
イヤぁぁぁぁー!!
『あら、アナ、久しぶりね』
《お姉様、お久しぶりでございます》
……お二人共、お知り合い?
『まあね、先代の勇者の時からの付き合いって所かしら?』
《そうでございます、あの頃はお互い大変でございましたね》
『そうね…… でも今の時代は暇過ぎてアナには退屈かもしれないわ』
《いえいえ、勇者様を色々と観察していると退屈しませんので大丈夫でございます》
『相変わらずね…… ほどほどにしなさいよ?』
えっ…… 俺ってそんなに面白いの? いやいや、面白くないから観察しない方がいいよ?
『さて、レベルも上がったし今日は帰りましょうか』
《そうでございますね、お姉様の力もいくつか解放されたみたいですし》
あ、あぁ…… 凄く疲れたしズボンが無くなって足はベトベトだし、早く帰って風呂入りたい。
「あぁん! ハルちゃん、大丈夫!?」
母? 身体は大丈夫だ。
「っ!? ズボンが溶かされて…… 足に怪我はない?」
うん、ズボンだけ溶かすなんて器用なスライムだよな。
「はぁん、汚れちゃったわね、早く帰ってお風呂にしましょう…… じゅるりっ」
《戦闘の準備でございますか?》
ち、違うし! ちょっとした不可抗力だし!
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