レベル2記念配信

「ふふっ、そうなのよ、その後……」


「あの頃のお姉様は血の気が多くて……」


「あらあら、そうだったのねぇ」



 リビングの方から楽しそうな話し声が聞こえてくる。

 母とタダ飯食らい、それに最近、新たに増えたもう一人のタダ飯食らいが話に花を咲かせているんだろう。


 新たなタダ飯食らいの名前は知らないが、青みがかった黒髪に眼鏡、クールで真面目そうな印象の女性が最近、我が家に訪れるようになった。


 旧タダ飯食らいとは友達なのか仲が良いようだが、飯ぐらい自分達でなんとかして欲しい。

 まあ、母が許可しているんだったら俺が何か言う事はないけど。



 そんな事より俺は今、大変忙しいんだ。

 何故かって? それはレベルアップしたからだ。


〖速報! 勇者、レベル2に上がる!!〗


 どこの誰がこんなニュースを流したのか分からないが瞬く間に拡散されて、知り合いからは連絡がバンバン来るし、『レベル2記念配信しろ』などと俺の視聴者達からのコメントも来るし…… まったくどいつもこいつも騒ぎ過ぎだぜ、ふへへっ。


 レベルが上がったところで特に変化は感じないんだけどなぁ…… あっ、聖剣がちょこちょこいなくなる事は増えたな。

 あとは少し動体視力が良くなったのと、力が強くなったくらいか。


 動体視力はゲームで役に立っている、力は……



「あぁん…… ハルちゃん、ちょっぴり男らしくなって…… ママ、お姫さまだっこしてもらいたーい」



 今までは全くと言っていいほど持ち上げられなかったが、今なら少しくらいなら母を持ち上げる事が出来るようになった。


 味を占めた母が一日に何度も要求してくるのには疲れてしまうが、母の喜ぶ姿を見るのは息子として悪い気はしない。


 ……それにしても、〖レベル2記念配信〗って何をすればいいんだよ。

 ゲームするだけじゃつまらないだろうし、かといって雑談するだけっていうのもなぁ。


『それなら友達におめでとうって言ってもらえば?』


 うぉっ! ……聖剣か、いきなり声を掛けられたからビックリしたじゃないか。

 友達っていってもあんまりいないしなぁ、なんせぼっちだからな!


『まだチャッピちゃんに言われた事を根に持ってるの?』


 そんな事ないはず。

 あれ? 聖女は今、村長に夢中で、猟師の兄ちゃんはミミさんの事があっておかしくなってしまった、ルナは遊んで…… いや、あれは遊ばれてるのか? じゃあ俺の友達って…… えっ? 俺ってやっぱりぼっち…… 


『オ、オウマくんとかブロッサムちゃんとかいるじゃない! ぼっちじゃないわよ…… きっと』


 そ、そうだよな! ……直接会った事はないけど。


『MN《マジックネットワーク》友達だってちゃんとした友達よ! げ、元気出して』


 はぁ…… ぼっち……



 


 とにかく落ち込んでる場合じゃない! 配信準備をしないと…… うん、新しい友達を作るために凸待ち(配信に来てくれるのを待つ)配信でもするか!


 じゃあ早速PCでメッセージをMNK《マジックネットワーク掲示板》に送信して…… っと。


〖ハル、レベル2記念配信 凸待ちします!〗


 よし、完了! あとは時間になるまでダラダラしてよう。


《戦闘準備でございますか?》


 戦闘じゃない…… いや、ある意味戦闘かもしれない、『MN配信は戦場』と誰かが言っていたからな。


《それでは私も観察準備に入ります》


 いや、聖剣とのんびりしてていいよ、恥ずかしいから。


《それはマリー様とのお布団の中での攻防よりも恥ずかしいものでございますか?》


 何故…… ちょっと! 色々誤解されそうだから止めて!? 寝場所や寝る体勢の話でしょ? 母はくっつきたがるけど、俺は暑いから少し離れて欲しいとか、そういう話だよね!?


《なるほど、それでハル様は夜な夜な臨戦態勢に…… いえ、何でもございません、申し訳ありませんでした》


 もう、いやぁ……


 


『配信始まったの?』


 ああ、今始めた。

 みんな聞こえるかー? おっ、早速プレゼントコメントありがとう。


『レベル2おめでとう!』『これからの活躍を応援してます』『何してレベル上がったんだ?』『ナニしてレベルアップ!?』


 おぉ…… コメントが凄いな、初見の人もいっぱい来てくれているみたいで嬉しいよ。


 最初はまず、どうやってレベルが上がったかって話をするんだが、あれは激闘だった。


 俺は村を出てすぐ、三匹のモンスターに囲まれてしまったんだ。

 プリンスライム、デカチュー、チワーッスダック…… 同時に出てくるとは思わなかったが、勇者である俺がモンスター相手に怯む訳にはいかないと思い、すぐに聖剣を構えたんだ。


『…………』


 最初に素早い動きのデカチューを華麗に捌き、デカい鳴き声のチワーッスダックに聖剣を振り、一撃で仕留めたまでは良かった。


『……ハル?』


 俺も初めての戦闘で気分が高揚していたんだろう、油断した所を気配を消したプリンスライムに攻撃をされ、ダメージを受けてしまったんだ。

 不意打ちだったからかなりの傷を負ってしまったが、何とか自分を奮い立たせて強烈な一撃を放ち、プリンスライムを爆散させて苦戦しながらもなんとか勝つ事が出来たんだ…… あれは死闘と言っても過言ではないな、うんうん。


『……ハル、嘘は良くないわよ?』


 う、嘘じゃねーし! ちょっと話を盛ってる部分はあるけど、配信を盛り上げるための盛りだからいいんだよ。


『もりもりうるさいわね…… あら? オウマくんからコメント来てるわよ』


 リーダー? 見に来てくれたのか、ありがとう! どうせならこの後やる凸待ちも来てくれよ…… んっ、 動画のリンク? 開いて見てみろって? 

ちょっと確認してみる…… 


《あわわっ、どうしよ》《こうなりゃヤケだ!》《ひぃぃ、怖いよぉ》《ちっ、外したか》《パンツは、らめぇぇぇっ!》


 えっ? えっ? 何で俺の戦闘中の映像が!? リーダーが持ってるって事は…… 出回ってるの!?


 みんなコメントで『嘘乙w』『プリンスライムに苦戦w』『可愛いパンツw』『えっ、お前の母ちゃん美人で滅茶苦茶若くない!?』『これが聖母様か…… ふぅっ』『エッッッ!』とか書いてる! 母、人気だな!


 ああああ…… 恥ずかしい!! 誰だよこんな映像流したの! あんまりだぁぁぁっ!


《私でございます》


 お前、なにするだぁぁぁぁー!!


《ハル様の勇姿を是非皆さんに見てもらいたく、勝手ではありますが全世界に向けて動画を投稿したのでございます》


 アナぁぁぁぁー! ふざけるなぁぁ!


《申し訳ありませんでした、しかしかなりの再生数でございますよ? 削除致しますか?》


 うげっ、短い動画がもう五千万再生くらいされてる…… しかも俺のチャンネルから投稿してるじゃねーか! いつの間に!?


《レベルアップして帰宅したその日にすぐにアップしたのでございます》


『あぁ…… アナったら、だからあの日あんなにウキウキした顔をしていたのね、久しぶりに目覚めたからってはしゃぎ過ぎよ?』


《お姉様申し訳ありません、ですがハル様が予想以上の反応をして頂けて、私は大変満足でございます》


 コイツ…… 俺をおちょくって喜んでやがる! 聖剣みたいに実体がないから捨てる事も出来ない…… 腹立つ!!


『昔から変わらないわね…… 先代の勇者も苦労してたし』


《先代の勇者様よりも良い反応をしてくれる今代の勇者ハル様、私にとっては逸材でございます、自信を持って下さい》


 どういう評価だよ、俺はリアクション芸人じゃないんだぞ? そのうちドッキリとか仕掛けられそう…… やるなよ!? 絶対にやるなよ!? 絶対だぞ!!


《かしこまりました、私は理解のある女でございますから、心配なさらなくても大丈夫でございます》


『ハル…… その流れ大丈夫?』


 聖剣! お前はどっちの味方なんだ? 


『この場合だとどっちの味方もしたくないわね』




 ちなみに、この後もアナと言い争いをしたり、聖剣に色々とダメ出しされたりと散々な目にあい、凸待ちにも誰も来なかった、しかし

 

〖チャンネル『ハルルーム』新たにアナちゃん登場! 凸待ちは0人!〗


 MNKでトレンド入りした。


 こんなのってないじゃん……

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