決してやましい事はないから
どうしたどうした? 昨日に引き続き、外が騒がしいぞ? でも今回は盛り上がっているというか、叫び声のようなものが聞こえる。
「うぅん、もう…… 良い所、だったのにぃ……」
母、変な声を出さないでね? 誤解されちゃうから。
ただ母のおねだりでマッサージしてるだけだから、決してやましい事はないから。
『母親にオイルマッサージする息子っているの?』
いるだろここに。
最近は色々忙しくて母は色々お疲れなんだ、労るのが当たり前だろ?
『……グッズ制作に写真撮影、インタビューにサイン書き、まるでアイドルね』
「うふふっ、ハルちゃんだけの永遠のアイドルを目指すわ、パーフェクトでアルティメットな……」
『ちょっと危ないからやめなさい、色々と……』
どうやら聖母グッズの売れ行きが好調らしく、試しに作った第一弾の母グッズも完売してしまい、再販や第二弾のグッズの販売を求める声が多数あったみたいだ。
俺を産んだ経緯や子育て理論、何より母の二十八歳とは思えない美貌が人気を呼んでいるとかなんとか…… 息子の俺としては複雑な気持ちだが、売上は村の経費に使ったり母の手元に入ってくるため、特に口出しはしていない。
だって飯は豪華になるし、家もリフォームする予定みたいだから文句なんて言うわけないだろ?
特注の防音室に高性能MPC、お高いゲーミングチェアに部屋も広くしてもらって、更にベッドまで高級な物に変わるんだぞ? 引きこもりライフが充実するじゃないか!
『ますます家から出なくなるじゃないのよ』
「うふふっ、そのためのリフォームだもん」
『マリー、少しぐらいは子離れしたら?』
「……私からハルちゃんを引き離そうとしてるの?」
『ちょ、そんな怖い顔しないでよ! わ、分かったから私を折ろうとしないで!』
ちょっと母、マッサージ中なんだから立ち上がらないで! オイルが垂れる!
「ハルちゃん、ごめんねぇ」
ぎゃあぁっ! 抱き着くなぁぁっ!! うへぇ、服にオイルが付いちゃったよ。
「まぁ大変! 急いで洗い流さなきゃ! ハルちゃん、早く!!」
いや、あの…… 自分を洗ってきて?
「一緒に洗えば一石二鳥じゃない!」
あっ…… はい。
『もう…… 仕方ない母子ね』
《…………》
『アナ、どうしたの?』
《いえ、お二人とも仲良しでございますから感心していたのでございます…… 本当に》
まだ外が騒がしいな、仕方ない、見に行くか。
「うふふっ、ママも行くー」
腕にしがみついてくる母も連れて家を出ると、広場の真ん中で正座させられている集団がいた。
「私達は勇者様に助けを…… ぎゃあぁぁっ!!」
「はい、嘘ですね! 私が思い付いた『嘘つき発見魔法』は、嘘ついたらビリビリするんですー」
「ひぃ、あ、あぁ、そ、そんな……」
おい…… 正座したオッサンがビクンビクンしてるぞ! ルナのやつ、何してんだよ。
「じゃあ次のおじさんに聞きますねー? この村に何しに来たんですかー? 勇者さんに会いに来たっていうのは他のおじさん達を見て分かりましたから、目的を教えて下さーい」
「い、いやぁぁ、ビリビリ、いやだぁぁ……」
「えへへー! それなら正直に答えて下さいねー?」
オッサンの集団は合わせて五人、その内四人はもうけいれんしながら倒れている…… どういう状況なの? 俺に会いたかったらしいけど。
「魔王が攻めてきて壊滅した村を……」
「ぐっ! 言う、な!」
「勇者の名を借りて自分達の物にしようとしましたー!! ぎょえぇぇっ!! 本、当の、事、言ったの、に……」
「本当の事を言っても悪い人にはビリビリですー」
「こ、こんなの尋問じゃなくて…… 拷問…… だ……」
「えー!? 私、難しい言葉は分からないです、えーい!」
「ぐわぁぁっ!!」
全くと言っていいほど話についていけないけど、オッサン達が魔法のロープみたいな物で手足を縛られてしまった。
ルナ、このオッサン達は何をしたんだ?
「うーん、よく分からないけど悪そうな顔をしてたから捕まえましたー」
えぇっ!? よく分からないのに拘束して、拷問のような魔法をかけてたの!? 怖いぞ、ルナ。
「うーむ、こやつらどうしたものか……」
「コウタローさん、こういう時はわたくしの名前を使って罪の内容を記した手紙と共に王都に送り付けた方がいいですわ」
「やはりそうするしかないか、レーナに迷惑がかからないか?」
「大丈夫ですわ、今は名ばかりの元聖女ですもの、わたくしがどうこうする必要はないと思いますわ、それに…… 王都なんて行ったらコウタローさんとしばらく離れ離れになってしまいます、そんなの嫌ですわ……」
うん、よく分からないまま解決したみたい、俺の出番はないな、良かった良かった。
「おい、勇者」
んっ? クレアさん、どうしたの?
「山の向こう側の村に調査に行きたいんだが」
えっ…… 俺に言わなくてもいいよ、行ってくれば?
「いや、行くなら勇者も来い」
え、やだ。
「いいから! 奴らの話が本当なら魔王が近くにいるはずだ、さすがに魔王がいるなら勇者が行かないと話にならないだろ?」
……やだよ
『ハル、行くわよ』
やだ!
「お前! 勇者だろ!? 人間の村が魔王に滅ぼされたのかもしれないんだぞ!? もしかしたら次はこの村に攻めてくるかもしれない! その前に止めないと……」
やだやだ! ザコだもん! レベル4だもん! 魔王となんか戦ったら死んじゃうよ!
「……うーん、ちょっと気になるわねぇ、ハルちゃん、ママも行くから行ってみましょ?」
うん、行く。
『「何であっさりオッケー出すんだよ!!」』
聖剣とクレアさんハモってる、仲が良いね。
よし、行くとなれば準備しないとな!
「うふふっ、ママも一緒に準備するわぁ」
それじゃあまた後で集合って事で! 聖剣も帰るぞ?
「……おい、何で勇者はあんなに母親の言うことは聞くんだよ」
『マリーが言うには教育のおかげらしいけど、ここまでくると私にも分からないわ……』
おーい、置いていくぞ?
『はいはい…… まったくもう!』
ドラゴンのいた山の向こう側の村となれば結構な距離があるし、とりあえず携帯食料に回復薬、着替えも少し持って行って、あとはゲーム…… っと、これくらいか?
『うん、ゲームはいらないわね』
えぇっ!? 移動中は暇だからいるだろ。
『少しは気を引き締めなさい! いつ魔族が…… 魔王が襲ってくるか分からないのよ!? それよりも防具の確認と予備を持っていきなさい!』
防具かぁ…… 重いんだよなぁ。
『ハルの装備なんて軽い方でしょ? 自分を守るための物なんだからちゃんと持ちなさい』
分かったよ、あとは忘れ物ないよな?
「ハルちゃん、準備出来た?」
大丈夫だと思う…… って、母!? なんて格好をしてるんだ!
「うふふっ、似合うかしら?」
母が身に付けていた装備は光輝くドレスのような修道服。
しかし胸元は谷間が見えるくらい大きく開き、スカート部分の橫は深いスリットが両側に入っている…… 前にやったゲームに出てきた、飲み屋の綺麗なお姉さんのキャラが着ていた物に似た装備だな。
とりあえずスタイル抜群の母にはとても似合っている。
「お母さん…… サリアさんが現役時代に装備していた物なんですって、うふふっ、魔族の使う魔法に耐性があるらしいのよね」
おばあちゃんが? そういえばおばあちゃんの若い頃の姿を写真で見た事あるけど…… スタイル良かったとか言ってたもんなぁ、じいちゃんが。
「どう、ハルちゃん? ねぇ? ねぇ?」
うっ、そんなに一部を強調しなくても…… 似合う、似合うから! 母、ビューティフル!
「そう? ありがとハルちゃん」
コラッ! スリットをペロってしないの!
『遊んでないで早く行くわよ…… 本当に、緊張感ないんだから!』
はーい、じゃあそろそろ行こうか。
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