速っ! 怖っ! 母っ!?

 移動中にゲーム? 誰だ、そんなバカな事を言った奴は! ……俺か。

 移動中にゲームなんて出来る訳がないんだよ、分かったか!? ……えっ、分からない、うん、そうだよな、俺も分からなかった。


『わぁぁっ! 速いわね!』


「やぁーん! ハルちゃん、捲れちゃうぅぅ!」


 ひぇぇっ! 速っ! 怖っ! 母っ!? ああ、もう!!


「何ビビってるんだよ、これでもゆっくり安全運転してるんだから、なっ? レオ」


「えぇ、いつものクレアさんならもっと飛ばしますからね」


 なぜ俺がこんなにビビっているのか教えよう。

 俺達は今、フライングバナナボートに乗っているからだ。


 てっきり馬車で行くのかと思ったら、クレアさんが『そんなチンタラ走って行けない』とか言って、レオくんにこれを出させた。


 俺も乗ってみたいと思っていたから、最初はワクワクしたよ? でも、生身で風を受けながら遥か下にある地面を見たらビビってしまった。


 だって腰にベルトを巻き付けて跨がるだけで、足はぶらんぶらんしてるんだ、支えは腰のベルトと目の前にあるハンドルのみ、怖いだろ? 俺は怖い。


「ハルちゃぁぁん! ママ、怖ーい!」


 しかも俺の後ろに座っている母はハンドルを持たずにずっと俺にしがみついてるから余計に怖い。


『マリー、怖そうな顔してないわよ? むしろ嬉しそうにしてるじゃない』


 そうなの!? じゃあ離してよ!


「いやん、ハルちゃんのエッチ!」


 ごめん、太ももに手が触れて…… って、ちょっと母、生足じゃないか! あんなにスリットの入った服だもんな、跨がれば当然……


「コラーッ! 大人しく座ってろ! さもないとスピード上げるぞー?」


 やめてーー!! あぁぁぁー!! 



 そんなこんなしているうちにあっという間に山の向こう側へと到着した。

 

「村って…… あれか?」


 そこにあったのは建物がすべて倒壊し、ほぼ更地になっている場所だった。


 建物がないから当然人もいない、なのに何かが変だ。


「魔王に襲われたって言ってたよな?」


「やっぱりおかしいわね……」


 とても戦闘があったとは思えない壊れ方だ、戦闘経験のない俺でもそう感じるくらい。


『村そのものを無くすために壊したように見えるわね』


 そう、人が争った様子や亡くなった様子もない、それなら誰もいなくなってからわざわざこんな派手に壊したのか?


「じゃあ住んでいた人達はどこに行ったんでしょうか?」


「うーん、生活用品とか、家具とかも少ない所を見ると、移住したとか?」


 そう考えるのが合っているような気もするが、どうしてこんなに壊す必要があったのか……


「……でも、少しだけ魔族の魔力を感じるわ」


『マリーもそう思う? 私も微かに感じていたわ』


「魔族が絡んでいるのは間違いないだろうけど…… じゃあ村で正座させられていた奴らが言っていたのは何だったんだ?」


『きっと建物を壊したのは魔族なんでしょうね、きっとアイツらは壊している様子を見たんだと思うわ』


 じゃあ住人は魔族にさらわれたとか?


「それなら生活用品とか家具まで持って行くか?」


「そうよねぇ……」


 うーん、分からん、でもこれからどうするんだ? 住人を見つける手がかりもないし、情報もないぞ?


「ここから近い村は?」


「えーっとぉ…… ここからだと一番近いのはオンワ村かキッチーク村ねぇ」


 オンワ村…… キッチーク村…… あっ!!


『ハル! こないだ家の前で騒いでた連中!』


 そうだ! キッチーク村の奴って言ってた! たしかオンワ村の住人を奴隷にして売りさばこうとした所を……


「という事は、魔王じゃなくて魔王直属の騎士団が動いているという事か」


 もしかしてこの村もキッチーク村に襲われそうになったのか?


「可能性はあるわねぇ、とりあえずオンワ村とキッチーク村の様子も見に行かない?」


「そうだな、誰かいるかもしれないしな、よし皆乗れ!」


 またフライングバナナボートか…… ゆっくりお願いします。


 そして俺達は最初にオンワ村に向かい、同じように不自然に壊されているのを確認してからキッチーク村へと向かった。


 でも……


「おい、勇者の家に来た奴ら、キッチーク村から来たって言ってたんだよな?」


 たしかそう言ってたはずだけど……


『私も聞いたから間違いないわ』


「じゃあどうして同じように壊されてるんだ?」


 おかしい…… よく考えたらオンワ村は魔王直属の騎士団に救われて、その頃にはキッチーク村にも人が住んでいたはず。


「この短期間で三つの村が消えたって事になるわねぇ……」


 何があったんだろう、誰一人いないのが余計に不気味だ。


「どうする? 全く手がかりが掴めないぞ?」


「ついでに他の村も回ってみますか?」


「でも近くといってもキッチーク村からだと結構離れてるのよねぇ」


 もう帰らない? 俺達には分からない……


『ここまで来たんだから行ってみましょう、気になって仕方ないもの』


「よし、それなら行くぞ!」


 ……ですよねー。

 

 そして遠かったがキッチーク村から一番近い別の村に行ってみたが、その村は何も被害はなく普通に生活していた。

 ただ、キッチーク村やオンワ村の人達が訪れたりもしてないらしいので、やっぱり手がかりはなかった。



『はぁぁっ、モヤモヤするわ!』


「三つの村の住人はどこに行ったんだ?」


「魔族とも出くわさなかったしねぇ、分からないわぁ」


「どうしましょうか、今日はこの辺にしておきますか?」


 うん、そうしよう! もうフライングバナナボートは疲れるから嫌だ。


 今日は諦めて帰ろうとオンワ村の上空を通り過ぎた時。


『っ! ちょっと待って! あれ…… 人じゃない!?』


 廃墟になっているオンワ村の中に、ポツンと立っている人が見えた。


『ちょっと行ってみましょう!』


「ああ!」


 うぎゃあぁぁっ!! 急降下するなぁぁぁっ!! ……はぁぁっ、死ぬかと思った。


 そして村の近くにフライングバナナボートを停め、立っている人に近付いてみると……


『……魔族ね』


「ええ、でも子供かしら?」


 子供くらいの身長の魔族の女性が立っている。

 なぜ子供くらいなのに女性って分かるのかって? 不釣り合いなたわわがあるから…… イタタっ!!


「ハルちゃん?」


 母、脇腹をつねらないで! あとぺぇを見せつけなくてもいいから! 


「おい、何してるんだ?」


 ほ、ほら! クレアさんが話しかけてるよ? いや、たわわは見てない! 母のたわわしか今は見えないから! だから押し付けないで!


『ハル達も何してるのよ……』


 聖剣、助けて! 前が見えないんだ! 攻撃を受けている!


「うふふっ、ハルちゃん? 見るんじゃないの、感じるのよ?」


 感じる…… たわわを? 


『バカやってないで私達も行くわよ』


「じゃあハルちゃん、行きましょ?」


 目隠し状態で移動は大変だから、ねっ? 母、ちょっと離れて…… うん、人生諦めが肝心だな。


「あ、あの…… わ、私は……」


「怪しいな、お前魔族だろ? 何で人間の村、しかも廃墟にいる?」


「へっ!? あ、あぅ、私…… 忘れ物を取りに」


 忘れ物? ここの住人ではないよな、魔族だし。


「はぅっ! ち、違うんです! あっ、えーっと、あっ! み、道に迷って…… えへへっ」


 笑って誤魔化した! こいつ怪しいぞ!


「何か知っているみたいだな、ちょっと来てもらおうか」


「ひぃっ! やめて下さい! あ、怪しくないですからぁ!」


『じゃあ何でそんなビクビクしてるのよ、やましい事があるんでしょ?』


 ビクビクしてるのか? そうは見えない…… あっ、目の前すら見えないんだった! あははっ


「あわっ、あわわっ…… ど、どうしよう…… このままだと…… そうだ! えーい!」


「ハルちゃん! 危な……」


 ぎゃあぁぁっ! あぁぁ…… ぽわわぁぁ……













 あれ?



「わぁっ! ナッくん、目を覚ましたみたいだよ!」


「エミリア、お前なぁ、テンパったからって知らない奴まで転送魔法で連れてきたら駄目だろ? ミコに怒られるぞ?」


「うぅっ、ごめんなさぁい」


「ったく、おっ、兄ちゃん大丈夫か?」


 ……ここは?


「あー、ここは俺達の隠れ家ってところかな?」


 あれ、皆いないぞ? 俺一人か?


『ハル気が付いた?』


 聖剣! 良かった、ぼっちになったかと思ったよ。


『でも状況は良くないわ…… この感じ、きっとここは魔族側の国よ』


 えっ? 魔族の…… えぇぇー!?

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