へへっ、そうかな?

「やぁ、久しぶりだねハル」


 リーダー久しぶり! お互い忙しくて時間が合わないから、なかなか一緒に配信出来ないな。


「そうだね…… 僕も忙し過ぎて、個人の配信すら出来てないよ」


 最近配信してないから少し心配してたよ。


「あははっ、そう言うハルだってあまりしてないよね?」


 うん、最近周りがバタバタしててね……


「噂で聞いてるよ、勇者ハルは魔族の人達も受け入れた新たな村作りで多忙だってね、やるじゃないか」


 いや…… 勝手に話が膨らんでいってるだけだから、特に俺は何もしてないんだけどね。


「それでもハルは魔族や人間とか関係なく、困っている人達に救いの手を差し伸べているんだから凄いよ、さすが勇者だね」


 へへっ、そうかな? いやぁ、それほどでも……


『家からほとんど出てないけどね?』


 おい聖剣! 今良い話で終わりそうだったのに口を挟むなよ!


「あははっ、二人は相変わらずだね…… じゃあ本題に入ろうか」


 ああ、忘れるところだった! じゃあリーダーお願い。


 

 久しぶりにリーダーと通話している。

 お互い忙しいのでゲームで遊ぶ時間はないのだが、リーダーにどうしても教えてもらいたい事があったので、お願いして今日時間を作ってもらった。


 そのお願いとは、ズバリ動画作りのための機材や編集のコツを教えてもらう事。

 ユアさんの頼みで、新たに完成した宿屋の宣伝を頼まれてしまったんだ。


 配信者としてそこそこ知名度がある俺が宣伝すればお客さんも来るだろうし、何より勇者が直々に宣伝しているとなれば、安全面での心配も減るんじゃないか、というのがユアさんの考えのようだ。


 只でさえ魔族と人間が共に暮らす村で、立ち寄る事すら躊躇ってしまう人が多いと思われる珍しい村を観光地にしようとしているんだ、普通に宣伝していたらお客さんもあまり来ないだろう。


 それくらいは協力しないと聖剣にガミガミ言われてしまう。

 それに……


「うふふっ、ハルちゃんに撮影されるなんて…… ドキドキしちゃう! 綺麗に撮ってね?」


 宿屋の案内動画に出演する予定の母がノリノリだから、下手な事は出来ないんだ。

だからリーダーに無理言ってお願いした。


 母も『聖母』として名前が売れているし宣伝効果はあると思うし、どうせ撮影するなら良いものにしたいもんな。


「最近だと小型で綺麗に撮影出来るカメラもあるし、一人で撮影するなら値段も手頃なこの辺のカメラで…… あと編集ソフトもおすすめのを送っておくよ」


 おお、ありがとうリーダー。

 リーダーも最近動画をよく上げているけど同じ物を使ってるのか?


「そうだね…… 僕の場合は撮影してくれる人がいる時もあるけど、個人で撮影するならこれだね」


 んっ? ……ああ、この動画か。

『最近人気のスイーツ食べてみた!』……リーダー、なんか可愛らしい事してるな。


「あははっ、失礼だねハルは、僕は甘いものに目がないんだよ、それにその動画はブロッサムも一緒に居る時に撮影したものだからね」


 ふーん…… たしかに美味そうだな。

 店の場所は…… えっ? 魔族の国!? えっ? もしかしてリーダー……


「僕は魔族だよ? ハルは知らなかった?」


 えぇぇーっ!? し、知らなかった……


「あはははっ! そうだったんだ、いや…… それもハルらしいね、ところでハルは僕が魔族だと知ってどう思う?」


 どうって…… リーダーはリーダーとしか思わないけど…… 


「うん、それがハルの良い所だよ、僕はそんなハルだからこそ、好きになって一緒に遊んでるんだからね」


 いや、そんな風に言われると照れるな…… っ、おわっ!?


「うふふっ、私の方がもーっとハルちゃんの事が好きなんだから」


 母…… 別にリーダーにまで張り合わなくてもいいんじゃない?


「ははっ、マリーさんも相変わらずですね、大丈夫ですよ、友人としての『好き』ですから」


「そう? じゃあ許してあげる、ふふっ、んー、ちゅっ」


 んぷっ…… わざわざキスしてから居なくなったよ…… まったく。


「はははっ、相変わらず愛されてるねぇ」


 いや…… うん、まぁ…… 


「とりあえず後は物を揃えて色々試してみるといいよ、分からない事があったら連絡してくれればすぐに答えるし」


 ありがとう、わざわざ時間作ってもらって悪いね、それじゃあまた連絡する。


「ああ、頑張ってねハル」



 ふぅ…… それにしてもリーダーがまさか魔族だったなんて…… それだもんなかなか会えないよな。


『身近で仲良くしている人が魔族だなんてビックリよね……』


 聖剣は正直どう思うんだ?


『うーん…… 私も色々とこの時代について見たり調べたりしたけど、今は人間とか魔族なんて言っている自体、古い考えなのかも、って思っているわ』


 そうだよな、俺もそう思うよ。

 人間でも人をさらって奴隷にしようとする悪い奴もいるし、魔族だって勝手に魔王の名前を使って悪い事している奴もいるしな。


『ふふっ…… ハルも時々は勇者らしい顔つきになるわね、少し安心してきたわ』


 勇者らしい顔つきってどんなのだよ。

 はぁー、とりあえずミミさんの店でカメラを取り寄せた方が早いかな? Zomahonだと手数料高くなりそうだし。


『またぐーたらな顔つきに戻っちゃったわ』


 おい! 失礼だぞ!



 ◇



「うふふっ、ハルちゃん…… ちゃんと撮れてる?」


 ああ、バッチリだよ。


「んふっ……」


 いや、母…… そんな谷間を強調しなくていいから。


「えぇっ? じゃあ……」


 母、一応試しに撮影しているだけだからいいけど、脱がないで。


「綺麗に…… 撮ってね?」


 ちょっと、母……


「あら? ……んふふっ、もう、ハルちゃんったら……」


 こ、こらっ! 母、何して……



 ◇



「最近、私の出番がありませんね」


「モンスター狩りをするにしても裏山が無くなっちゃって不便になったから、なかなか修行出来ないのよね」


「そうでございますね…… ふふっ、私の勝ちでございます」


「うぅっ! ……アナにパズルゲームでは勝てないわね」


「お姉様は頭を使う系のゲームは苦手でございますか?」


「何よ! 私が脳筋みたいな言い方して!」


「そういう訳ではございませんよ…… あら、ハル様…… レベルが上がりましたね」


「なんで!? 確か今日はマリーと二人で試しにカメラを使ってくるって出掛けただけのはずだけど…… まさか誰かに襲われた!? 早く助けに行かないと……」


「いえ、危険な事は起こってないので大丈夫でございます、お二人の邪魔をしてはいけませんよ、お姉様」


「そ、そう? アナがそう言うなら大丈夫なんだろうけど……」


「はい、大丈夫でございます…… これはこれは…… 激しい戦闘でございますね」


「アナ?」


「何でもございませんよ、お姉様」



 ◇



 ……カメラの動作確認を行い、母と二人で完成間近の宿屋付近を歩いている。

 リーダーの言った通り、軽くて持ちやすく、映像もとても綺麗に撮れていたので宣伝動画を撮るには良さそうだ。


「うふふっ!」


 母もご機嫌で、俺の腕に抱き着きながら微笑んでいる。


 それにしても、ここ数日でこの辺りの景色も一変したな。

 宿屋はほぼ完成して、隣には温泉施設まで建てられていた。

 そして移住してくる人達のための住居も次々と完成している。


 木造をメインに、岩を魔法で綺麗にカットしたものが所々使われ、おしゃれで丈夫な家になっているとユアさんが説明してくれた。


「この短期間にこんなに建物が建つなんて凄いわねぇ、ノト村の時は大変だったのに、ユアちゃんの魔法は便利ね」


「細かい所は魔法じゃ難しいからやっぱり手作業になるんだけど、それでも簡単に建てられるから楽よね」


「それでもおしゃれだから素敵よ、今日見た部屋も素敵だったわぁ……」


「ふふっ、気に入ってもらえて良かったわ」


 どうもユアさんと母は気が合うのかすぐに仲良くなり、俺の知らないところで色々おしゃべりしているみたいだ。

 今日だって母に付いてきたらこうなったし……


「ハルくん、明日には新しい住人を連れて来るつもりだから、皆で挨拶させてもらうわ」


 ああ、分かったよ。


「それじゃあまたね、ユアちゃん」


「マリーさん、またいつでも来てね? 良い部屋空けとくから」


「うふふっ、ありがと!」


 ……さて、帰って動画編集ソフトを触ってみるか。


「ハルちゃん、保存しておいてね?」


 ……はい。


 


 

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