はいはーい、行きませんよー

 ちっ、また出ないか…… もう少し課金しないと駄目だな、ちょっと課金するから待っててくれ。


『またお金使うの!? もう五万イェーンも使ってるじゃない! せっかく視聴者さんが応援の気持ちとしてくれたお金を! 勇者として恥ずかしくないの!?』


 恥ずかしくはないし、悔いもない。

 それにほら…… 視聴者も盛り上がってるだろ?


『そんな…… なになに? 『沼ってるw』『ガチャ渋すぎ』『天井まで行け』…… あなた達もおかしいわよ! お金はもっと大切に使わないと! いつ何があるか分からないのよ? もしかしたら生活に困ってご飯が食べられなくなるかも……』


 あぁ…… 『聖剣ちゃんの説教キター!』『お前は親か!』『ママー!!』だってよ。

 聖剣が俺に説教するのも名物になりつつあるな、視聴者が喜んでくれているから別にいいけど。

 ちなみに聖剣が『早く旅に出ろ』と言えば、俺も含め視聴者までもがスルーするのが今の流れ。


『まったく…… あなた達もいい加減にしないとハルみたいになっちゃうわよ!』


 それはどういう意味かな? そこそこ人気の配信者になれるって意味?


『ポジティブに解釈しないで! ハルなんてただの引きこもりゲームオタク勇者なんだから!』


 勇者は外してくれてもいいよ?


『バカ! 一応こんなのでも勇者は勇者なんだから、ちゃんと自覚を持って!』


 こんなのって…… こんなのってないじゃん。

 さて、1万イェーン追加っと……


『あぁぁっ! ちゃんと私の話を聞いてた!?』


 うるさいなぁ…… 


 横でガミガミ言われながらもガチャを回して、無事天井にたどり着いた。




 ◇


 よーし、配信終わり!


「勇者さーん! 勇者さーーん! 冒険しーまーしょーう!!」


 あいつ…… また来たのか。

 はいはーい、行きませんよー。


「えー、行かないんですかー? じゃあ遊んで下さーい!」


 はいはい、とりあえず入れよ。


「えへへー、おじゃましまーす!」


 ドアを開けると、茶色のおさげ髪に、大きめで少しブカブカのローブを羽織った小柄な少女が笑顔で立っていた。

 両手で赤く丸い宝石が付いた杖を持ったまま、トコトコと家の中に入ってくるこの少女の名前はルナ、一応魔法使いらしい。


 魔法を教わっていた師匠に勇者と旅立てと家を追い出されたのに、俺が旅に出ないもんだからこの村の空き家を宿にしている。


 しかし村のみんなが優しく色々とお世話してくれるから、今ではここでの生活を気に入り、すっかり馴染んでしまったので、しつこく俺を旅立たせようとしないから仲良くしている。


「勇者さん! 今日は何して遊びます?」


 うーん…… 遊ぶって言っても家にはゲームしかないぞ?


『外で遊ぶって選択肢はないのかしら?』


 うん、ないね! だって外に出たら変な奴らがいるし。


『……この間、聖女がヘンテコな踊りをしていたのを見たばかりだから否定はできないわね』


 だろ? ヘンテコなくせに意外とキレッキレな踊りなのがまた恐ろしいんだよ。


「レーナお姉さんは優しいですよ! 時々ヘンテコですけど」


 子供にまでそう思われてる聖女…… かわいそう。

 でも一時でも良い思いをしたんだからいいんじゃない? ……村の若い男達と。

 しかし母の加護は強烈だな、あんな風にはなりたくないから母には逆らわないでおこう、やっぱり俺は旅立ってはいけないんだ!


『何よそれ…… 何もなくても旅立つ気なんてないくせに』

 

 まぁな、だって家から出なくても平和に暮らせてるもーん。


『本当に世界の危機が訪れた時にどうするつもりなのよ…… はぁ、先代の勇者様が守ってくれた世界は今日も平和ですよ……』


 その時はその時、誰かが何とかしてくれるだろう、俺以外の奴が。


 

 そんな事を頭の片隅、本当に隅っこの使われてないような場所で考えつつ、しばらくルナとパズルゲームやレースゲームなどをして遊んでいた。


「勇者さん、少しは手加減して下さいよぉ……」


 ふん、子供相手だろうと本気でやるのが俺なんだ、手加減なんかするわけなかろう、ふっふっふっ。


『……大人げない、恥ずかしくないのかしら?』


 やるからには全力で勝つ! それが俺のポルシェ…… じゃなくてポリシーだ。


「……ゲームはもういいです、勇者さん! アレ! アレを見せて下さい!」


 アレ? ああ、アレかぁ、いいぞ? 

 ズボンのポケットに確か…… あった。


 ほら、よく見てろよ? 右手の手のひらにコインがあるだろ? これを左手で隠すと…… ほら消えた、左手にも右手にも無い、よく見ていいぞ。


「本当です! コインが無くなりました!! どこにいったんですか!?」


 それは…… ルナのローブの内ポケットを見てみろ。


「内ポケット? ……あっ! こんな所にコインがありました! 魔力を一切出さずに魔法を使うなんて、勇者さんの魔法は凄いです! アメイジングです!」


 そうかそうか、次は耳がデカくなる魔法を見せてやろう!


「わぁ!! 勇者さんの耳がデカくなっちゃいました!! ワンダホー! ブラボーです!!」


『ハル…… そんな子供だましみたいな事……』


 相手は子供だから丁度いいじゃん、それにこんなに喜んでるし。

 

『それはそうだけど……』


 じゃあ次は口から小さな旗をいっぱい出す魔法を見せるぞ? その次はぬいぐるみに命を吹き込む魔法だ。 

 そんな俺のをキラキラとした純粋な瞳で見て大喜びするルナ、実に気分が良い。




「色んな魔法見せてくれてありがとうございます!」


 おう、またな!


 ルナのやつ、満足そうな顔をして帰っていったな。


『ルナちゃんの相手、おつかれさま』


 俺だって楽しんでたんだからいいんだよ。


『ふふっ、そういう優しい所がハルの良い所よね』


 べ、別に優しくなんかないんだからね! 

 


「あ、あの…… 勇者様」


 んっ? 物陰から声がしたような…… げっ! 聖女だ、早く家の中に逃げないと!


「あぁっ! 待って下さい! せめて、せめてお話しだけでも聞いて下さい!」


 えぇー? どうせ一緒に旅に出てくれとか言うんだろ? 


「ち、違います! あのバ…… じゃなくて勇者様のお母様の事で……」


 バ? お前、今何て言おうとした?


「ひぃぃっ! ごめんなさい! ごめんなさい! あの、勇者様から是非、お母様…… いえ、聖母様にお話ししてもらって、わたくしにかけた呪い…… じゃなくて加護を解いてもらえないか掛け合ってもらえませんか? このままじゃ生活がままならなくて…… うぅぅっ!」


 ちょこちょこ本音が漏れてるな。

 だけどお前の加護を解いたらまた悪さするだろ? だから駄目だ。


「いやぁ! もう悪さしません! 勇者様の聖剣でわたくしの○○○を○○○して欲しいだなんて一切…… ひゃあぁぁぁっ!!!」


 おい、迷惑だから人んちの前で踊り出すな! 

 ……おお、ヘンテコだけどやっぱりキレッキレだ、うん、それで世界狙えよ、もう。


「イヤですぅぅっ! こんな、っ、辱しめを、あぁっ! 受けて、もう聖女だなんて名乗れません!」


 おぉー! ピシッっとポーズが決まったじゃないか! 凄いぞ! お前ならやれるよ、じゃ、そういう事で!


「あぁぁ、待って! お願いです、もう踊りたくないんですぅぅぅっ!」


 じゃあ村の男とか俺に対していやらしい事を考えるの止めろ。


「これでも考えないようにしてるんです! でも、身体が疼いて…… うぅっ、こんな思いをするならもういっその事、勇者様の聖剣でわたくしのホーリーフィルムを貫いてくれれば、わたくしは普通の女の子になれる…… どうせもう教会にも戻れないですし…… 勇者様、いかがですか? 新品ですよ?」


 踊り過ぎなのか目がキマっちゃって怖いよ! しかも新品じゃないだろ? だって村の男達に……


「あんな? 勇者様、女の子って他に使える穴が二種類あんねん」


 …………


「ああ! ごめんなさい、ごめんなさい! 勇者様、出てきて下さい! お願いします! 勇者様ぁぁぁぁ!!」




 なぁ、二種類って……


『わ、私に聞かないでよ! バカ! アホ! 変態!!』



 

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