長い旅だったぜ

「勇者さーん!」


 おっ、ルナか、今日はどうしたんだ?


「勇者さん! お出かけしませんか?」


 お出かけ…… とか言って旅に連れてこうとしているんだろ? 断る!


「違いますよぉ、勇者さんの魔法を参考に新しい魔法を覚えたんです、だから試してみたいので付き合って下さい!」


 俺の魔法? ……マジックなんて参考になるのか? まぁいいや、付き合ってやるよ。


『ハ、ハルが外に…… うぅぅっ、この一歩は人類にとって大きな一歩よ!』


 いくらなんでも大袈裟だ、あと泣くな、眩しいから。


 ニコニコとスキップしながら進むルナの後を付いて行くと、辺り一面何もない平原へとたどり着いた、ふぅ…… 長い旅だったぜ。


『何言ってるの? 徒歩十分じゃない、しかもハルがちんたら歩いて十分よ? 普通だったらもっと早く着くわ』


 おいおい、お前こそ聖剣の分際で何を言ってるんだ? 俺に背負われなければ移動出来ないくせに。


『な、何よ! 私だって本気を出せば移動の一つや二つ……』


 じゃあやってみろよ、ぷぷぷっ、無理すんなって。


『ぐぬぬ…… その顔、憎たらしいわね』


「ふぅー! ここなら迷惑かけずに試し撃ちできます!」


 うん、うちの村ってど田舎だから、隣の村も遠いし大丈夫だろう。


「えへへー、じゃあ最初は、耳がデッカくなっちゃう魔法からヒントを得た…… えいっ!!」


 うわっ! ルナの全身が光って…… えぇぇっ!?


「やったー! できましたぁー!!」


 ル、ルナの身体が見上げるほどデカくなった…… どんな魔法だよ!!


「やったー、やったー」


 飛び跳ねるな! じ、地面が揺れる!


『す、凄い魔力…… この娘、天才なんじゃ……』


 天災!? 確かにこれは地震…… 天災だー!


『バカ! 本当にバカ!!』


 ……分かって言ってるんだよ、本当冗談が通じないな、固いのか? 剣だけに。


『私の頭が固いって言うつもり!?』


 うん…… まあ。


「わーい! 凄いですー! 勇者様がゴミみたいですー!」


 や、やめろよ! 絶対踏むなよ? 絶対だぞ!


『それはフリ? ルナちゃん、ハルが踏んで欲しいみたいよ』


 フリじゃない! お前、頭が固いって言ったの怒ってるんだろ!? うわっ! こらルナ! 本当に踏もうとするな!!


『ぷぷっ、ほらハル、速く走らないと踏まれるわよ?』


 ひぃぃぃー!! ママー!!




 一方その頃……


「はっ! ハルちゃんが私を呼ぶ声が聞こえる!」


「聖母様! お願いします! どうか加護を解いて下さい!」


「ダメよビ○チ聖女ちゃん、あなたハルちゃんの○○○で○○○してもらおうとしてたでしょ?」


「そ、それは……」


「うふふっ、愛情たっぷり注いで大切に育てた愛しい息子なの…… ハルちゃんの○○○は私のものよ!」


「へっ!? せ、聖母…… 様?」


「うふっ…… 私、いつまで聖母でいられるのかしら?」


「それではわたくしと大して変わらなくありません?」


「……加護、増やすわよ?」


「ひぃっ! ごめんなさーーーい!」




 ◇


 はぁっ、はぁっ、はぁっ…… 危なかった、ルナの足が少しかすったぞ!? 殺す気か! 訴えてやる!!


『あははっ! ハルの必死な顔…… ぷっ、あはははははっ!』


 クソっ! 聖剣なんて背負ってるから動きが鈍かったんだ! 投げ捨てれば良かった。


『えっ…… また、槍のように?』


 そのネタはもういいから! 未だに配信してるとコメントで『ヤリ捨てハルちゃん』って書かれるんだから! もうそいつらブロックしようかな?


 ふぅ、ルナの奴、やっと魔法を解いて元の身体に戻ったな。


「次は口から旗を出す魔法からインスピレーションを受けた魔法です! ……すぅぅっ、ふっっっ!!」


 よくインスピレーションなんて難しい言葉を知ってるね…… へっ?


 強く息を吹いたと同時に、ルナの口から無数の光の玉が出てきたぞ!? うわぁぁっ! 地面に着弾して物凄く爆発してりゅうぅっ!

 らめぇぇっ! 地面が壊れちゃうぅぅぅっ!!


『……こんな魔法、見たことないわ』


 魔法!? 爆弾かなんかの間違いだろ! こんなのゲームでしか見たことないわ!!


「やったー! これも上手くいきましたー! ……土ほこりで鼻がムズムズしますぅ…… へっ…… へっ、へくちっ!!」


 ぎょえぇぇぇぇっ!!

 ふぅ…… 咄嗟に聖剣を盾にして助かったぜ。


『な、何してんのよ! 粉々になったらどうするの! 危なかったわ……』


 勇者の盾になれたなら良かったじゃないか、本望だろ?


『ふざけんじゃないわよ! ハルみたいなへっぽこ勇者の盾になんなきゃいけないの!? しかも私がいなかったら瞬殺よ!? 感謝しなさいよ!』


 なんだと! 取り消せよ、その言葉!


『……やめましょう、時間がもったいないわ』


 ……うん、ごめん。


「はわわぁ! 勇者さん、ごめんなさい!」


 ウン、イイヨイイヨー。

 今度から気を付けてね? 絶対だよ?


「じゃあ次は……」


 まだあんの? 天才だなぁ…… 今度からマジック見せるのやめよ。


「勇者さんが人形に命を吹き込んでいたのを見て思い付きました! ……来て下さい、お人形さん!!」


 んっ? あれは……


「タス……ケテ…… タ……ス……ケ……テ……」


 そ、そ、村長!? おい、ルナ! なんて事してんだ! 早く解放してやれ!


「んー、このお人形さん、歩くの遅いです」


 いや、お人形さんじゃなくて村長だから! もう腰が曲がっていつも杖をついて歩いてるでしょ!? 


「あっ! いい事思い付きました! えいっ!」


 あぁっ! 村長が眩い光に包まれて……


「……フンッ!!」


 村長の身体が…… いや筋肉が大きくなって着ていた服が破けた!! 

 七つの傷は…… 無かった、残念。


「チカラガミナギル…… バアサン、テンニカエルノハ、マダサキニナリソウダ」


 そ、村長? あれは…… 村の大工のギェンさんが酔っ払った時にする動き! あの何とも言えなくなって目を反らしたくなるような恥ずかしい動きを再現するなんて…… 村長、かなりの使い手だな。


「わーい! わーい! これも大成功です!」


『ハル…… 私、もうなんて言ったらいいか分からないわ』


 気が合うな、俺もだ。


 しばらく村長でお人形遊びをしたルナは、満足したのか魔法を解いて村長を帰した。


「ふぅ! 大満足です、さすが勇者さんです、私はまだ魔力を使わないと魔法を使えませんが、いつか勇者さんみたいに魔力を使わないで色々魔法を使ってみたいです」


 お、おう…… ルナなら出来るよ。


「だからまた魔法を見せて下さいね!」


 い、いやぁ…… それはなぁ…… 俺にも秘密にしておきたい魔法もあるし……


「そうですかぁ…… 残念です……」


 心が痛くなるからそんな悲しそうな顔するなよ。


「もっと…… 見たかったですぅ」


 な、泣かないで? うん、分かった! また見せてやるから! な? だから泣かないでくれ!


「わーい! 約束ですよ、勇者さん!」


 うぅっ……


『もう、ハルったら…… 本当に』


 仕方ないじゃないか! 俺のマジックを純粋に楽しんでくれて、その結果なんだから。


『ふふっ、なんだかんだ優しいのね』


 な、何だよ! 悪いか?


『ううん、そのままの優しいハルでいてね?』


 うーん、調子狂うなぁ……


 

「ハルちゃぁぁぁぁん!!」


 んっ? 母? うぉっ!!  もの凄い勢いで走って…… あれ、走ってるのか? 宙に浮いて、まるで飛んでいるように見える。


「ママが助けに来たから安心して!! で、敵はどこ? すぐに消してあげるから」


 いや、敵なんていないから大丈夫だよ。


「あぁーん、良かったぁー! ハルちゃん、チュッ、チュッ」


 ……母、ルナも聖剣も見てるから。


「スゴーい! いっぱいチュッチュしてます」


『はぁ…… こういう所は直して欲しいわね』


 いや、母を止めてよ、俺は抵抗出来ないんだから。


 こうしてルナの新魔法のお試しは終わった。

 この日から村長がムキムキになり、村の皆が驚いていたが、数日後には皆見慣れて今まで通り過ごすようになっていた。

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