ゆう…… しゃ?
「カイヅ、聖女は?」
「はい、連れてまいりました」
「そうか、よくやった、約束の報酬だが……」
◇
レーナが居なくなった。
朝早くに村長が慌てた様子で家へ駆け込んできて、そう言った。
「おかしい…… 昨日も一緒に寝ていたはずなのに」
うん…… 一緒に寝るくらい普通だよね、あんなにイチャイチャしてたもん。
「それに出かけたにしても変なんだ、レーナがいつも着ている修道服がそのままあって…… 儂にはレーナが寝間着のまま出かけるとは思えない」
じゃあ一体どこに行ったんだ? 昨日の幸せそうな様子と、寝間着のままという事を考えると家出をしたとは思えないし、もしかして事件に巻き込まれたとか?
「村長さん! 大変です!」
ルナ? 今こっちも大変なんだよ、用があるなら後で聞くから。
「レーナお姉さんが!」
レーナ!? 俺達も今探してるんだ。
「ホーリー○ット教徒の人達に連れて行かれるのを見ちゃいましたー!」
えぇっ!? ホーリー○ット教徒って、レーナが元々所属していた教会の人達? どうして今更…… レーナはもう聖女じゃないんだろ?
「まさか…… いや、ハルの言う通り聖女ではなくなってしまったが、聖魔法が失われた訳ではないからな、貴重な聖魔法の使い手であるレーナが狙われても不思議ではない、ただこんな強引なやり方、ホーリー○ット教会が指示したのか?」
「私が見たレーナお姉さん、寝ているみたいにぐったりしてました…… 心配です」
それじゃあ誘拐!? 村長、どうするんだよ。
「儂は行く、レーナをとりもどす!」
じいちゃん、一人で大丈夫かよ……
『話は聞かせてもらったわ!!』
うわっ! 何だよ聖剣、いきなりデカい声を出すな! ビックリするだろ。
『何言ってるの! 助けを求める人がいるのよ? 勇者の出番じゃない!』
ゆう…… しゃ? 何それ、美味しいの?
『とぼけても駄目! 私達も行くわよ!』
えぇ…… 危ない事したら母に怒られるよぉ。
「うぅん…… ハルちゃん? 朝から大きな声を出してどうしたの?」
母おはよう! 聞いてくれよ、聖剣が俺を外に出そうとするんだ…… じゃなくて母!
「わぁー! 聖母様、すっぽんぽんですー!」
服着てー! って、遅かったー!!
「…………」
村長も何とも言えない顔をしながら黙っている。
レーナの事が一番心配なんだろうけど、孫の部屋から裸で出てくる娘にも心配になったのだろう。
うん、分かるよ、じいちゃん。
とにかく慌てて母に服を着させ、今の状況を説明した。
「……それなら、私が与えた加護の力を辿れば見つけられるかも」
「マリー、頼む……」
「はぁ…… 私達も一応家族になるからね、行くわよハルちゃん」
イエス、マム!!
『何でマリーの言う事は素直に聞くのよ!!』
んっ? 母だからだろ。
『マリーの教育が恐ろしいわ……』
◇
「どこに連れて行くつもりですの!? わたくしはもう聖女ではないんですのよ!」
「ああ、聖に現を抜かし資格を失ったのは知っている、しかし我らが教皇様がお前の力、聖魔力を必要としている、最後に役目を果たしてもらうぞ、レーナ」
「わたくしは力を貸しませんわよ! それに教皇だって……」
「黙れ! 教皇様を侮辱しようものなら…… ふん、最悪意識を失わせて力を取り出せば良いか」
「っ!? …………」
コウタローさん…… せっかく皆さんに祝福されてパートナーになれたのに、くそっ…… あっ、いけません、ついつい方言が……
◇
「それでは出発する」
村長自慢の愛馬、黒くて大きな馬に馬車を引かせ村を出発、ちなみに馬車を用意したのはトルセイヌさんだ。
村長の他には俺、母、ルナ、あとトルセイヌさんまで付いてきてくれた。
「持ち運び型のアイテム転送装置があれば何かと便利ですから私も同行しますよ、デュフっ」
「そうだぞ、ダーリンの発明は凄いんだからな!」
ミミさんもちゃっかり付いてきてるし、旅行じゃないんだよ? あとイチャイチャしないでね?
「分かってるって、なっ、ダーリン?」
「そうだね、ミミたん」
キスも見えない所でしてね? ルナもいるから。
母は加護の力を頼りに村長を道案内をして、ルナは魔法で辺りを警戒、トルセイヌさんとミミさんで非常食や回復薬の準備をしている。
じゃあお前は、って? やる事がないからぼんやり外を眺めるだけですけど、何か文句あります? だってしょうがないじゃない、勇者だもの。
『緊張感がないわね、レーナの一大事なのに』
うーん、心配は心配だけど、俺いらなくね? レベル2のザコだよ?
『だからこういう時のためにもっと経験を積みなさいって言ったのに! ハルったら人の話も聞かずにゲームばっかりで……』
おっ、レアドロップじゃん、ラッキー。
『こんな時までゲームして! ちゃんと話を聞きなさい!』
うるさいなぁ…… お前は口うるさい母ちゃんか。
『母ちゃん!? そんなつもりで言って…… ひぃっ!』
「あらあら…… ママは私よ? 絶対に、何があっても揺るがないの、ふふっ、ママの座を奪おうとするのなら…… へし折るわよ?」
『や、やめてよ! マリーが本気出したら冗談じゃなくなるから!』
そうだそうだ! 母は一人で十分だ!
「あぁん、ハルちゃん…… ママ嬉しい! ずっと一緒よハルちゃん…… 永遠に」
母!? ちょっと愛が重いよ…… いや、無言で見つめないで? あっ、はい、嬉しいです、母の愛最高!!
『ずいぶんと話が逸れちゃったわね、はぁ…… まあ、このメンバーなら危険はないわね、だからこそハルにはこの機会に成長してもらいたかったんだけど』
いやいや、今じゃなくても大丈夫じゃん。
『じゃあいつやるのよ!』
今で…… ふぅ! 危ない危ない、釣られる所だった。
『……ちっ』
舌打ち!?
「ちゅっ」
母!?
……あれれー? 外が騒がしいなぁー。
おいおい、マジかよ。
「くっ! ホーリー○ット教の奴ら…… そこまでして儂らを妨害したいのか!」
「村長さーん! 敵が多すぎです! ……やっちゃっていいですかー? いいですよねー?」
「……ルナやめるんだ、お前が全力で魔法を放てば皆死んでしまう」
「じゃあどうすればいいんですかー!?」
「儂が何とかして食い止……」
「もう魔法撃っちゃいましたー!」
「こらーー! ルナーーー!!」
うん、花火にしては汚いな…… 見なかった事にしよう。
「ダーリン、はい、あーん」
「デュフっ、美味しいよミミたん」
ああ、キャビンの中は平和だなぁ……
◇
「いやっ! 触らないで下さい!」
「ぐへへっ、聖女さん、辛いのは最初だけだから」
「やめて下さい! わたくしはもうコウタローさんのものなんです! ホーリー○ット教会には従いません!」
「そんな事を言って…… 身体は正直だねぇ、これは教皇様からのプレゼントだよ」
「いやぁ…… わたくしはもうあの頃のわたくしではないんです…… ひぃぃっ!」
◇
しばらく馬車で走っていると、目の前に大きな教会が見えて来た。
「あれがホーリー○ット教会の本部か」
「あそこからレーナの反応がしているわ」
皆、急に真剣な顔になってどうしたの? 特にトルセイヌさんとミミさん、あなた達ついさっきまで甘い雰囲気出してたよね? ミミさんなんて顔を赤らめて物欲しそうな目でトルセイヌさんを見つめていたし。
「ミミたん、何があっても私が守るから安心して」
「ダーリン…… トゥンク……」
この二人は無視しよ。
で、これからどうするの? このまま正面から突っ込んでいくなんて無謀な事はしないよね? 絶対しないよね?
「ごめんくださーい! レーナさんいらっしゃいますかー?」
ぎゃあぁぁっ! ルナぁぁっ、空気を読めーーー!!
正面を守っている教徒達を魔法で吹っ飛ばしながら笑顔で呼び掛けるルナ。
おいおいマジかよ、とんだクレイジーな奴だぜ、特攻じゃねぇか、一体何チームなんだ?
「いませんかー? 誰か返事して下さーい」
返事する前に吹っ飛ばされてるから! そんな人をゴミのように扱ったらいけません!
「無視されてます…… 悲しいです……」
あーあ、ルナちゃん落ち込んじゃったよ教徒さん達? うめき声じゃなくて返事してあげて! お願いだから! もう見てられない!
『無邪気って恐ろしいわね……』
「ふっ…… 騒がしい奴らだ」
だ、誰だ!?
「ふっふっふっ」
「我らは教皇様に仕える四大司祭!」
「わ、我らの…… 邪魔をするものは…… 始末するのみ! …… 何で俺まで四大司祭にされてるんだよ」
「仕方がなかろう! 今の魔法の嵐で四大司祭の一人、ソックォーチが戦闘不能になってしまったのだから!」
「だからって雇われただけの俺を使うって、どんだけ人材がいないんだよ」
よく分からないが言い争いしてる…… っていうか、四大司祭? の中に何でカイヅがいるんだ? ボコボコになってた癖に。
「ああ、もう! 仕方ない…… 勇者、ついでに復讐してやるからな! ……ひぃぃっ!」
「あらあら…… 可愛いハルちゃんに復讐ですって?」
は、母? 今カイヅに向かって飛んでいった、鋭くて速い魔法の塊みたいのは何?
「愛の力よ」
あ、愛なの、あれ?
「そう、愛」
ほな愛かぁー、母が言うなら間違いない。
「ふ、不意打ちなんて卑怯だぞ! 正々堂々勝負しやがれ!」
レーナをさらっておいて卑怯も何もないだろ。
『その勝負、受けて立つわ!!』
おい聖剣、黙ってろ! ルナと母が居ればホーリー○ット教会も壊滅するだろうに。
『それじゃあ勇者の名に傷が付くわ! さぁ、行きましょう』
「レーナ、儂が必ず助け出す!」
あ、あぁ…… そういうノリ? 俺も空気読んだ方がいいかな? 皆、教会の中に入るの? 仕方ない、外で待ってるのは嫌だから付いていくか。
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