あーあ、罠だったんじゃないの?

 教会の中はさすがに神聖な雰囲気が漂っていた。

 そして礼拝堂の中に入ると、ホーリー○ット教の人達が崇めているであろう、大きな神様の像があった。

 口元に手をやり、驚いているような顔をしている像なのが少し気になるが。


 そんな礼拝堂を警戒しながら抜けると、壁一面飾りもない真っ白な部屋へと辿り着いた。

 しかも真ん中には大きなステージらしき物があるだけの部屋だ。 


「ここは…… っ! 何だ!? 部屋の扉が勝手に閉まって…… 開かなくなってしまったぞ!」


 えっ! もしかして閉じ込められちゃった? あーあ、罠だったんじゃないの? だからルナと母に任せようって言ったのに。


『……誰か来るわよ』


 俺達の入ってきた扉とは違う、部屋の反対に位置する扉が開き、一人の男性が部屋の中に入ってきた。


「私はホーリー○ット教、四大司祭の内の一人、アーヴェだ、お前達を無力化させて拘束する」


 何だ、この眼力だけで負けてしまいそうな凄い圧は…… あの、なんで俺ばっかり見ているの? メインは村長だから、俺は今モブなの、分かる?


「レーナはどこだ!」


「ふっ…… お前達には関係ない事だ、すべてはホーリー○ット教の未来のため、レーナには生贄になってもらう」


「そんな事させるか! うっ…… 何だ!?」


「この部屋から出るには俺を倒すしかない、ただし…… この部屋で力が使えるのは一人だけだ」


 自分を倒すしかないとか言っていいの? 喋り過ぎじゃない?


「くっ…… 力が……」


「あぁ、身体が動かないわぁ……」


 えっ、村長!? 母!?


「うぅ…… 勇者さん、力が入りませーん」


「ミ、ミミたん……」


「ダー、リン……」


 皆どうしたんだよ! 俺は何ともないよ? もしかして空気読んだ方がいい? うわー、力がー。


「勇者よ、私と勝負だ」


 えぇっ!? やだよ、せっかく空気読んだのに!


『ハル! 私も手伝うから皆を助けるために戦うわよ!』


 無理無理無理! だってレベル2だよ? ザコモブだから!


「勇者よ、勝負だ!」


 どっちも俺の話を聞けよ! 無理だって言ってるだろ!?


「ただ、普通に戦うだけでは面白くないからな…… はぁっ!!」


 な、何だ!? うわぁっ! 身体が宙に浮いて、勝手にステージに上げられてしまった! ……アーヴェだっけ? さっきから何でそんなに俺の事をジロジロ見てくるの?


「勝負の方法は…… これだ!」


 ……うわっ! 天井から何か降ってくる、げっ、このヌルヌルした液体は何だ?


「ヌルヌルソープを使ったヌルヌル相撲だ!」


 ヌルヌル相撲!? こんなオッサンと!? やだやだやだぁぁぁっ!!


「私も聖装に着替えるとしよう…… はぁぁぁっ!!」


 ジャンプしたー!! えっ、天井の照明が眩しくてはっきりとは見えないが、服が脱げて…… 部屋の隅に置いてあった箱から鎧っぽい物がアーヴェに向かって飛んできた!


 そして俺の目の前に着地したアーヴェ……


「これがホーリー○ット教司祭だけが装着する事が出来る聖装だ!!」


 聖装って……



 ビキニアーマーじゃねーか!!

 オッサンがビキニアーマー装備してんじゃねーよ! しかもそれ、女性用だろ!


「さあ、勇者ハルよ、ヌルヌル相撲…… やらないか」


 いやぁぁぁっ! 助けてママぁぁぁーー!!


「いやぁぁぁっ! 私のハルちゃんがぁぁぁーー!!」


『うっ…… 最悪…… ハルの言った通りルナとマリーに滅ぼしてもらった方が良かったかも』


 に、逃げろ! えっ、見えない壁みたいなのがあってステージから降りられない! 


「ふっ、勝敗が着くまで逃げられはしない、さあ、ヌルヌル相撲だ」


 ひっ! 相撲って、ビキニアーマーを装備したガチムチのオッサンとぶつかり合わないといけないわけ!? しかもヌルヌルしながら…… どんな罰ゲームだよ! もう俺の負けでいいよ!


「そうなれば仲間は拘束され、勇者ハルは俺とずっとヌルヌルだ」


 ……負けられない戦いがここにある!

 ずっとオッサンとヌルヌルはいやぁ!!


 考えろハル…… 相手はガチムチ、力勝負では確実に負ける、っていうか極力触れ合いたくない…… どうすればいいんだ!


『私が相手に…… っ、私の力も封じられてる! なんて強力なの』


 聖剣も駄目みたいだ、どうする? 


「さあ、レッツヌルヌル!」


 天井から更にヌルヌルが降ってきた!

 ヤバいよヤバいよ!


 うわぁ…… ところで皆さん、ビキニアーマーを装備したオッサンがヌルヌルテカテカになってるのって見たいなぁって思う? 俺は思わない! 見たくなぁぁぁい!! 


「さあ、勇者ハルよ、私と勝負だ! うほっ」


 きゃあぁぁぁー! こっちに来るぅー!!


「ハルちゃん、逃げてぇぇー!!」


 母! 助けてぇぇー! 


「ほらほらほら! ヌルヌル相撲、しようじゃないか!」


 足が滑って上手く動けない! それなのに変態が迫って来る! 絶体絶命だ!

 ……あぁ、人間って本当に恐怖を感じた時には現実逃避するんだな。


『ハル!』


 これがゲームだったらなぁ…… ゲーム、ゲーム…… んっ、ゲーム?


「ふははははっ、勇者ハル、ずっぽり…… ではなくがっぷり四つ組み合おうではないかー!」


 そうか、動きをよく見てパリィからの反撃…… いや、投げか。


「勇者ハルーー!」


 ……っ! 触るのは最低限にして!


『ちょ、ちょっとハル! 私をあんな変態にぶつけないでよ!?』


 聖剣で受け流しながらバランスを崩させ背後を取り…… ダメ押しだ!!


『やめてぇぇー!!』


 聖剣の柄で変態のケツに打撃だ!


「うほぉぉぉ!!」


『い、いやぁぁぁー!!』


 ヌルヌルで更に加速したアーヴェはステージに張られていたバリアを突き破り、真っ白な壁に叩きつけられた。


「ぐっ、はぁっ……」


 よし、勝った。


《ぷっ、ふふふ…… あっ、失礼、レベルが3に上がりました…… ぷくく……》


 おい、何笑ってんだよ!


《くくっ、お姉様が…… ぷぷっ、見事にあの変態のお尻に刺さっておりましたので……》


『いやぁ…… 勇者の聖剣であるこの私が…… あんな変態に…… うぅっ、汚されちゃった』


 いや…… その、ドンマイ。


『何で私を使ったのよ! ハルが一人でやれば良かったじゃない!』


 だって触りたくないだろ、あれ。

 あと、聖剣なんだから勇者に使われて嬉しいかなって、テヘペロッ。


《ぷぷーっ! ……いえ、お姉様、素晴らしい戦いでございました…… ぷっ》


『アナー! いつまで笑ってんのよ! もう…… 最悪ぅ』


 アーヴェが倒された事によって、閉ざされていた扉が開き、更に奥に進めるようになった。


 ちなみに部屋を出てすぐにシャワールームがある親切設計だったので助かった。


『……ちゃんと洗い流してよ? 特に柄の部分は念入りに』


 はいはい、ごめんねごめんね。


《はぁっ、はぁっ、ハル様、お疲れ様でございました》


 いや、アナも疲れただろう? 笑うのに。

 よし、こんなもんかな?


『ふぅ…… 早く帰りたくなってきたわ』


 気が合うな、俺もだ。


『さっさとレーナを連れ戻して帰りましょう』


 ああ、そうだな……  んっ?


「ああ、汚されなくて良かったわぁ、でもヌルヌルしてるからハルちゃんも綺麗にしましょうね? ママが丁寧に洗ってあげるから」


 いや、先に洗ったから大丈夫だけど。


「洗ってあ・げ・る、からね?」


 ……はい。


 ◇



「何!? アーヴェがヤられ…… やられただと!?」


「……あれはやられた方がホーリー○ット教会として良かっただろ」


「なんてことだ! くそっ、マジかよ…… ふぅ、落ち着くんだ私、方言が出ているではないか…… 仕方ない、では次、任せたぞ」


「はい」


「ふっふっふっ、レーナよ、アーヴェがやられて少しは希望を抱いたかもしれないが次はどうかな? もしも大切な者達を傷付けたくないのであれば……」


「…………」


「強情な奴だ、まあいい、すぐにお前の心は折れるだろう、ふっふっふっ」



 ◇



「はぁい、綺麗になりましたよぉー、うふふっ」


 ありがとう母、で、何で母まで洗う必要があった?


「もう細かい事を気にしちゃダメ! いいじゃない、お互いにさっぱりした方が気持ちが良いでしょ?」


 たしかに、さすが母だ。


「うふふっ」


『すぐに納得しちゃうんだから……』


《マリー様の教育の賜物でございますね》


 そして冷蔵庫の中に風呂上がりのキンキンに冷えているミルクまで用意してあったので、飲んでから次の部屋へと向かった。

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