えっ、俺一人!?

 置いて行かれないように急いで食堂を出ると、すぐに大きな扉が目の前あった。

 豪華な装飾がされ、重そうな扉だ。


「ここは何か雰囲気が違うな……」


 もしかして教皇とかいう人の部屋とか? なら中にレーナがいるかもしれない。


「開けてみましょうよー」


 いや、ここは慎重に……


「わぁー! 近付いたら勝手に開きましたー! 自動ドアですよ、これー」


 自動ドアかい! しかも豪華そうに見えたけど壁紙じゃないか、騙された!


 そして中を覗いてみると…… 


『薄暗いわね…… あれ? あの光ってる箱は何かしら?』


 光る箱? ……何だかMPCに似てるなぁ。


「よぉ、勇者」


 お前は…… カイヅ!! レーナはどこだ!


「まあまあ落ち着けって、どうせ俺らに勝たないと教皇さんの所には行けないぜ?」


 んっ? 俺ら、って?


「喋り過ぎるなカイヅ、まあ貴様らはこの部屋から出られはしないがな」


 白髪混じりのオッサン…… あっ! 最初に偉そうにぺちゃくちゃ喋ってたオッサンか?


「オッサン…… だと? ふはははっ、我はホーリー○ット教四大司祭の一人、教皇様の右腕、トゥネッガーだ!!」


 右腕…… ナンバー2って事か? とても強そうには見えないけど。


『ハル、人を見かけで判断しちゃダメよ! そういう油断が命取りになるんだから!』


 聖剣の言う通りだ、カイヅもいるし、もうそろそろ普通に戦わなきゃいけなくなるかもしれないもんな、気を引き締めよう。


「ふっ…… いい心がけだ勇者ハル、それでは我々と戦おうではないか」


 えっ、俺一人!? レベル2の俺に二人がかりは卑怯じゃないか?


「ではそこの席に着け、勇者ハルよ」


 あっ…… 普通に戦う訳ではないのね、了解。


 席って、あのMPCみたいなやつの前にある椅子に座ればいいの? ってか、これ何?


 上部には明るい画面、その下には様々な絵が書かれたリールが三列あり、リールの下にはそれぞれボタンが付いている、そして一番左にはレバーみたいな突起が…… 


 って、スロットじゃねーか!!

 勝負ってスロットかよ! なんてこった!


「ふっふっふっ、これはホーリー○ット教会が開発した、対魔族用回胴兵器だ!」


 対魔族用回胴兵器って……


「この兵器はあくまでも兵器にインプットされた確率によって当たる、つまり魔族の卑怯なチートは使えないという事だ! そして多彩な演出、とても低い確率の当たりだが当たれば七百十倍のメダルが手に入る…… この兵器の名は『七代教皇 ヨッスィームニェ』だ!」


 …………


「今までの兵器よりも圧倒的に出玉力が違う! これで魔族を虜にし依存させ、最後には魔族の国までをもむしり取る予定だ…… ふははっ!」


 …………


「どうした、怖じ気づいたか勇者ハルよ? なぁに、今は試作段階だ、勝負はこの五百枚のメダルを誰が一番増やすか競うだけ、簡単な話ではないか!」


「おい勇者! さっさとやろうぜ! 復讐の時間だ!」


 ……いや、結局スロットだよね? 新台ってこと? ……カイヅが早く打ちたそうにメダルを手でジャラジャラしているのが何だかムカつく。


「ふっ、勇者は初心者のようだな、この右側にあるメダルの投入口に三枚メダルを入れると一回転だ、あとはリールを回しボタンで止めるだけ、簡単な話だ」


 うん……


「では勝負だ!! 勇者ハルよ!」


 うん…… 二人共、目の前の台に興味津々で俺の方を全く見てないけどね。


 えーっと…… 一、ニ、三枚、と入れて…… めんどくさいなぁ。


「ふははっ! そんな入れ方では日が暮れてしまうぞ!」


「ちっ、これだから素人は……」


 メダルを束にしてスルスル入れてる…… うわぁ、凄いね! ……何の役に立つかは知らんけど。


「おおっ! これはチャンスの演出!」


「マジかよ、トゥネッガーさん! あちぃー!」


 二人で盛り上がってる…… 何が楽しいんだろう、はぁ……


《ほう…… これがこの時代のギャンブルでございますか》


 あっ、アナ…… 一応戦闘だから出てきたのか。


《そうでございます…… なるほど、スロットマシンも進化しているのでございますね、四百年前はレバーを引くだけでございましたのに》


 アナ、詳しいんだな、やった事あるの?


《はい、先代の勇者様を操り…… ではなくアドバイスしながら少々》


 操り、って聞こえたけど気のせいだよね?


『先代の勇者様の能力を逆に利用してちょっかい出して、カジノに入り浸らせたのはあんたでしょ? あの時は旅が大幅に遅れて大変な目にあったわ……』


《いえ、あれも人間社会の勉強のためでございます、先代の勇者様もあれから二度とカジノには立ち寄らなかったではございませんか》


『あんたが朝から晩までカジノに連れてくからトラウマになったのよ!』


《あの程度でトラウマとは…… 情けない勇者様でございました》


『あの程度って…… 負け過ぎて装備を全部売り払った上にパンツ一丁で聖剣背負ったままカジノに無理矢理連れて行かれたら誰だってトラウマになるわよ!』


《はぁ、情けない…… 私の言う通りもう少し賭けていればもっといい装備が手に入って旅が楽になりましたのに、怖じ気づいてリンクを無理矢理切るからそうなったんでございます》


『必死にモンスターを倒して貯めたお金が三十分しないうちにゼロになりかけたら誰だって怖じ気づくわよ……』


 アナ…… お前もあっち側の人間か、見てみろ、画面をかぶり付くように見ながら取り憑かれたようにスロットを打つ二人を…… カスみたいだろ?


《はい、非常に見苦しいですね》


 だろ? さっさと終わらせて次に行きたいんだよ。


《では、ここは私に任せてもらえないでしょうか? すぐにケリをつけて差し上げます》


 ……えっ?


《幸いハル様が先ほどレベル3になりましたので、十分ほどなら私がハル様にリンクする事が可能になったのでございます》


 リンクって?


《ちょちょっと身体を操るだけでございます、心配しなくても大丈夫でございます、優しくしますので》


 なんかその言い方ヤダなぁ…… 


「ええい! 凄熱と出たではないか!」


「クソッ! 外した…… どうしてだよぉぉっ!!」


 でも、周りに俺達とカス二人しかいないはずなのにざわざわうるさいし、色々と何かちょっと違うのが気になるから…… アナ、任せた。


《かしこまりました、ふふっ、久しぶりでございますね……》


 うぅっ! ……身体が動かない! いや、動いてるけど俺の意思ではないから変な気分。


 ……アナ、メダルを入れる手つきが違うね、さすが。

 何でスタートボタンとかレバーを何度も叩くの? 一回触ればリールが回るんでしょ?


 しかもレバーの叩き方が毎回違う…… 


《レバーオンには百ある奥義を色々使っております》


 奥義!? レバーを叩くのに使う奥義なんてあるの!? 


《いえ、所詮は確率、気持ちの問題でございます》


 そ、そっかぁ……


『普段は冷静で堅実な子なのに、ギャンブルになると変なジンクスを持ち出すのよね、アナって……』


 なぁ聖剣、大丈夫なの? アナが俺の脳内に居て。


『うーん…… カジノにさえ近付かなければ大丈夫よ、きっと』


 適当だなぁ…… んっ?


《来ました、チャンスでございます、さて…… 叩き所でございますね》


 高々と腕を上げ…… 一気に下ろしたぁぁっ!! 


 うわっ! 画面がピカピカ光って…… 当たりって出たよ!? すげぇ……


《ふふっ、まだまだ腕は衰えてはいませんでしたね…… ハル様、当たりでございます》


「な、なにぃぃっ!!」


「マジかよ! トゥネッガーさん、こっちはもうメダルがなくなるぞ!?」 


「も、もう五百枚追加だ! 当たりが二回くれば勝てる!」


「さすがトゥネッガーさんだ! 俺も追加するぜ!」


 ……まだやるの? 


『ハルはもうやらなくてもいいんじゃない?』


 そうするか…… じゃああっちで座って待ってますね?


「ハルちゃんお疲れ様、ママが膝枕してあげるからゆっくり休んでてね? うふふっ」


 そして、母に膝枕してもらいながらしばらく待っていたが、トゥネッガーとカイヅは更にメダルを五百枚追加し、取り憑かれたように打ち続けていた。


「三回…… いや、四回当たれば勝てる!」


「ちっ! 連チャンしなかったか…… 次だ、次!!」


 自分達が虜になって依存してるんじゃダメだろ……


「村長さーん! こっちの扉が開いてますよー?」


「何!?」


 開いてるなら勝負の結果を待たなくてもよくね?


「あらあら、じゃあもう先に進んでいいんじゃないの?」


「うむ、コイツらを待っている時間が惜しい、先に進むぞ」


 うん…… あのー、先に行きますよ? いいんですか? ……スロットに夢中で聞いてないな、カスはほっとくか。


 


 みんな、ああはなりたくないだろ? ギャンブルはほどほどにするんだぞ、勇者との約束だからな!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る