久しぶりに来たなぁ、出ないけど

「勇者様ー! 我々をお救い下さい!」


 おぉ、久しぶりに来たなぁ、出ないけど。


「勇者様! 我々の村が魔族に支配されてしまいました、どうか勇者様の力で取り戻して頂きたいのです!」


 えーっと…… 村の名前は?


「えっ…… キッチーク村ですが……」


 キッチーク村ね…… なになに? 表向きは隣の村と合併したと見せかけて、実は隣のオンワ村を支配し住人を奴隷として売り捌こうとした所、魔王直属の騎士隊に制圧されたと…… 


「ち、違うのです! オンワ村は魔族と繋がっていると噂があり、我々は正義のために……」


「邪魔よ、オラァッ!!」


「クズでございますね、はぁっ!」


「ぎゃひぃっ!! ……」


 凄い音がしたけど大丈夫? 手伝う気はないから大人しく帰ってね?


『はぁぁ…… どうしてあんな奴らばかり来るのかしら?』


《そうでございますね、自分達が悪いから頼れる人がいないんでしょう》


 おっ、居たのかよ、静かだから寝てるのかと思った。


『ハルって鈍感よね』


《はい、驚くほど鈍感でございますね》


 何だよ…… また悪口か? いじけちゃうぞ?


『まったく、別に困ってる訳じゃないからいいんだけど』


《でもここまで気付かないのも不思議でございます》


 さっきから何の話をしてるんだよ。


「おーい、勇者ー!」


 んー? 今度はクレアさんか? はーい、何か用?


「ちょっと聞きたいんだけど、この辺で良いモンスターの狩り場ないか?」


 あー、隣の村の近くにあるドラゴンが出る山は結構良い素材が取れるモンスターがいるらしいけど。


「そうか! じゃあレオと行ってくるかなー?」


 気を付けてねー。


 あれからクレアさんとレオくんは、バッドステータスを母の加護で本当に緩和されるのかを様子見するために、この村に滞在している。


 特に悪影響もなく調子が良いみたいで、暇を持て余したクレアさんが、ちょくちょくレオくんを連れて村の外にモンスター狩りをしに行っているみたいだ。


 猟師の兄ちゃんが住んでいた家をギェンさんが改装し、中も外も新築のように綺麗したので、そこを宿代わりにしているみたいだが、インテリアなどを雑貨屋で取り寄せたりとかしているので、本格的に住むか別荘にでもするつもりなんだろう。


 二人ともモンスターの素材をミミさんの雑貨屋に置いている転送装置で売ったりしてお金を得ているので生活にも困ってないしな。


『ハルはモンスター狩りに行かなくていいの?』


 俺はいいよ、クレアさん達が狩っているモンスターなんて倒せないし、足手まといになるだけだよ。


『うーん、確かにハルのレベルには合ってない場所だしね、安全第一でいかないと』


 おっ? 前は『少しくらい苦労しないといざという時困る』みたいな事を言ってたのに。


『何だか最近、下らない理由で勇者に助けを求める輩しか来ないから、もういいかなぁって思い始めたのよ』


 そうか! じゃあもう週三回のモンスター狩りもしなくていいんだな?


『それくらいはしなさいよ…… 村長との約束でしょ?』


 うっ…… 村長の名前を出されると何も言えなくなっちゃう。

 分かったよ、少しずつでもモンスターと戦ってレベル上げするから。


『じゃあ次はいつもと違うモンスターと戦ってみましょうか、同じモンスターばかりと戦ってても成長しないからね』


 えぇー!? 怖ーい! 怪我したくなーい!


『情けない声を出さない! いざとなればマリーや私達もいるし、今のハルなら大丈夫よ』


 そうかなぁ? うーん…… ま、それならいいか、どうせ嫌だと言っても戦わされるんだろうし。


『……ふふっ、ハルも少しずつ成長してるわね』


 何か言ったか?


『何でもないわ、ふふふっ』


 

 ◇



「おっ、あの頭に輪っかのような模様があるモンスター…… エンゼルゴリラじゃないか?」


「そうですね、近付き過ぎて掴まれると厄介ですから距離を取って戦いましょ……」


「うーん、えい!! わぁーい! 倒しちゃいましたー! 綺麗な花火ですー!」


「お、おい! 魔法で爆発させるな! 素材が取れなくなるだろ!? レオ、なんでコイツを連れてきたんだよ」


「だって仕方ないじゃないですか! 危ないから連れて行けないって言ってるのに、勝手に付いてくるんですもん!」


「おいルナ、仕事の邪魔するなら帰れ」


「うぅ…… ひどいですぅ、お手伝いしたかっただけなのに……」


「わぁぁ! な、泣くなよ、ありがとうルナ、助かったよ!」


「えへへっ、じゃあ頑張りますね!」


「……はぁ、じゃあ次は爆発させるなよ?」


「はぁーい! あっ、またモンスターさんです! えーい!」


「コラーっ!! 爆発させるなって言ったばかりだろー!!」



 ◇



 ……よし! 勝った。

 しかし格闘ゲームって難しいな、ランクが上がるにつれてどんどん相手が強くなっていく。

 同じキャラクターでも使う人によって戦い方が違うし、攻撃のパターンなんかもコロコロ変わるし、一戦一戦見極めながら戦わなきゃいけないのが大変だ。

 でも面白くて止められないんだよなぁ。


 おっ、視聴者の皆も褒めてくれているな、ありがとう。


《さすがハル様、ゲームはお上手でございますね》


 ゲームは、ってなんだよ、あれ? そういえば聖剣は?


《……どこに行ったんでございましょうね、ハル様、新しい対戦相手でございますよ?》


 おっ? 『プラチナムソード ソフィ』って名前の対戦相手か…… これは拗らせちゃった少年が考えそうな名前だな。 


《……ぷふっ!!》


 しかも使うキャラクターが一撃が強力なタイプのやつ、俺TUEEE! したいタイプと見た。


《ぷひゅーっ!! くっ、ふふふっ、ハル様、笑わせないで下さい》


 笑うような所あったか? ……さて、勝負だ少年!


 まずは様子見で飛び道具を使って…… こいつ待つタイプか? めんどくさいな。


《向こうもどう攻めようか迷ってるようでございますね》


 攻めるか待つか、とりあえず攻めてみるか…… うわっ、投げられた! えっ、ちょ、待って! 一旦距離をおいて…… あっ! ラッシュで一気に壁まで…… ガード、間に合わ…… あっ。


《さすがでございますね……》


 クソッ! 次は迷わず攻めるぞ! このガキ、ゲーマーの力を見せてやる!


 ……あっ、今度は徹底的に待つつもりか? 卑怯だぞ! 痛っ、やめろ! くっ、あぁっ! 


《かなりやり込んでるようでございますね》


 もう一戦だ! 次から本気を出す!


《ハル様、頑張って下さい》




 ◇



「おい、あれはドラゴンじゃないか?」


「この山の主、ですかね?」


「ド派手に音を立ててたら気付かれるよなぁ…… おいルナ!」


「ご、ごめんなさい……」


「仕方ない、隠れながら山を下るぞ? レオ、匂い消しの道具を出して……」


「ドラゴンさーん! ごめんなさーい!」


「うわぁぁぁっ!! ルナがデッカくなっちゃった!」


「許して下さーい! ……って、ドラゴンさん? 小鳥さんみたいです、えい! 捕まえましたー!」


「おぉーい!! ドラゴンはまっ○○くろ○けじゃないんだぞ! 両手でペシッと捕まえるなー!!」


「は、ははっ…… ルナちゃんを見たら、命がけで冒険者をやってるのがバカらしくなってきますね……」


「ああ……」


「わーい! わーい!」



 ◇



「お父さーん! お母さーん! うぅぅっ」


「僕? 何かあったの?」


「お父さんとお母さんが村を守るために……」


「そう…… 僕はこれからどうするの? 行くところはあるの?」


「ううん、ない……」


「かわいそうに…… このままここに居ても住む所ないんでしょ? もし良かったらお姉さん達の住む所に来ない?」


「でも……」


「ご飯も食べられないかもしれないわよ? お姉さん達と一緒に居ればご飯も食べさせてあげられるわ」


「……お姉さん達に付いていく」


「うふっ、じゃあ行きましょ?」

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