そりゃ効果あるだろ、母だぞ?

 外が騒がしい…… 何かあったのか?


「んっ、もう! せっかく良い所だったのにぃ」


 いや、俺としては助かったけどね? 母のぺぇに顔を埋めるのが眼精疲労に効くとは思えなかったから。


「そうかしら? ハルちゃん、ママの顔をよーく見てみて?」


 んー? 二十八歳には見えない可愛らしい顔だけど…… 心なしか目の疲れが取れたような気がする!


「うふふっ、でしょ? ママの愛の力は眼精疲労にも効くのよ」


『またベタベタして…… そういうのプラシーボ効果って言うんだっけ?』


「違いますー! ハルちゃんにだけ効く私の癒しの力なんですー!」


『あっそ』


 きっとゲームのし過ぎだな、格闘ゲームでついついムキになってしまった。

 でも母のおかげで目の疲れや肩こり、腰痛にまで効いてきたような気がする。


『ふーん、マリーの愛って万能なのね、本当に効果があるかは知らないけど』


 そりゃ効果あるだろ、母だぞ?


『当然かのように言われても困るわ…… ねぇ、とにかく外を見に行かない? 皆、大騒ぎしてるわよ? 凄く気になるわ』


 確かにうるさいくらい騒がしいな、仕方ない、見に行くか。


「ママも行くから待ってぇ」


 はいはい、手伝うから早く着てね。

 




 うぇぇっ!? なんじゃこりゃー!!


 村の皆が集まっている方に行ってみると、硬そうな皮膚に大きな翼、尻尾はトゲトゲして長く、口は鋭く尖った歯がたくさん生えているモンスターの死体が村の広場にどんと置かれていた。


『グレイドラゴンよ…… しかも普通の個体より大きいわね』


 ドラゴン!? めちゃくちゃ危険だから討伐するのも大変で、国の軍隊で挑んでもやっと倒せるかどうかっていう、あのドラゴンか!?


『うーん、人間の軍隊が今、どれくらい強いかは知らないけど、でも先代の勇者も苦戦するくらいは強かったはずよ?』


 ほぇー、先代の勇者様って本当に強かったんだな、死んでるとはいえこんな怖いモンスターを間近で見たら、戦う事を想像するだけで漏らしちゃいそう。


『空を飛び回って攻撃してくるから倒すのは大変なはず、一体誰がドラゴンを運んできたのかしら、もしかして村の誰かが討伐したの?』


「よぉ、勇者……」


 クレアさんか、そんな疲れた顔をしてどうしたの?


「ルナのせいでどっと疲れたよ、コイツを狩ったのもルナだ…… あれは狩りと言っていいのか分からないけど」


 ルナ? どうしてアイツが狩りをしに行ってるんだ?


「知らないよ、レオが言うには勝手に付いてきたらしいけど、アイツの魔法はめちゃくちゃだ、ある意味チートだよ」


 クレアさん分かるよ、その気持ち。


「えへへー! 私、なんかやっちゃったみたいですー!」


 ルナ…… 主人公みたいな事言ってるな。


「デュフゥゥ! こんなに綺麗な状態で討伐したドラゴンなんて見た事ない! 解体して素材を売れば大金になりますよ!」


「うーん、私は魔法を撃てて満足なので、大金なんていらないです、この村のために使って欲しいです」

 

「デュフェェ!? そ、そんな大金をいらないなんて、もったいない!」


「あとはクレアさん達に任せますー、私は疲れて眠いので帰りますねー」


 ルナ、どんだけ魔法狂なんだよ…… 


「ク、クレアさん! このドラゴンの素材は……」


「あー、ルナが村のために使えって言うならそうすればいいんじゃないか? 私達は一切手を出してないから素材を売る権利はないよ」


「ノォォォッ!! ミ、ミミたん、私はどうすれば……」


「とりあえず解体して売り捌こうぜ、それから考えればいいだろ?」


「ミミたんがそう言うなら……」


「あっ、肉は少し残して村の皆で焼き肉パーティーしようぜ! ……ドラゴンの肉って色々元気になるんだろ?」


「わ、分かったよ、それじゃあ作業を始めるよ…… あぁ、手が震えるぅぅ!」


 トルセイヌさんですら震えるくらいの素材が取れるって事か。

 

「うふふっ、ドラゴンのお肉楽しみねぇ」


 うん、どんな味がするんだろう。


「あっ、勇者、そういえば山に行く途中の村で聞いたんだけど、最近山の向こう側の村が魔族の進攻で壊滅したらしいぞ」


 えっ!? 山の向こう側って言っても、ここら辺は王都からはかなり離れてるし、魔族との国境とも離れてる最果てのど田舎だぞ? 何で魔族がこんな所を……


「だよな、だから少し怪しい話だなと思って報告しておいた」


 俺じゃなくて村長とかに言えばいいじゃん。


「お前、一応勇者だろうが……」


 いやいや、レベル4の勇者なんてゴミみたいなもんだよ、戦力にならないから。


「自分でそんな事を言って悲しくならないのか?」


 ううん、だって家から出たくないし、戦いたくないし。


「はぁ…… やる気のない勇者にチート魔法使い、不思議な力を持つ聖母、ムキムキで強い村長、そんな村長のパートナーは神の使いと呼ばれた元聖女か…… 本当に変な村だよ、まあ良い所だから私達も本格的に移住するつもりだけど」


 やっぱり住むつもりなんだ、いざとなればミミさんの店で色々手に入るし、生活には困らないんだよな、この村。


「とにかく伝えたからな! まったく、魔王はあんなに慕われてたのに……」


『ちょっと待って! そういえばあなた、魔王と会った事あるのよね? 今の魔王ってどんな……』


「おっと、一応依頼主のプライバシーは守らないといけないから話せないぞ?」


『そう…… でも、何か企んでいる様子はないわよね? あなたも人間、もし魔族とまた戦争になったら大変な事になるわよ?』


「一つだけ言えるとすれば、人間から見た勇者よりも勇者らしい事をしてたかな? わははっ」


『…………』


「もし戦争になっても、私は私が力になりたいと思う方に付くつもりだ、人間とか魔族とかは関係ない」


『……そう、よね』


「だろ? 勇者」


 んー、そうだなぁ…… この村の人達が平和に暮らせるならどっちの味方でもいいけど、家から出ないで済むのが一番だな!


「ははっ! 私もこの村が攻撃されるような事があれば力を貸すよ、ただ…… この村に喧嘩を売るなんてバカがいればの話だがな?」


 いざとなったらルナに暴れてもらうか。


「それが一番かもな! アイツならニコニコしながら魔法をぶっ放しそうだ、わははっ」


 そんな事にならないのが一番なんだけどな。


『時代は違う、でも勇者と魔王が生まれたという事は……』


 聖剣、不吉な事を言うなよ。


 おっ、解体が進んでる…… ドラゴンの鱗か、丈夫そうだな、良い装備が作れそうな素材だな。


 さて、ドラゴンの焼き肉まではまだまだかかりそうだから一旦家に帰るかな。


『今の時代の魔王…… どんな人なのかしら? 会って話をしてみたくなってきたわ』


 俺はあまり会いたくないな、勝負しようとか言われたら負ける自信しかないし。


『情けないわね…… そうならないのを願うしかないわ』


 

 ◇



「ここが勇者の住む村か」


「はい、ですが勇者は力を貸してくれるどころか、村から出ようという気もないみたいです」


「ふん、情けない…… まあ我々の話を聞けば嫌でも出てくるだろう、なんたって魔王が攻めてきたのだからな」


「……そうですね、きっと勇者なら」


「あのー、どちら様ですかー?」


「子供? なぜ子供がこんな所にいる」


「魔法の研究をしていたら怪しいおじさん達がいたから付けてきましたー」


「我々は怪しい者ではないぞ? 山の向こう側にある村に住む者で、魔族に村を壊滅させられたので勇者様に助けを求めに来たのだ」


「へぇー! そうなんですかー、勇者さんならお家にいると思いますよー」


「そうか、悪いがお嬢ちゃん、勇者様の家に案内して貰えるかい?」


「いいですよー、でも…… えい!」


「ぐ、ぎ、あぁぁ、な、何を、する!」


「嘘つきの怪しいおじさんは拘束して、尋問するのが先ですー」




 


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