卑怯な真似しやがって!
「うぇぇっ!? なんであっちのパーティーまで来るのよ!」
「完璧に僕達だけを狙ってるね」
やっぱりそうか、あのビ○チ…… じゃなくて聖女め! 卑怯な真似しやがって!
『ハル達の配信を見て攻めに来ている訳ではないのが唯一の救いね』
ゴースティングまでしたら視聴者にこの茶番がバレるだろう、聖女もなかなか考えてるな。
「とにかく退くわよ! ああ、もう!」
「少しアイテムが不足してきたね、周辺を漁ろうか」
回復に弾も足りない、はぁ、いつも以上に集中しているから疲れる。
さすがにプレイヤー全部が聖女の手下じゃないから、ゆっくりだがプレイヤー数は減っている、だがそれにしても減りが遅い、何組のパーティーが聖女の味方なんだ? 味方ではないが俺達だけに敵対する奴らよりはマシだから、ちゃんと見極めないと最終的に厳しくなる。
「僕は補給完了したよ」
「こっちもオッケー」
俺も…… この場所ではこんなもんか。
あとは倒した敵から奪い取ろう。
慎重に索敵しながら狭くなっていくエリア入る、すると聖女の手下らしきパーティーが三組ほど固まって建物内にいた。
普通なら撃ち合いになる距離なのに銃声がしないから間違いないだろう。
「どうする? あれを突破しないと最終エリアに入るのは厳しいね」
「でも三組…… 九人相手にするのもさすがに厳しいわよ?」
うーん、誰か来て潰し合ってくれれば一番いいんだけど…… 近くにはいないか。
『ねぇ、危険だけど、一旦エリア外に出て、右に大きく迂回すれば気付かれないんじゃない?』
エリア外に出れば少しずつダメージを受ける、だけどあいつらを相手にするよりいいか。
アイテム、足りるかなぁ?
「仕方ない、そうしよう」
「裏に回れば別のパーティーがいるかもしれないしね、混戦になった方がまだ楽よ」
その作戦でいくか…… よし!
敵がいないか慎重になりつつもエリア外から大回りして敵の裏をつく、そうしてる間にもパーティーが一組、また一組と減っていく。
無事誰にも遭遇せずにエリアに入って体勢を整える、そして最終エリア……
「撃ち合いが始まった! 僕達も行くよ!」
「オッケー! 暴れるわよ!」
『ハル、みんな、頑張って!』
よーし、やるか!
建物の陰に隠れ射線を気にしながら攻撃、こちらもダメージを受けるが次々と敵を倒していった。
そして残り三組、誰が先に動くか……
「……動いた!」
「手りゅう弾投げるわ!」
俺も敵が来そうな所に投げてから…… 突っ込む!
俺の役割は乱射しながら突っ込み敵をかく乱、あとは二人が上手くやってくれるはず!
よし、一人やった! あと何人だ!? もう一人…… うわっ、相討ちか! あとは頼んだ!
『ああっ! あと一組! 左の箱の裏に隠れてる!』
聖剣も熱が入ってる、大声を出すたびにピカピカ光るのは止めて欲しいが。
「ごめん! やられた!」
あとはリーダー! 勝ってくれー!!
「…………ああっ!?」
うわ…… リーダーが撃ち負けた…… 俺達、二位か。
『あっ…… あっ…… ハル達が負けた…… ハルがあのビ○チと一日デート…… あんなことやこんなこと…… ああ、勇者がぁ……』
お、俺の貞操が…… 聖女に…… でも、心までは奪われないからな! 巷では心さえ奪われなければ何でもオッケーらしいからな! あっ、あと純愛とか付けてれば。
「あれ? ……これ、『たくあん』のパーティーじゃない?」
んっ? たくあんって、今ソロプレミアムチャレンジしている配信者の…… って事は……
『やった! やったわ! ハルの貞操の勝利よ! 良かったわねハル! 童貞奪われなくて済んで!』
ど、ど、童貞ちゃうわ!! ……今、リビングからものすごい音が聞こえたけど大丈夫か?
『見栄張らなくても聖剣の力でお見通しだから大丈夫よ! 自信を持って!』
お前ーーー!! 配信中になんつー事、暴露してんだよ!
「ぷふっ…… ドンマイ」
「ふ、ふーん、ハルって童貞だったんだ、ぷぷぷっ」
あぁぁぁーー!! ほら、コメント欄もみんな笑ってるよ…… んっ? みんな、仲間か? うぅぅ…… 友よ!
ちなみに優勝したたくあん達だが、『見ず知らずの勇者とのデート券なんていらない』と言われ、それはそれでちょっぴり傷付いた。
◇
「あなた達、なんで負けてるんですかー!! 集中できるようにわたくし自ら邪な欲望を払ってあげましたのに! ……んっ? 配信中に誰かしら…… 何ですかあなた達? えぇっ!? 奥さん? 彼女? 嫌っ! 痛い! やめて下さい! わたくし聖女ですよ? 『そんなの関係ねー』? あぁっ…… ごめんなさい! ごめんなさい! いやぁぁぁぁっ!!」
◇
叫び声? 朝から外が賑やかだなぁ……
『ハル、窓から外を見てみなさいよ』
……見なくても大体分かるよ。
昨日の配信、全世界に流れてたから、聖女が村人を魔法で魅了し賢者にしていた事、教会を利用して俺を引っ張り出そうとした事が全部バレた。
聖女はホーリー○○ト教会から追放された上に、手を出した村人の奥さんや彼女にボコボコにされた…… というか、今現在もやられてる。
木の幹に身体を縄でぐるぐると固定され、目の前には『ビ○チ!』『性女!』『ヤリ○ン注意!』など立て札が立てられ、女の人達に罵られている。
「ちょっと! わたくしはヤリ○ンじゃないです! 未使用の新品ですから! 使ったら聖女の力が失くなるじゃないですか! だから縄をほどいて下さい!」
力が失くなる? 本当なのか?
『そうね…… 一応、清らかな乙女じゃないと駄目だったはず』
じゃあどうやって村人を賢者に?
『バ、バカ! 私の口から言える訳ないじゃない!!』
……ふーん、まぁどうでもいいけどね。
「聖女なんてお呼びじゃないのよ! この村には…… 『聖母様』がいるんだから!」
んんっ!? 聖母が居るなんて聞いた事ないぞ?
「聖母様! このヤリ○ンビ○チに裁きを!!」
聖母もそこにいるの? ちょっと気になるから窓から覗いてみるか…… って、母!? 母が聖母ってどういう事!?
「うふふっ、私は別にどうでもいいんだけどぉ…… ハルちゃんに手を出そうとしたのは万死に値するわねぇ、うふふっ、うふふふっ……」
母! 闇の力に飲まれそうになってますよ!?
「な、何が聖母ですか! この人だって子持ちなんだったら、ヤる事ヤってるはずです!」
いや、俺拾われた子だから…… でも、母が聖なる経験があるのかは知らない、知りたくもない。
「このお方はなぁ! 清らかなまま子を授かった神の使いなんだ!」
な、何だってーー!!
「そ、そんな訳ないでしょ! ○○○《ピー》を○○○《ピー》して○○○《ピー》しないと赤ちゃんがデキる訳……」
「うふふっ、愛よ…… 愛があればデキちゃうの…… そんな私の愛の結晶がハルちゃんなの…… そんなハルちゃんを穢そうとするビ○チは……」
「ひぃっ! ひぃぃぃぃっ!!」
「はぁっ!!!」
うわっ! 眩しい! ……聖剣並みにうちの母が光輝いている!!
「あっ…… あぁぁ……」
「うふふっ、久しぶりに力を使ったわぁ、これであなたには『ハルちゃんや村人にいやらしい事をしようとするとアホになる』という加護を得たわ、感謝しなさい」
あんなに神々しい光を放っておいて、意外とショボい加護だな、おい。
『な、なんて恐ろしい加護を! さすがマリー…… 力の大半を失ったと聞いていたけどなかなかやるわね、私も負けてられないわ!』
いやいや、張り合うな。
村の人達も『ありがたやー』とか言ってうちの母を崇めないで! これからどうやって村の中を歩けばいいんだよ! ますます家から出る訳にはいかなくなったな。
それにしても…… 色々と謎が多いうちの母の謎がまた一つ増えちゃったよ。
その後、行き場を失くした聖女は反省をして、村の外れに住む事を許されたのだが、時々アホになって踊り狂っている姿を目撃されるようになった。
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