あっ、そういうの間に合ってるんで

「勇者様ぁ、わたくしと一緒に世界を救済し……」


 あっ、そういうの間に合ってるんで。


「ゆ、勇者様!? 勇者様ぁぁぁ!!」


 勇者、勇者うるさいなぁ…… 俺は今、最高にハイってやつなんだよ。


『今度は誰? 女の人だったみたいだけど』


 知らん、きっと勧誘とかだろ? 修道服着てたし。

 とりあえず忙しいから断っておいた。


『ちゃんと話を聞かないとダメじゃない! 世界の危機かもしれないのよ!?』


 世界の危機? それならあんなに胸元の開いた服で来ないだろ、修道服を何だと思ってんだあの女。


『世界…… というより、ハルの貞操の危機だったのかも』


 はっ! あんな寄せてあげての見せかけ…… こちとら天然物を毎日のように見せつけられてんだぞ!? 母の。


『それもそれで危ないわよ…… 本当、どういう教育してるのかしら』


 赤ん坊の時から見せてたものを隠す方がおかしい、って本人は昔から言ってたけどな。


『はぁぁ…… 世も末ね』


 聖剣が活躍して、ヒャッハーしてた時代の方が末だろ。


『うっ、それは一理あるわね…… ところで今日は何してるのよ』


 んっ? あぁ、今流行ってるらしい果物を二つくっつけて大きくしていくゲームだ。

 一応触っておこうかと思ったんだが、こんなのの何が面白いんだか分からないな。


『とかいって、もう四時間近くやってるわよ?』


 な、なにぃぃぃ!? マジか、いつの間にかハイになって…… 時が奪われるなんて、新手の攻撃か!?


『……攻撃もなにも、ただずーっとゲームしてただけよ、まったく』


 そういうお前も俺のプレイをずーっと見てただけ、だけどな、まったく。


『ま、またそうやって私をバカにして…… うぅぅっ』


 うっ! な、泣くな! 悪かった! 俺が全面的に悪かったから! うわぁぁっ、眩し……


「ハルちゃーん、お客さんよぉー」


 お客さん来たから! ごめんって! 許して、ね? ね?


 母に呼ばれ逃げるように玄関まで行くと…… 村の猟師の兄ちゃんじゃないか、何の用だ? 


「……聖女様がお前を呼んでる」


 いつもなら気さくに話しかけてくる兄ちゃんのはずなのに、今日は妙にスッキリと、何やら悟りを開いたような落ち着いた雰囲気がする…… ちょっと不気味だな。


「フフッ、勇者様ぁ? やっと出てきてくれましたねぇ」


 修道服を着た金髪の美女…… 少し幼さが残る整った顔に、妙に色気がある。

 しかも修道服の胸元は横向きの大きめな楕円形でくり貫かれたように穴が開いていて、胸の谷間が丸見えに…… こいつ本当に聖女か?


「わたくし聖女のレーナと申します、さあわたくしと世界の平和のために今こそ立ち上がりましょう」


 ……間に合ってるんで結構です。


「あぁん、また!? ちょっと、勇者様ぁぁぁ!」


 ふぅ…… 用件ないなら来るな、何が世界の平和だよ、わざと谷間を作って媚びるような目で俺を見るな! 特に下の方ばっかり見やがって…… あれっ? うちの母もたまに下の方を飢えた獣のような目で見ているような…… うっ、頭が! いかんいかん、考え過ぎは良くない。


「ハルちゃん、何あの女…… ダメよ、あんなビ○チと仲良くしちゃ!」


 むぐぐっ! 仲良くなんてしてな…… ハイ! 分かりました! 分かりましたから! あぁ、母の大きな愛(パイ)で窒息しそう……

 

 ◇


『聖女? とんでもない女ね! ああ、また一人賢者に……』


 母から解放され、果物ゲームの続きをしているんだが、聖剣さんの独り言がうるさい。


『あぁっ! 二人同時!? あんな女、聖女なんかじゃない! 性…… ハル、今うるさいって言った? 言ったわよね!!』


 はいはい、言いましたよー。


『あんたのために私が力を使ってあのビ○チを探ってたのに! そんな私をうるさいですって!?』


 い、いちいち光るな!! 眩しいし近所迷惑だ! ……お前まであの聖女をビ○チ呼ばわりか、見た目は間違ってないけど。


『見た目だけじゃなくてあの女、中身もビ○チよ! 猟師のお兄さんもだけど、村の若い男性と…… あんなことやこんなことを……』


 あんなことやこんなこと? それを叶えてくれるならいい人なんじゃない? きっと未来から来たんだよ。


『そんな訳ないでしょ! とにかく、あの女に近付いたらダメ! 勇者として穢れてしまうわ』


 ふーん…… 別に好みじゃないし。

 俺の好みは、黒髪で胸と尻が大きくて、いつも子供のように甘やかしてくれる…… あ、あれ? おかしい、なんでこんな無意識にスラスラと出てくるんだ? 


「うふふっ、毎日毎日睡眠学習をしたおかげね」


 母!? 今、母の声が聞こえたよね!?

 

『マリーは買い物に行ってるわよ、空耳じゃない?』


 と、とにかく! 俺は絶対あの女となんて関わるつもりはないからな!


『それならいいわ…… あーあ、また一人、賢者にされちゃった』


 ところでさっきから言ってる賢者って何?


『ハ、ハルは知らなくていいのよ! バカ!』


 じゃあ聞こえるように独り言を言わないでくれ。


 おっ、そろそろリーダーとブロッサムとのゲーム配信の待ち合わせ時間だ、準備しないと。


 オウマ:やあ


 ブロッサム:おつかれ


 ハル:よろ


 さて、通話を繋いで…… おつかれリーダー、ブロッサム。


「やあ、ずっと果物ゲームやってたみたいだね?」


 時間が溶けてなくなった感じだわ、あれは沼だ。


「分かる、あたしもハマっちゃった」


「ははっ、僕もやってみようかな?」


 ああ、落ち着くわぁ…… 気心の知れた仲間との会話、最近変な奴に絡まれてすり減ったHPが回復していく。


『お疲れ様! 今日も見させてもらうわ』


「聖剣ちゃん、おつかれー、また指示よろしく」


「聖剣ちゃんのおかげで生存率上がってるから、頼りにしてるよ」


『任せておきなさい! さぁ、ハル、早くゲームを起動しないと!』


 またうるさくなるだろうなぁ…… 指示だけならいいけど、時々思い出したかのように勇者、勇者言い出すからな。


 さて、今日も始めますか……













「フフッ、勇者様…… わたくしと共に世界を救いましょう? そして浄化された素晴らしい世界に…… そのためにわたくしは聖女として、男性の欲望の解放をお手伝いし、勇者様には女性の欲望を…… ああ、素晴らしいです!!」


 そのためには、賢者さん達? しっかりとお願いしますね? フフフッ













 何か今日、敵が強くない? 内部レート上がったとか…… そんなお知らせなかったはずだよなぁ。


「今日はフルパが多い感じがするね」


「しかも皆しっかり連携取れてる…… ちょっとめんどいかも」


 時間帯かもしれないが、難易度が上がった方が盛り上がる! よし、やってやるぜ!


 

 装備を整えると徐々に狭まるエリア内へと移動…… おっと、敵発見! 

 三人パーティーを一人、二人と倒し壊滅させる。


 んっ? プレイヤー名にみんな『Kenja』って付いてる、友達同士か?


 別パ発見! んんっ? また『Kenja』 ……流行ってんのか?


『『Kenja』…… けんじゃ? 賢者って…… ちょっと待って! ……ああっ! ハル! このプレイヤー達、みんな聖女のお手つき…… じゃなくて手下よ!』


 あいつの? でも、何のために……


「これ、相手も生配信してるみたい、この戦いで優勝したら『勇者と一日デート券』が貰えるって盛り上がってるよ?」


 はぁっ!? 何勝手に決めてるんだよ! そんなの無効だ!  無効!


「でも、スポンサーが聖女の所属する国の教会名になってるわ、ほら!」


 ホーリー○○ト教会…… 本当だ、クソっ! 生配信でスボンサー名まで出されたら余計に真実味が出て本当だと思われるじゃないか!


『しかもまだ姿を現さない勇者として有名人だから余計に注目されてるわ、だから早く旅立てって言ったのに!』


 うるさいなぁ! 嫌なもんは嫌なの! こうなったらもう絶対に家から出ないからな! 何が何でも優勝してやる!!


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